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- 2018/04/27 掲載
実現しつつある「人工知能の民主化」、何がビジネス上の価値になるのか
連載:中西 崇文のAI未来論
武蔵野大学 准教授、国際大学GLOCOM主任研究員
1978年、三重県伊勢市生まれ。2006年3月、筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。2006年より情報通信研究機構研究員。ナレッジクラスタシステムの研究開発、大規模データ分析・可視化手法に関する研究開発等に従事。2014年より国際大学GLOCOM准教授・主任研究員。データマイニング、ビッグデータ分析、分脈構造化分析の研究に従事。2019年から武蔵野大学 データサイエンス学部 データサイエンス学科長 准教授。国際大学GLOCOM主任研究員、デジタルハリウッド大学大学院客員教授。専門は、データマイニング、ビッグデータ分析システム、統合データベース、感性情報処理、メディアコンテンツ分析など。

AI技術のどこに価値を見いだすか?
AI技術、とりわけディープラーニングをはじめとした機械学習のアルゴリズム自体の価値の考え方が徐々に変化して来ている。もともと、ソフトウエア自体、ハードウエアとセットで初めて機能が実現できることがほとんどで、いわばソフトウエアはハードウエアの付属品にすぎなかった。
優秀なアルゴリズムが開発され始めると、そのアルゴリズム単体をソフトウエアパッケージ化して商品として売ることが主流となる。
「アルゴリズムのマネタイゼーションの時代」である。
どれだけ高価なパッケージであっても、購入したら自身の環境でそのアルゴリズムを動作させられる。
商品価値があるアルゴリズムは時には隠蔽されているものでもあった。アルゴリズムはブラックボックスであり、その中身の仕組みを考え、アルゴリズムを作る能力が直接価値創造に結びついていた。
その後、オープンソースの波は、現在のAI技術にも大きな変革の力となった。新たに開発されたアルゴリズムはオープンソースで公開されることが多くなった。オープンソースであるため、ある一定のプログラミングの知識さえあれば、最新のアルゴリズムを無料で使うことができる。
さらに、世界の開発者が最新のアルゴリズムに触れることで、アルゴリズムをより良いものにブラッシュアップすることが可能となる。アルゴリズムはオープンソースによって、急激に変化を遂げ、進化を繰り返しているのが現状である。
オープンソースは、アルゴリズムの進化に寄与する一方、従来のアルゴリズム自体をパッケージ商品とするビジネスモデルを成り立たなくした。オープンソースでより良いアルゴリズムが常時生まれることから、アルゴリズムの性能の差異で価値創造することが非常に難しくなった。
「アルゴリズムのコモディタイゼーション(コモディティ化)の時代」である。
AIの価値はアルゴリズムから「使い方」に
アルゴリズム自体を考えることももちろん重要ではあるが、調べれば誰かが素晴らしいアルゴリズムをオープンソースで公開している。重要なのは、それを取り込みプログラミングすることで使いこなし、新たなサービスを生み出すことだ。つまり、「アルゴリズムを使いこなす能力」が直接価値創造に結びつく時代だ。
現在、さらに「アルゴリズムのデモクラタイゼーション(民主化)の時代」の入り口にきている。
アルゴリズムはプログラミングするものから、UIによって組み合わせて一つのサービスを実現するものへと進化しつつある。
このようになれば、必ずしも、高いプログラミング能力は必要なく、AI技術を使えるようになる。AI技術を使うことは、新たなリテラシーとなり、自由に使うだけでなく、その使ったサービスを実ビジネスにどう生かすが重要となる。
つまり、「アルゴリズムをビジネスに生かす能力」が直接価値創造に結びつく時代だ。
もしかしたら、読者の中には、優秀なAIのアルゴリズムを研究開発し、そのソフトウエアをなんらかの形で売ることが、現在のAIのビジネスだと勘違いしているかもしれない。その時代はもう過ぎ去ってしまっている。
もちろん、新たなアルゴリズムを生み出し続けることは研究として大事であるが、それだけでは価値創造に結びつかない。AI技術を実社会にどのように展開するかまで考える必要がある。
ハードウエアにおいても、これまでは自分自身で購入し、運用管理する必要があった。クラウド環境が整うことで、誰もが低価格で難しい運用管理なく、簡単に利用できる。
また、自分自身で買い換える必要なく、最新のハードウエア環境をクラウドとして享受できるのが大きい。つまり、ハードウエア環境、ソフトウエア環境問わず、AI技術を気軽に使える時代になった。
AI技術全体がコモディティ化し、民主化に向かっているのだ。
【次ページ】AIのどの部分が差別化要因になるのか
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