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  • 2019/11/04

なぜ日本は「老後2000万円必要」バカであふれかえっているのか

「老後2000万円問題」を受け、いま多くの中高年層が貯蓄を増やさなければという焦燥感に駆られており、それにかこつけて、さまざまなハウツー本やサービスが世に出回っている。しかし、著書『続・定年バカ』を上梓した評論家の勢古 浩爾氏は「充実した定年後や、楽しい定年後、豊かな定年後を送らないのは、定年後にあらず」とプレッシャーをかける世間の風潮に疑問を呈す。また、それに踊らされて「自分だけ、なにかうまい方法、得する方法を手にいれたい」と奔走する人々を、「定年不安バカ」と揶揄する。なぜ、こうした行為は愚かだというのか。勢古氏に話を聞いた。

評論家・エッセイスト 勢古 浩爾

評論家・エッセイスト 勢古 浩爾

1947年大分県生まれ。明治大学政治経済学部卒業。洋書輸入会社に34年間勤務ののち、2006年末に退職。市井の人間が生きていくなかで本当に意味のある言葉、心の芯に響く言葉を思考し、静かに表現しつづけている。1988年、第7回毎日21世紀賞受賞。新著『続・定年バカ』は、5万部を突破した『定年バカ』の続編となる。

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老後資金を増やすためのうまい方法は、本当にあるのだろうか
(Photo/Getty Image)


世間では2000万円どころじゃない

 わたしは9年前の『定年後のリアル』(草思社)のなかで、定年後における3つの不安を、お金、生きがい(やりがい)、健康ではないか、と書いた。その後、いや一番の問題は孤独ですよ、という本も現れたりしたが、もちろんなんでもよろしい。ところが今年、金融庁が老後には厚生年金以外に2000万円が必要だと発表してから、やはりなんだかんだいっても、一番問題なのはお金だということが、いっぺんに問題化したのである。

 金融庁では「人生100年時代」を踏まえて、男65歳以上、女60歳以上の夫婦が年金だけで生きるには毎月5万円が不足すると計算した(食費を6.5万円とするなど、支出明細を適当に設定した結果)。そして、そこから20年生きるとすると1300万円、30年生きるとすると2000万円の資産が必要になると発表した。

 すると、え? 知らなかったなあ、国の年金政策の失敗じゃないのかと、野党政治家やマスコミがわざとらしく、一斉に騒いだのである。慌てた麻生太郎金融相は報告書は表現が不適切とかいって、受け取らなかった。

 いまさら、なにをいってる? 2000万円不足? 

 世間ではそれまでに退職後は4000万円必要とか6800万円必要とか、なかには1億円も必要などと、散々問題になっていたではないか。その金額も定年後に必要な生活費の総額なのか、月々の不足分の総額なのかが入り乱れて、わけわからなくなっていた。

 どっちにしろ、2000万円どころではなく、金融庁などとは関係なく、年金だけで足りないことはすでにだれもがわかっていたことである。野党やマスコミは話題にするためにわざと騒いでみせたのである。そんな金はないぞと、一部声を上げた老人たちもいたようである。

 だれもがわかっていたことだが、国がいうな、ということである。しかも月5万円、合計2000万円という具体的な数字をだされたのでは、騒ぐしかないではないか、ということだったのであろう。だが、他の多くの問題がそうであるように、この問題もぐずぐずしたままなにも解決せず、いつの間にかぽしゃってしまった。しかし今年、定年(還暦)を迎える60歳の25パーセント、つまり4人に1人は貯蓄額が100万円以下だという。麻生大臣が報告書から遁走しても、問題は消えないのである。

 健康も生きがいも孤独も、不安のありどころがはっきりしない問題だ。お金だけ、あるかないかがはっきりしているのである。いやでも数字として目に見える。血圧だって目に見えるぞ、上が200だがどうしてくれる? といっても、降圧剤という手はある。金がないというのはどうにもならない。あるなしの影響は生活に即効性がある。

 それにお金のあるなしは、くそいまいましいことにその人間の甲斐性の問題にもかかわってくる。おなじ年数を生きてきて、この差はなんだ? というように。いつもくらべるのは同年代である。あっちは何事もうまくやっていて、それにくらべ、自分は怠惰で要領が悪くて運がなく行動力も決断力もなかったとでもいうのか、と思ったりするのである。

 その結果が「2000万円くらいなら大したことはない」という「上級高齢者」と、貯蓄の少ない「下級高齢者」の差となったのか。

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「上級高齢者」と「下級高齢者」の格差が開いている
(Photo/Getty Image)

「年金だけでも暮らせます」がほんとうならけっこう

 庶民にとってもっと楽しくなるような話をしよう。講師は庶民の味方、荻原博子である。

 彼女の『年金だけでも暮らせます──決定版・老後資産の守り方』(PHP新書、2019)には、「定年時に3000万円の貯蓄が必要」といわれる、と書いてある。しかし荻原のいいたいことはこれである。そういうふうに、世間では定年後に貯蓄がいくら必要だとか、「定年後に破綻する『老後破産』が増えるといわれていますが、老後を年金だけで暮らす『勝ち組』も、実は多く存在します」。

 そうなのか。もしそれがほんとうなら、心強いことではないか。「年金だけで」というからには、貯蓄もなく、定年後に働いていなくても、ということなのだな。「勝ち組」なんかはどうでもいいよ。

 「この人たちは何も特別なことをしていません」と荻原はいって、ただ「正確な情報を得て、現行の制度を活用すること」、「出費を最低限に抑えて、現金を減らさない」という「2つを徹底しているだけです」といっている。そんなことをいって大丈夫なのか、と心配になるが、頼むぜ荻原さん。あなたが庶民の味方であることは、疑っていない。

 萩原は、銀行の窓口に相談に行くと、総務省がだしている「家計調査報告(家計収支編)2017」をもとに作成された「高齢夫婦無職世帯の家計収支(2017)」というものを見せられる、といっている。

 それによると、これは夫65歳以上、妻60歳以上のケースだが、年金収入だけでは月々の収支は5万4519円マイナスで、2人であと30年生きるとすれば、1962万6840円不足することになるという。それだけではない。しかも「これは生活費だけで、介護や医療のお金は入っていませんから、これを含めると5000万円くらい用意しておかないと、安心な老後を迎えることはできませんよ」と説明されるらしい。

 これを聞いてほとんどの人はびっくりする。60歳以上の高齢者世帯でそんな貯蓄があるのは少数の人だけで(4000万円以上貯蓄のある人は17・6%)、平均貯蓄額は2384万円、中央値は1639万円である(「高齢者世帯の貯蓄現在高階級別世帯分布 2017」)。

 そこで銀行は「『豊かな老後を過ごすために、投資で増やしましょう』となけなしの退職金で投資をするように勧めてきます」というようなことになる。これだけが銀行の狙いである。

 だが金融庁のデータによると「2018年の3月末時点で、銀行の窓口で、投資信託を買った人の46%が損をしている」。当然荻原はこれに騙されないように、といっている。「銀行の言う数字は、あなたの都合ではなく銀行の都合で出している数字」で、銀行はあなたの「豊かな老後」などはどうでもいいのである。

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