パネルディスカッションの論点1は「日本のブランド戦略としての観光立国」というもの。モデレータを務めた首都大学東京の本保氏が、日本の観光に対する世界的な評価を数字で示した。2012年の調査(Future Brand CBI)によれば、日本の観光は専門家からは高く評価されており、観光順位もイタリアに続き2位、総合順位でもスイス、カナダに続き、3位となっている。さらに詳しくツーリズムのブランド内訳を見ると、魅力1位、食事3位、買い物5位、金額に見合う価値6位という順位で、決して悪い数字ではない。しかし、これほど魅力的なのに、観光客数は世界で30位程度に甘んじているという現実がある。
本保氏は「一般的にブランドと観光客数には相関関係があるが、そういう意味で大変うまくやっているのが韓国だ」と指摘し、日本と韓国の相違について言及した。韓国は国をあげてブランドをうまく活用している。まず始めに国家ブランド価値が向上すれば、それに伴って輸出競争力が高まり、さらに観光にみられるようなインバウンド振興にもつながるという考え方だ。一方、日本は観光・文化・コンテンツ・プロダクトすべてがバラバラの組織(観光庁・文化庁・経済産業省)で進められている。その結果、2011年に韓国は年間の観光客が1000万人を超えたが、日本は800万人程度と水をあけられた。これは、日本がどのようにブランドを活用していけばよいかという示唆に富んだ結果といえるだろう。
論点2は「企業におけるイノベーションドライバーとしての観光立国」というものだ。観光にはさまざまな付加価値や喚起力があって、企業にとって大事なインベーションの担い手になる可能性がある。それがわかれば、観光に対する興味も深まる。JTBではDMC戦略(D:Destination M:Management C=Company)により、総合旅行業を文化交流事業へ変革する取り組みを行なっているが、新たな企業同士の組み合わせから、新製品や新サービスが生まれるという期待感もある。外国人旅行者が増えれば、彼らを対象にした商品も登場するだろう。いままで日本は外国から学んでいたが、これからは教えるモデルになり、外国人の雇用も増えていく。このようなことが観光によって企業にもたらされるという考え方だ。