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- 2025/05/26 掲載
「Vibe Coding(バイブ・コーディング)」とは何か?AIで月間「3万時間」削減の新開発手法の詳細
バークリー音大提携校で2年間ジャズ/音楽理論を学ぶ。その後、通訳・翻訳者を経て24歳で大学入学。学部では国際関係、修士では英大学院で経済・政治・哲学を専攻。国内コンサルティング会社、シンガポールの日系通信社を経てLivit参画。興味分野は、メディアテクノロジーの進化と社会変化。2014〜15年頃テックメディアの立ち上げにあたり、ドローンの可能性を模索。ドローンレース・ドバイ世界大会に選手として出場。現在、音楽制作ソフト、3Dソフト、ゲームエンジンを活用した「リアルタイム・プロダクション」の実験的取り組みでVRコンテンツを制作、英語圏の視聴者向けに配信。YouTubeではVR動画単体で再生150万回以上を達成。最近購入したSony a7s3を活用した映像制作も実施中。
http://livit.media/

AIと新開発新手法「バイブ・コーディング」、セールスフォースが示す実践例
ソフトウェア開発の世界で新たなパラダイムシフトが起きている。OpenAIの共同創設者アンドレイ・カーパシー氏が2025年初頭に提唱した「バイブ・コーディング(AIガイド型開発)」という開発手法が海外のエンジニア界隈で注目を集めているのだ。従来の開発手法では、エンジニアが1行1行丹念にコードを記述し、デバッグを繰り返す必要があった。一方、バイブ・コーディングでは、開発者が自然言語でAIに指示を出し、コードの生成を任せつつ、そのコードに調整や修正を加えるアプローチを取る。完全自動化ではなく、エンジニアが監督者として、コードを確認し、開発を進める形だ。
この新しい開発手法の先駆的な実践例として、セールスフォースの取り組みが挙げられる。同社はAIコーディングアシスタントプラットフォーム「Agentforce」にバイブ・コーディングを実現するいくつかのツールを実装。その効果は目覚ましく、過去30日間に生成されたAPEXコードの約20%がAgentforceによるもので、1カ月で1000万行のコードが承認され、推定3万時間の開発時間削減が達成されたという。
セールスフォースのジャエシュ・ゴビンダラジャン上級副社長によると、現在では新規開発の大半、少なくとも「第一稿」と呼ばれる初期コードの作成はAIが担っている。開発者は高レベルな方向性を示し、AIにある程度の創造性を持って第一稿を生成させる。その後、「この部分は良いのでもっと同様の方向で」「このボタンは不要」といった具合に調整を加えていく。同氏はこのプロセスを音楽の共同制作に例え、「AIがリズムを刻み、開発者がメロディを調整する」ようなものだと表現している。
ただし、バイブ・コーディングにも限界はある。ゴビンダラジャン氏は、次世代データベースのような高度なシステムの構築には適していないと指摘する。一方で、データベースと連携する優れたユーザーインターフェースやビジネスアプリケーションの開発には十分な能力を発揮すると評価。実際、3万5000人以上のアクティブユーザーがAgentforceと日常的に協働している。
バイブ・コーディングの登場により、開発者の役割はAIに奪われるのではなく、より創造的な方向へと進化している。エンジニアの役割がどのように変化しているのか、次節で詳しく見ていきたい。
企業の開発現場で進むエンジニアの役割転換、実装から戦略的思考へ
バイブ・コーディングの台頭により、企業における開発者の役割は大きく変化している。ルーチン的なプログラミング作業がAIによって自動化される中、エンジニアには、実装者から戦略家への進化が求められるようになっているのだ。ゴビンダラジャン上級副社長によると、開発者の思考は「これを作るから作ろう」という単純な実装志向から、「何を作るべきか」「顧客は何を求めているのか」といった本質的な課題へと広がりを見せているという。
重要な点は、コーディング自体がもはやボトルネックではなくなったことだ。AIが生成したコードに対して開発者が付加する創造性と問題解決能力こそが、真の価値になりつつある。
開発者の役割は「テクノロジーパイロット」として、コードを書くAIエージェントの監督者へと移行。高レベルな指針を示し、AIが生成した第一稿が完璧でない場合は、指示を練り直すか出力を微調整する能力が重要になっている。
この変化に伴い、開発者に求められるスキルセットも変化している。セールスフォースのアーキテクト、マハム・ハッサン氏は、「現在最も注目を集めているスキルは、従来のコーディングの意味ではなく、ビジネス成果を導くためのAIツールの理解と活用能力だ」と指摘する。
反復的なコード分析やレビューに時間を費やす代わりに、よりスケーラブルなアーキテクチャの設計、ビジネスプロセスの最適化、イノベーションの推進などをどう進めるかを問う創造的・戦略的スキルの価値が高まっているという。
実際、製品開発とエンジニアリングの境界が曖昧になりつつあるケースも多数報告されている。たとえば、専門領域における直感と技術的知見を組み合わせ、AIによるソリューション構築をガイドする「プロダクトエンジニア」という新たな職種が登場しているのだ。
ただし最終製品に対する責任が開発者にあるという点は、これまでとは変わらない。AIがコードを書いたとしても、デプロイされるものに対する責任は人間のエンジニアが負う。つまるところ、単なるコードタイピストではなく、ソリューション設計者やビジネスパートナーとしての側面が強まっており、開発者の責任はむしろ大きなものになっているのだ。 【次ページ】バイブ・コーディングを成功に導く組織づくり、4つの重要施策
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