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  • 2012/02/15 掲載

【鈴木茂氏インタビュー】身の丈に合った出版活動と経営――話題の本・雑誌を続々と出す版元の底力に迫る(2/2)

アルテスパブリッシング代表 鈴木茂氏インタビュー

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雑誌はフットワークの軽さが楽しい

――アルテスパブリッシングの本って、それほど熱心に音楽を聴かない人でもすらすら読めてしまうものが多い点が、1つの特徴だと思うんです。前提知識をあまり要求されないというか、たとえばクラシックのような一見敷居が高そうなジャンルでも『クラシックでわかる世界史――時代を生きた作曲家、歴史を変えた名曲』(西原稔著)は、「歴史」という切り口で料理されてますよね。

 鈴木氏■音楽のおもしろさ、奥深さみたいなものを、コアなリスナーでない人にも伝えるにはどうすればいいのか、ということは意識しています。それが会社のイメージに結び付いているのかもしれませんけど、ときどき「アルテスらしいね」とか「らしくないね」といわれることがあって、その「らしい/らしくない」ってどういう感じなのか、こちらが詳しくお聞きしたいくらいなんですが(笑)。

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季刊『アルテス』VOL.01

――1つは、人文の香りがするところですよね。2011年11月に初の雑誌として創刊された季刊『アルテス』にも、それは感じられます。

 鈴木氏■人文書的っていうのは、確かにそうですね。なおかつ、あまりハイブロウに行きたくない、敷居の高すぎない本を作りたいっていうのもあります。あと、そうなんですよ、季刊『アルテス』は「アルテスパブリッシングってこういう出版社です」って、僕らのやってることが一望できるメディアが欲しくてつくった面もあります。執筆やインタビューも、ピーター・バラカンさんや片山杜秀さんなどうちで本を出してる人や出す予定の人を中心にお願いしていますから、この雑誌が今後アルテスの“顔”になってくれればいいなと。

 実は、こんな雑誌をつくりたいっていう話も、木村とは10年くらい前からしていたんです。音楽評論家や音楽ライターと呼ばれる人たちがモノを書く場っていうのが、たとえば300字のCDレビューとか、そういうものばかりになってないか。つまり自らテーマを設定して、資料を集めて、長い文章を書く力を養う機会が失われていて、「それってヤバいよね」みたいな危機感が業界内にあると思うんですよ。それともう1つ、「ジャンル無用の音楽言論誌」と謳いましたけれど、ロックとかジャズとかクラシックとかってジャンルを限定せず、広く深くあらゆる音楽の通じるような本質を追究したいという意図もあります。

――創刊号の特集は【3.11と音楽】。2011年7月に行われた岡田暁生さん、吉岡洋さん、三輪眞弘さんによる「3.11 芸術の運命」というシンポジウムを核に、あの震災以降の音楽のあり方について、坂本龍一さんや高橋悠治さんといった方々にインタビューされています。印象深かったのは、「音楽に何ができるのか」という問い、あるいは音楽による「癒し」や「勇気づけ」に対して、みなさん共通して何らかの違和感を覚えてらっしゃることでした。

 鈴木氏■「音楽の力」「音楽の役割」みたいなものの言い方に対する懐疑的な言説っていうのを、これまでメディアでは見たり聞いたりできなかったんです。だから、それってどうなんですか? といろんな方に問いかけてみたんですけど、思った以上にそういう考え方や感覚をみなさん共有されてて、ちょっとびっくりしつつ、嬉しかったですね。佐々木敦さんも、“そもそも「音楽に何ができるのか」という問い自体が無意味である”と書いてくださったり。

――そのあたりでいろんな議論が出てきたことは貴重なんですよね。震災がなければ、誰もそこに深く突っ込まなかったでしょうし。

 鈴木氏■突きつめれば、「音楽とは何か」ということを考える非常に大きなきっかけになったと思うので、僕らも編集していてすごくやりがいを感じました。実は……猪苗代湖ズの『I Love You & I Need You ふくしま』っていう復興支援ソングがあるじゃないですか。僕はどうしてもあの歌を好きになれなくて、それはなぜなのか、僕自身も考えたり社内で話したりしてもよくわからないんですけど、ひとつ思ったのは音楽を何かの手段にしてしまっているように感じるのがいちばん引っかかるのかな~と。そのあたりもあの特集を組もうと考えたきっかけになってます。

――前半部分の特集は、テーマがテーマだけにやや重い話が続きますが、途中からだいぶトーンが変わりますよね。コロンビアのカルナバルから後期バロック音楽の作曲家・テレマン、イスラーム古典音楽に武満徹の電子音楽、果てはジョン・コルトレーンとアルバート・アイラーをモチーフにした小説などなど、おっしゃる通りジャンル無視で時間も国境も飛び越えて。

 鈴木氏■後半は違う雑誌みたいですよね(笑)。特集はたくさんの方から誉めていただいて、それはもちろん非常に嬉しいのですが、僕らの気持ちとしては、メインはレギュラー執筆陣が並ぶ後半なんです。他では読めそうにない、でも書いて欲しい、読みたい、っていう原稿ばかりですから。

――編集後記に「会社と同じく、続けていくことができたら成功」と書いてらっしゃる通り、雑誌であれ書籍であれ、発刊を継続するというのは大変ですよね。かれこれ10年以上も出版不況が叫ばれている一方で、新しい出版社もいくつか立ち上がっています。なかでもアルテスパブリッシングとミシマ社(2006年設立。自由が丘のほがらかな出版社)は、きちんと軌道に乗せてらっしゃる印象を受けます。

 鈴木氏■三島さんの『計画と無計画のあいだ』を読んだら、ミシマ社さんは借金してないというので、すごい。僕らはしっかり借金してますから。それはさておき、「原点回帰の出版社」をはじめとして、人の心をグイッととつかむ言葉を次々に出してるところとか、Webマガジンやフリーペーパーの質や量とかまで、ミシマ社は別格だと思います。三島さんがやってらっしゃることって、いちいちすべて正しいんですよ。でも、「正しい」ことって、実際にはなかなかやれないことが多い。それをちゃんと実行しちゃうから、ほんとにすごい。僕らとはジャンルも会社のカラーもずいぶん違いますけど、だからこそいつも刺激されてます。

――ミシマ社以外で刺激を受けた出版社はありましたか?

 鈴木氏■会社を立ち上げるときに、規模の小さな出版社をいくつか紹介していただいたんですが、まず月曜社(2000年設立。人文社会・芸術関係の書籍を刊行)では「自分で出版社やるとやめられなくなるよ。金には苦労するけどおもしろいよ」って励ましてもらいました。いまのところ、その通りですね(笑)。それからトランスビュー(2001年設立。哲学・思想・宗教・歴史・社会などのジャンルを中心とした書籍を刊行)には流通面、直取引のことで話を伺いました。

――出版社が取次を介さず、直接書店に本を卸す方式ですね。ミシマ社も採用されています。

 鈴木氏■これこそたぶん出版の本来あるべき姿なんですよね。現実にはすべての出版社が直取引に変えちゃったら大変なことになりますけど、せめて委託配本の比率を下げていくようにすれば、業界の構造が変わっていくし、新しい出版社がもっと出てきやすくなるんじゃないかと思います。

――取次の総量規制(※主に大手や老舗の出版社は取次に委託配本した分のお金の一部をいったん受け取れるが、売れ残って返本された分は取次に返金しないといけない。そこで出版社は別の本を刷って取次に卸し、返本分のマイナスを相殺する。取次が配本の総量を規制すると出版社は新刊を卸せなくなり、返金せざるを得ない状況に陥る)など、大手も真っ青な話もありますからね。でも、大砲の打ち合いみたいな配本/返本ができなくなってくるとなると、アルテスパブリッシングのように2000部をカッチリ売っていこうというような出版社にはメリットがありそうですが。

 鈴木氏■そうなってくれるといいんですけどね(笑)。ここ20~30年のあいだにできた出版社って、大手や老舗のような条件では契約できませんよね。要するに、大手や老舗のように納品すればある程度お金が入ってきたりしませんし、僕らのやり方だと、注文をいただかないことにはお店に並べてもらえないので、自ずと丁寧につくって丁寧に売らざるをえないんですよね。もちろん委託制にはメリットもありますけど、お店が注文してない商品が送られてくる業界って他にないんじゃないですか?

――なるほど。そう考えると直取引の健全さというものが際立ちますね。ところで、アルテスパブリッシングの今後の刊行スケジュールは?

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菅付雅信『はじめての編集』

 鈴木氏■宣伝していいんですか(笑)。ちょうど菅付雅信さんの『はじめての編集』という、文字通り編集の入門書が出たところで、こちらはグルーヴィジョンズのデザインにも注目してほしいですね。2月が「よろずエキゾ風物ライター」サラーム海上さんの『21世紀中東音楽ジャーナル』、3月にラ・フォル・ジュルネ公認の『ロシア音楽はじめてブック』、あとは『アルテス』第2号、礒山雅先生ほかの『教養としてのバッハ』、片山杜秀の本5、内田樹さんの道場兼私邸を設計した建築家・光嶋裕介さんの『みんなの家。』、さらにはトルコのピアニスト、ファジル・サイの評伝やロック・バンド、ソウル・フラワー・ユニオンの本などが控えています。

――音楽を基盤としつつ、徐々に守備範囲を広げてらっしゃいますよね。雑誌『アルテス』の第2号も3月に刊行予定で、特集は「Appleと音楽(仮)」となっておりますが、非常にそそります。著作権なり音楽産業の構造の変化なり、いろいろな話ができるんじゃないですか?

 鈴木氏■プレッシャーだなぁ(笑)。特集は正直言って思いつきです。著作権やそれに絡むミュージックビジネスの話はさんざんされているので、それよりは、クラウド化の意味、作曲や音楽を聴くことへの影響、アップルの企業文化とインターネット・カルチャーの違い、といった視点で考えています。

――『アルテス』は、アルテスパブリッシングがはじめて手掛けた雑誌になるわけですが、おつくりになってみていかがでした?

 鈴木氏■「雑誌おもしれえ!」って思いました。1本の原稿が短いので原稿用紙5枚、長くても30枚とかなので、「このテーマなら、あの人かな」とひらめいたら、ひとまず「どうですか?」って連絡してみて、やりとりしながらコンセプトを固めていくっていう作業が、いろんな人とパパッとできるんですよね。

 それと、たとえば坂本龍一さんや高橋悠治さんに「本を書いていただけませんか?」っていうお話を持っていくのは大変なことですけど、インタビューなら引き受けていただけるわけで、そういうフットワークが軽くなる感覚がとっても楽しかったですね。時事的というか、そのときどきのビビッドな話題にも突っ込んでいけますし。

――次号も楽しみにしています。

 鈴木氏■僕らも何が出てくるのかわからないので……あ、これも書籍と違うところですね。アウトプットがわからない。インタビューなんかはまさにお会いしてみないとわかりませんし、原稿にしても、書籍ほど綿密に内容や構成を決めませんから、ある書き手が、あるお題に対してどう反応してくれるか予想がつかないっていうのは、すごくワクワクします。


(執筆・構成:須藤輝)

●鈴木茂(すずき・しげる)
株式会社アルテスパブリッシング代表取締役。
音楽之友社で月刊誌『レコード芸術』、ムック、書籍などの編集に携わったのち、2007年4月にアルテスパブリッシングを設立。おもにポピュラー音楽ほかの企画・編集と流通販促方面を担当。
サイト:アルテスパブリッシング
twitter:@suzukisgr


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