- 会員限定
- 2017/04/10 掲載
大局観とは何か?部分から全体を類推する思考がプロジェクトマネージャーに必要なワケ
プロジェクトは「未知」との戦い
もしあなたが新商品開発のプロジェクトマネージャーだったら、そこで戦わなければならない最大の「未知」とは、「顧客の要求が明確に見えない」ということだ。もちろん、何の考えもなしに開発に取りかかる人はいないだろう。しかし新商品をヒットさせる、すなわち成功させるためにあらゆる考えを巡らせて開発を進めたとしても、売り出されるまでは単なる仮説でしかない。そして売り出してみたら全くもって的外れだったなんてことはよくある話だ。
新商品開発のために選んだ技術についても、それを実際に活用したことがなければ「未知」の要素を多分に含むものとなる。そのほか、資金や時間、プロジェクトメンバーのスキルセット、ありとあらゆる面において、プロジェクトでは「未知との戦い」を繰り広げることになる。
大局観とはどのような思考なのか
こうしたプロジェクトに立ち向かうためにはどうすればいいのか。そのために身に着けるべき思考法が「大局観」である。大局観とは、「部分から全体を類推し、方針を決定するための思考の働き」とのことである。「一を聞いて十を知る」という言葉がある。世の中には、一を聞いて百を知るプロジェクトマネージャーもいれば、百を聞いて一を知るプロジェクトマネージャーもいる。
もちろん、どちらが優れているかは、あえて論じるまでもない。プロジェクトという「全体として未知なるもの」を含む状況において、優秀なプロジェクトマネージャーは「部分的に既知であるもの」を見て、全体に影響を与える意思決定を行っているのだ。
では、具体的に、大局観とはどのような思考の働きのことを指すのだろうか。大きくわけると「状況の評価」「次のアクションの選択」「リソース配分」の3つである。
(1)大局観は、現在の局面を評価する
近年のAIブームで、将棋ソフトが局面をプラスかマイナスで数値評価をすることを見聞きしたという方も多いだろう。
人間の思考においても大筋これと同じで、局地戦での勝敗や状況を総合して、全体評価をする。人は、「全体として、いま、いい状態」「総合的に考えて、いま、ちょっとまずい」ということを判断することができる。これぞまさしく、大局観の面目躍如たる働きである。
(2)大局観は、今後のアクションの候補手を生成して選択する
人はある局面における次の行動について、選択肢を考え、選択することができる。そこでは本来、数え切れないぐらいの選択肢があるわけだが、人は、比較検討するのにちょうどいいぐらいの数の候補手を並べ、選ぶようにできている。
ちなみに、長きにわたって将棋界のトップに君臨するプロ棋士の羽生善治 氏は、しばしば、この思考過程を「カメラでフォーカスを絞るのに似ている」と表現する。ぱっと考えるだけで、ほどよい候補手を導出できる思考の力があるかどうかは、プロジェクトの成否に大きな影響を与える。
(3)大局観は、優先順位付けとリソース配分を行う
将棋やチェス等のゲームで、「筋を読む」という思考をするのは有名である。プロのプレーヤーは何十手も先まで読むことができる、なんて話を聞いたこともあるだろう。
「ベタ読み」という言葉もある。センスや直感の問題ではなく、しらみつぶしに愚直に読んでいけば、誰でも必ず正解に到達できる、という言葉だ。
これは「小局」だからこそ有効な手である。ベタ読みは多くのリソースを消費する、いわば効率の悪い思考法である。問題が小さいからこそ、ベタ読みで戦える。
これにおいて、大局観の働きとして重要なのは、「どの小局に着目するべきなのか」を判断する、ということである。いまが勝負どころ、という判断は大局観なくしては不可能だ。
プロジェクトにおいて「読み」は重要だが、あらゆることを読んではいられない。いつ、どんな局面でシミュレーションをするのか。これを間違えると、「下手の考え、休むに似たり」ということになる。
【次ページ】大局観を習得する方法は存在するのか
関連コンテンツ
PR
PR
PR