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  • 2018/04/05 掲載

国民の16人に1人。何らかの障がいを持つ人の雇用にどう向き合うか

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個人の生き方や社会との共生について、さまざまな意見が交わされるようになっているが、この大きなうねりの中で、当事者の声はどこまでがリアルに届けられ、また当事者同士はどのように世相を感じているのか。ダイバーシティの実現に向けて、具体的に何が課題となり、改善が期待されているのか。2月22日、23日にわたり、東京・渋谷トランクホテルで開催された、個性の垣根を越えて誰もが強くしなやかに自分らしく生きる社会を考えるイベント「MASHING UP」において、「障がい者雇用」について考えるカンファレンスが開かれ、大橋 グレース愛喜恵氏、今井 絵理子氏、一木 裕佳氏が登壇。「障がい」と向き合う当事者たちから、生の声が伝えられた。
執筆:Miho Iizuka
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登壇者と参加者がそれぞれの経験や考え方を交換し、新たなヒントを得る。近すぎず遠すぎない、ほどよい距離感が印象的だった。相手の個性を知り、多様であることを認め合うとは、そのようなものなのかもしれない

日本における社会福祉政策の遅れは「教育」の遅れである

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写真左より大橋 グレース愛喜恵氏、今井 絵理子氏、一木 裕佳氏。障がいを持つ当事者、障がいのある子を持つ親、そして政策に携わる立場として、障がいのある方の雇用機会を創出する企業として、それぞれの想いを語った

 NPO法人「自立生活夢宙センター」という団体をご存知だろうか。地域で障がい者が生活していくことを支援する団体で、現在、全国に127か所ある。カンファレンスに登壇した大橋 グレース愛喜恵氏は、現在その中の大阪にある団体で活動している。

 大橋氏は福島県に生まれ、高校在学中には柔道アメリカ代表候補に選ばれ渡米するなどアスリートとして活躍していたが、7年前に多発性硬化症など国の指定難病を複数発症。2年近くの入院生活や職業訓練を経て”求人が見つかったのがそこだった”という大阪市内へ移住し、自立生活をスタート。テレビ番組や講演などを通じ、障がいを持つ当事者からのメッセージを広く世に届ける活動を行っている。

 アイドルグループSPEEDとして活躍したのち、現在は自由民主党所属の参議院議員として活動する今井 絵理子氏のご子息は、聴覚障がいを持つ。今井氏は聾(ろう)学校での支援活動や、司会を務めたNHK Eテレ「みんなの手話」などを通じて手話の認知拡大に尽力。参議院文教委員会、党内障害者関連部会に参加するほか、どんな個性であっても明るい未来をのぞめる福祉社会を作りたいという思いで、障がい児の教育福祉政策に力を入れている。

 一木 裕佳氏は、玩具やゲームなどを展開するバンダイナムコの、障がい者雇用を促進するために作られた子会社へ2年前に就任。ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)入社後、産官学連携・教育事業の立ち上げ、新規事業部GMなどを歴任しながら、10年間異動希望を言い続けて念願のことだという。「障害者雇用促進法」の法定雇用率を達成する目的だけでなく、障がい者の就労機会創出をポジティブに担い、社会に貢献することがミッションだ。

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モデレーターを務めた黒川 久里子氏(コルク グループ長、せりか基金 代表)。「せりか基金」はALSの治療方法を見つけるための研究開発費を集める活動を行う。漫画『宇宙兄弟』に登場する主人公・せりかが物語の中で対峙する難病ALSの治療問題を、現実社会の臨床において実際に取り組むというプロジェクト

 東京オリンピックを目前に、社会問題や福祉政策への取り組みも大きな動きを見せている。障がい者雇用問題も例外ではなく、今年4月の法改正では、法定雇用率の引き上げとともに精神障がい者の雇用義務付けも行われる。ただ、表面的なところでは理解を得られているように見えていても、根深い偏見や差別の種を抱えながらどのように施策を広げていくべきなのか、携わる人々の苦労はつきない。

 「日本人は海外に比べてここが遅れているというのが好きな国民性なのかもしれませんが」と前置きしながら、障がいを持つ当事者として広く情報発信を行う大橋氏は、先頭を切ってこう語った。

「日本が遅れているのは教育だと思っています。インクルーシブではない教育が行われていて、普通学校では障がい者に対しての必要な介助が準備されないまま分断されて育つわけです。欧米のように6歳からインクルーシブな教育をしていれば、それがそのまま社会に出てからも継続していくわけですけれども、20歳になってからそれに取り組もうとなったら、それはやはり20年遅れるわけですから、その分、大変になるのは当然です」(大橋氏)

 インクルーシブとは何か。直訳すると「包括的な」「包み込む」という意味の言葉だが、“障がい”や社会福祉問題においては「ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)」というとらえ方となる。どんな人であっても社会の構成員として包み、孤立や排除のないよう援護し、支え合う社会政策の理念を表す。

「日本では、障がいを持つ子供たちが健常の子供たちと交わる機会がとにかく少ない。健常者の通う学校とは分かれていて、私の息子の場合は聾(ろう)学校に通っています。息子が3歳のときに1年だけ保育園にお世話になったことがあったんですが、耳の聞こえない子が聞こえる子たちと一緒に過ごす。そうした場合、何が起きるかというと、どうコミュニケーションをとればいいのか、どうやったら接することができるのか、子供たち自身が考えるきっかけになるんですよね。すべての子供たちが交流できる場所を作っていくことが大切だと感じましたし、心の障がいを取り除く第一歩だと思いました」(今井氏)

 どのような障がいを持ち、どの程度の介助が必要なのか、ケースバイケースではあるが、特別支援学校というと市街中心地から少し離れたところにあることも多く、同年代の子供たち同士が普段から接する機会は、確かに少ない。通う学校に支援学級があり、一緒に授業を受けるケースもあるにはあるが、数としては限られたものだ。見たもの聞いたものの受ける影響が強い幼少期にどう感じたかは、大人になってからの学びとは大いに異なってくる。

「10年異動希望を出し続けて、念願のプロジェクトに携わるようになって、それでも着任してから2年経っても、まだ知らないことってこんなにあるのか、という驚きの方が多い。国もたくさんの法律を改正したりいろいろな施策を打ったり、問題に対しての動きはあるんです。ただ、タッチポイントがとても少ない。当事者や業務として関わっている者にとっては知り得ることでも、そうではない人にとって知る機会がない」(一木氏)

 一木氏によると、何らかの障がいを持つ人は日本国民の16人に1人。たとえば血液型でいうとAB型は14人に1人、LGBTや左利きの人も14人に1人程度だと言われる。それと同じくらいの数の規模であることを、感覚として知っているのと知らないのではずいぶん違う。主にメンタル面など“内部障がい”への認知は、これから焦点の当たるところだろう。

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日本における障がい者への理解は、海外のそれに比べると遅れをとっている……そのような文脈で受け取る情報の方が、実は日本人好みかも、という大橋氏の指摘は確かにもっともかもしれない

保護か分断か、施設や環境のジレンマ

「すごく簡単な話をすると、アクセシブルな(障壁の少ない)施設を増やせばいいと思うんです。地域に障がいを持つ人が毎日生活をしていたら、必要に応じてアクセシブルになるし、そこにいたら自然にどういう感じか知っていきますよね。特定の施設の中に障がい者を分離するのはなぜなのかなって、私はそこが一番気になるんですよね」(大橋氏)

 「施設」の定義にはさまざまなものがある。障がい者自身のコンディション、介助する人、家族、それぞれの置かれている環境や立場によって必要としているものが異なると、今井氏からは補足があった。

「障がいを持つ方も高齢化が進んでいて、面倒が見切れないというご家族もいらっしゃいます。在宅での介護も、介助する人が足りていないという現実もあります。国としては、今後は施設は作らないという方針なのですが、どうしても親御さんの立場から見ると、施設でケアしたいという気持ちが先行する部分もあると思います」(今井氏)

 日本は保護、守るという目線が強いという。施設により分断されてしまうこともあるだろうが、必要不可欠な方もいる。共生社会に向けて考えるべきことは、いつ誰の身においても、自身が障がい者になりえる可能性があるということだ。自分がもしそうなったら、どのように生きたいか、どのようにありたいか。そうに考えて進めていく必要がある。

 障がい者雇用に関しては、法令順守のムードもあいまって、現在、各社が整備を進めている。しかし、雇用は都市部に集中しており、雇用自体の少ない地域が大多数ではある。これを是正するために、テレワークやサテライトオフィス構想にも取り組んでいると、一木氏は意欲的に語る。

「就労支援センターや障がい者が通う学校の先生方も、一人一人に合わせてすごく熱意を持って、こういう企業に就職させるといいのではないか、と企業実習などにも積極的に送り出してらっしゃるんですね。会社の雰囲気や文化も感じていただいて、親御さんとも連携しながら就職に進んでいくという流れが生まれ始めています」(一木氏)

 そう考えると、前年代に比べれば障がい者が自立して働くための情報も広く収集しやすい環境にはなってきている。ただ、就労意欲や研修などを経てスキルを身につけたとしても、必ずしも理想の職場と出会える機会が増えているというわけでもない。

【次ページ】医療モデルから社会モデルへ変化する「障がい」の実態とは?

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