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  • 2018/08/31 掲載

なぜ岡山県の辺境の村に「移住者」が殺到しているのか

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中山間地や離島など全国の過疎地域で急激な人口減少が続く中、人口減少に歯止めがかかりつつある地方自治体が出てきた。岡山県北部の西粟倉村がその例で、ローカルベンチャーを起業する移住者の増加で人口の約1割を移住者とその家族が占めている。その結果、人口の減少ペースが緩やかになり、子どもの数が増えてきたわけだ。岡山大大学院社会文化科学研究科の中村良平特任教授(地域公共政策)は「地域の個性を売り込むことで移住者を呼び寄せている好例。ものとお金の流れをつなげた地域経済循環も実践できている」とみている。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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東京から移住し、森林を管理するローカルベンチャーを起業した田畑直さん。「田舎暮らしに満足している」と笑顔を見せた
(写真:筆者撮影)

東京からの移住者「山暮らしは楽しい」

 吉井川支流の吉野川沿いに広がる谷に民家が点在する。周囲に見えるのはのどかな田園風景。岡山県の北部、鳥取県との県境に位置する西粟倉村。まるで日本の原風景ともいえるこの山村にここ数年、全国から移住者が殺到している。

 村は江戸時代から因幡街道が通り、山陽地方と山陰地方を結んできた。吉野川沿いに国道373号、鳥取自動車道、第三セクター鉄道の智頭急行が走り、交通の便は良くなったが、約60平方キロの村面積のうち95%が森林。国道から少し歩くと中国山地の深い森に出くわす。

 この森を管理しているのが2017年10月に設立された「百森」。移住者が起業したローカルベンチャーで、村内の智頭急行あわくら温泉駅舎に事務所を置き、5人の仲間で村有林などの手入れや測量、伐採計画の策定を進めている。

 共同代表の田畑直さん(31)は東京都出身。友人とともに村のローカルベンチャースクールに応募して採択され、2017年4月に村へ移住してきた。それまでは東京でIT関係の仕事をしており、林業とまったく関係がなかったが、何回か訪れた結果、面白いと感じるようになったという。

 田畑さんは独身。村にはコンビニが1店もなく、飲食店も少ない。男性の独り暮らしには不便なようにも見えるが、「買い物は県境を越えて鳥取まで40分、コンビニがある隣町までだと15分。車があればそんなに不便と思わない」と笑う。

 村は移住者が増え、よそ者がいるのが当たり前の空気が漂っている。田畑さんは「村の居心地はよく、やりたい仕事もある。林業は50年先を見据えた仕事だから、しっかりと森を管理していきたい」と意欲を見せた。

人口の約1割が全国からやってきた移住者

 村は古くから林業を基幹産業としてきたが、林業の低迷で長く人口流出に悩まされてきた。高度経済成長期の1970年に2,000人を超えていた人口は、じりじりと減少が続き、2017年度末で1,470人に落ち込んでいる。

 そんな村に転機が訪れたのが2000年代初頭の平成の大合併だ。小泉政権の地方交付税削減で村の財政が危機に直面する中、国から近隣町村との合併を勧める声が寄せられ、旧大原町など6町村と合併協議会を設立した。

 しかし、住民アンケートの結果、村は合併しないことを選択する。2004年に合併協議会から離脱したあと、自立を目指して2008年に打ち出したのが「百年の森林構想」だ。村が誇れる財産は森という結論に達したからで、50年前に祖先が植林した森を守り、50年後の世代に受け継ぎながら、地域の経済循環を促す内容となっている。

 木材を市場へ出すだけでは利益が少ない。そこで、全国から森に興味を持つ移住者を募り、木材を加工して付加価値を付けようと考えた。村内で起業するローカルベンチャーを募ったところ、次第に全国から20代から40代の若い移住者が集まるようになり、村の様子に変化が出てきた。

 村の高齢化率は2017年度末で全国平均を10ポイント近く上回る35.8%。死亡数が出生数を大きく上回ることから、人口減少は依然として続いているが、ペースにブレーキがかかりつつある。

 転入者が転出者を上回る人口の社会増は、2017年度が7人のプラスとなるなど過去5年間で2016年度を除く4回達成した。人口の約1割、子どもの2割強をIターンの移住者が占めている。

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西粟倉村の人口、転入、転出者数推移

【次ページ】立ち上がったローカルベンチャーは約30社

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