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  • 2015/09/29 掲載

三谷幸喜が描く「清須会議」に学ぶ ポジションと人物のギャップの乗り越え方(後編)

連載:名著×少年漫画から学ぶ組織論(37)

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戦国時代は下克上、すなわち「ポジションと人物の間にギャップがあったときに、その人物の意思でポジションを更新することができる社会」であった。その中で、草履取りから始まり天下統一を果たした豊臣秀吉は、日本史上もっともスケールの大きな「ポジションのギャップ」を乗り越えた人物と言える。「能力主義」と「序列の論理」の相剋を最もドラマチックに生きた人生の一コマが、三谷 幸喜のヒット作品「清須会議」で描かれている。
前編はこちら
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家督相続は最大の「ポジションと人物のギャップ」が生まれる瞬間

 あらゆる人事異動のなかで、もっとも「ポジションと人物の間のギャップ」が生じやすいのが「家督の相続」つまり、トップの交代である。ただ人が替わるというというだけにとどまらず、それに紐づく人的ネットワークも多大なる変化をもたらす。その意思決定プロセスはまさしく「ポジションと人物の間のギャップ」が露呈する瞬間の連続なのである。

 織田家においてもその定型から逃れることができなかった。その状況は、三谷幸喜「清須会議」の、死ぬ直前の信長の独白がわかりやすい。

信長
信忠(註・長男)がいる限り、織田家は安泰だ。あいつは出来た子だから、俺の遺志を継いで、きっと天下を平定してくれるはずだ。だから、逆に言うとね、問題なのは、信忠も死んだ時だ。用意周到な光秀のことだから、恐らくは信忠のところにも兵を差し向けたに違いない。

(中略)

敵兵を見て、もはやこれまでと、もし腹でも切ったりしたら。考えただけでも、ぞっとするよ。信雄(註・次男)ははっきり言って馬鹿だし。信孝(註・三男)はまだましだが、器が小さい。一体どちらが跡目を継ぐことになるのか。いずれにしても、織田家の先行きは暗いと言わねばならんだろう。

(三谷幸喜「清須会議」より)

 果たして、期待のエース信忠は死亡し、「はっきり言って馬鹿」の次男信雄と、「まだましだが、器が小さい」三男の信孝による家督相続レースが展開されることとなったのであった。

 織田家が抱えた課題とは、「序列の論理ではトップのポジションに就くべきとされる人物が、それに必要な能力を備えていない」という状況である。そして、家臣の側でもそれと同型の課題があったことである。すなわち、序列上、五人の幹部で最も下位に位置した羽柴秀吉が最も能力が高かった、ということである。

【次ページ】ポジションを維持するための力の源泉とは?
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