• 2016/01/20 掲載

孫子が説く、組織でプロジェクトを成功させるための「道」の研究とは

現代のビジネスに「孫子の兵法」を活かす(中編)

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我々が今日において手にする孫子とは、「思想のカンブリア紀」とでも言うべき社会、そのなかでもっとも成功した書物である。戦争をしていない我々が、時代も目的も遠く離れた孫子にヒントを見いだせる(あるいは見出したい)と考えるキーワードは、「組織戦」と「プロジェクト性」である。このなかで「道」こそが、最も中心的な概念を成すということは明らかに了解されることであろう。この「道」という概念は、孫子にかぎらず、古代中国の諸子百家がこぞって研究した概念であった。
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現代で通じるフレームワークは、思想界最古の時代に生まれた

 孫子兵法の著者である、孫武の生きた春秋戦国時代とは、「東アジアにおいて、国家の実務にあたるマネジメント層によって、文字による思想が残され始めた最古の時代」である。

 当時、書写材料としての紙は発明されていなかった。ゆえに現在確認されている最古のテキストは、竹簡に書かれた孫子である。孫子以前に、どのような思想があったのかは、よくわかっていない。春秋時代より遡る殷・周の時代の竹簡や木簡が発掘されれば何かわかるかもしれないが、竹や木は腐食しやすいため、紀元前前五世紀より昔の著作物は、青銅器に文字を刻まれた金文や石に文字を刻んである石文以外、発見されていないのだ。

 時は「諸子百家」の時代。覇をとなえていた周の支配力が弱まったことで、国家経営に携わる人材が諸侯のもとに流れ、様々な思想家と王族が結びついては、広大な中国大陸のうえで、ありとあらゆる方法論が試行錯誤されたのだった。

 様々な人材が国家について、政治について、経済について、戦争について語り、「いかにして生き残るか」という方法論が模索された。春秋時代初期には140程あった邑制国家は、吸収合併を繰り返し戦国時代末期には7まで減り、最終的には秦による統一がなされた。

 カンブリア紀において生物種の大爆発が起きた主な要因とは、「動物が目を持ち、互いに捕食しあう関係性が生まれたこと」によって、その結果として猛烈なスピードで淘汰が進み、その結果進化が加速したからだと言われている。

 春秋戦国時代という社会で起きていたことを考えるに、そのアナロジーは有効であるように思える。文字を扱う国家マネジメント人材の往来と、彼等の土着化にともなう特殊化。これによって「戦略の大躍進」が起きたのだった。

 我々が今日において手にする孫子とは、「思想のカンブリア紀」とでも言うべき社会、そのなかでもっとも成功した書物だ、ということである。

【次ページ】古代中国と現代社会の生き残り論に共通するものとは
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