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  • 2019/10/23 掲載

オウケイウェイヴ松田元社長「お金で評価が買えるネットはもう限界」

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近年、SNSなどで培われた評価や信用を基盤とする経済社会、いわゆる「評価経済/信用経済」に注目が集まっている。その背景には貨幣経済、いわば今の資本主義の行き詰まりがあるという。なぜ、資本主義では立ちゆかないのか。評価経済がなぜ、今の資本主義が抱える問題を払拭できるのか。評価経済の課題と、それを克服した「さらに先」はどんな経済社会なのか。オウケイウェイヴの代表取締役社長 松田 元氏に話を聞いた。

聞き手・構成:編集部 中島正頼、執筆:中村仁美

聞き手・構成:編集部 中島正頼、執筆:中村仁美

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オウケイウェイヴ 代表取締役社長 松田 元氏

資本主義の課題、限界とは

──ここ数年、よく「評価経済」あるいは「信用経済」という言葉が聞かれるようになりました。現在の貨幣経済社会に限界や課題を感じている人が多くなってきたのかもしれません。松田さんはその課題や限界について、どう考えていらっしゃいますか。

松田氏:貨幣経済、もっと言うと資本主義というアルゴリズムの中では、良くも悪くもお金がすべてです。そしてそのお金の流通量は、世の中で規定されている金利に左右されます。

 ですがその金利は、非常に不透明な意思決定プロセスで決まります。欧州中央銀行やFRB(連邦準備制度理事会:米国の中央銀行制度の最高意思決定機関)などの世界的な中央銀行の金利政策によって、日本銀行の金利が左右されるのです。

 これ自体は後ろ向きなことではありませんが、よくわからないその海の向こうの勝手に決まった金利によって我々の景気がアップダウンする。だから日本は非常に苦しい時代を生きてきたんです。

──お金、金利に翻弄されてきたと。

松田氏:ええ。それはバブルの興隆から崩壊、その後失われた20年が30年に延びて令和に至って、どうしようというのが今の日本の社会環境です。

 それを一番見て同じ轍(てつ)を踏まないようにしているのは中国です。そのFFレート(フェデラル・ファンド金利)にコントロールされないよう、独自経済圏を作り、良いか悪いかは別にしても情報統制をしっかりかけて、グローバル企業を進出させないようにしている。こうすることで競争力を高めて、輸出を伸ばし、世界の市場に中国製品を売っているんです。

 そういう背景があるから、米国と中国は「言うことを聞け」「いや、お前のいうことは聞かないよ」というようなケンカをしているわけですよ。「資本主義の非常によくわからない意思決定プロセスで決まった金利に、俺らは翻弄されませんよ」というアジアの雄の中国と、「いやいや俺らが決めた、新自由主義の公明正大な金利が正しいのだから、君たちこそ言うこと聞けよ」という米国の主張がぶつかり合っているという状況です。

 もちろん中国以外でも「西洋中心、資本中心の金利に翻弄されたくない」と考える人がいて、そこにフィンテックやブロックチェーンと暗号資産(仮想通貨)などのテクノロジーがはまり、新しい第三勢力が今立ち上がりつつあるという状況だと思います。

 「金利とは」に立ち返りますが、金利が高ければ信用がなく、金利が低ければ信用があるとするならば、その大本は信用ということになります。信用はどうやって作られるかというと、色々な人の評価によって作られます。そこで評価経済が資本主義の先にあるんじゃないかと。いきなりポッと出てきたのではなくて、段階を経て価値観が変わってきているというイメージです。

──今の社会に行き詰まりを感じている人も増えているように思います。資本主義社会のままだと何が問題なのでしょうか。

松田氏:富の再配分が機能しなくなり、所得格差の拡大がずっと続くことになると思います。貨幣経済は基本的に「信用創造」という概念でできています。政府が刷ったお金が100倍のレバレッジを効かせ、銀行を経由して企業に貸し付けられるわけなので、どこかのタイミングでその信用創造の風船が破裂するとシャレでは済みません。

 かつてバブルという風船が膨らんで、崩壊して、そしてサブプライムローンの風船が膨らんで、リーマンショックで崩壊というようなことがありました。これらはあくまでも民間と民間のことですが、今、我々が直面している状態は、政府自体がその風船を膨らませるプレイヤーになっているということ。政府がそのバブルの中心に発行体として存在しているんです。

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──お金を刷りまくることで、政府がバブルを誘発している面があるということですね。ですが、政府もバブルを望んでいるわけではなく、危機感を持っていると思うのですが。

松田氏:もちろん、持っていると思います。だからパウエル米連邦準備制度理事会議長が利上げを提言する一方で、トランプ大統領の鶴の一声で利下げになったり、二転三転しているわけです。

 このような景気の局面で、債券がたくさん買われているのに、ダウが最高値を付けるのも異常事態。誰も見たことない、わけがわからない状態です。金融工学の基本を知っている人からすると、債券が上がると株価が下がり、株価が上がると債券が下がるというように、リスクマネーとリスクオフマネーに分かれるのですが、金も債券もビットコインも株もすべてが上がるという。今の状況を解説できる人は誰もいません。

──信用創造が膨張した先に何があるのか、そこは未知なのですね。

松田氏:その通りです。そしてもう1つ大きいのは、テクノロジーの進化でデバイスが世界中に行き渡ったこと。たとえばアフリカ大陸など、1人当たりの単価は低くても、数億人もの人で構成されるエコシステムを無視できなくなりました。単価が低くても、数億人いればそのマーケットバリューは大きいということです。

 そしてそのマーケットを中国が取り込もうとしている。下手をすると世界の70億人中35億人ぐらいが、中国の支配下になってしまうのではという危惧がある。そうなると、いくらお金を持っていてもマーケットを支配できなくなる可能性が出てきます。

Uberや食べログで評価経済はすでに始まっている

──評価経済が注目される背景には、そういった経済の不透明感、新たな潮流に対する不安があるということですね。

松田氏:ただ、資本主義と評価経済はまったく別物かというと、そうではありません。米国は純資本主義、中国が共産主義的資本主義と言えますが、そこに評価経済というのがオーバーラップしてきているという感じです。

 たとえば米Uberも評価経済を取り入れていますし、中国アリババグループのジーマ信用(芝麻信用)は信用スコアを取り入れています。この次世代の評価経済らしきものに、両大国が侵入しようとしているんです。

──評価経済、もしくは信用経済というものをわかりやすく解きほぐすと、どういうものだと言えるでしょうか。

松田氏:評価経済の概要をひとことで言うと、インタラクティブコミュニケーションです。今まで企業がユーザーに対して一方的に「こうです」と言うだけでした。これに対して、ユーザーから「こうでしょ」という風に双方向のコミュニケーションが可能となり、その1つの指標が評価経済だと思っています。

 ですので、評価経済は資本主義に取って代われるかというと、僕はそう思っていない。あくまでも資本主義の1つのファンクションである評価部門が独立した、という感じです。

──なるほど。あくまで根本にあるのは、資本主義経済で、そのファンクションの1つとして評価に注目が集まっているということですね。評価経済が生まれる背景には、テクノロジーの発展が寄与しているのでしょうか。

松田氏:寄与しているでしょう。インターネットが何なのかよくわからなかった2000年前後と、インターネット上で非匿名の実名をベースにしたSNSが発展している今とでは大きく考えが違ってきています。

 今は実社会と電子空間が完全に一体化しています。実社会では会っていないけど、電子社会では会っている人のことを簡単に評価できたり、評価を受けることができるようになっているので、評価の対象領域が非常に広がっているんです。

──先ほど、評価経済の事例としてUberやジーマ信用という名前が出ました。もう少し詳しく教えていただけますか。

松田氏:Uberを使ったことがある方はわかると思いますが、Uberではタクシーを呼んで移動し、到着時にクレジットカードで支払い、その後、5つ星で評価をするという仕組みです。星5つだと良いドライバーとなり、星1つだと駄目なドライバーと評価されます。その累積の平均値により、ドライバーのレーティングが決まります。次にUberを使う際には、星4つ以上のドライバーを呼ぶことを、ユーザーサイドで指定できるようになります。要は良いドライバーだけが必然的に残るような仕組みになっているわけです。

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 今までは「AからBに移動したい」というニーズに応えるソリューションでしかなかったのに、レーティングによって「AからBに気持ちよく行きたい」というニーズが重層化されているわけです。つまり、二次、三次という多様なニーズにもちゃんと応えられるかどうかが、レーティングに反映される。ユーザーサイドのパワーが増している事象ですよね。

──ユーザーのパワーが増していることが、評価経済を発展させる1つのドライブになっていると。

松田氏:間違いありません。だからデバイスが世界中に広がったことが大きいのです。資本主義の封鎖された世界であれば、お金を持たない人は文句も言えませんでした。ですが、お金を持たなくても何億人の人がある意見に同意し出すと、世論がひっくり返りかねないですよね。だから、新興勢力の台頭と評価経済の台頭とデバイスの拡充というのは、全部リンクしていると思います。

──たしかにそういったレーティングの仕組みでは、豊かな人もすごく貧しい人も同じ1票となります。個人がすごくパワーを持ち、しかもフラットになったと。食べログの流行もそれに近いものがありますね。

【次ページ】「評価を4以上にしたいなら…」お金で買える評価経済、性善説のインターネットに訪れる限界

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