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  • 2020/07/25 掲載

特殊詐欺とは何か? 犯罪心理学で理解する、だまされないためのポイント

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私たちの生活は、さまざまな犯罪の危険と隣り合わせだ。たとえば、10種類に分類される「特殊詐欺」の手口のひとつである「振り込め詐欺」。メディアで大きく報道され、警察も注意喚起をしているにもかかわらず、だまされる人があとを絶たない。では、どうすればその危険を回避できるのだろうか。ここでは、東洋大学 教授で日本犯罪心理学会 常任理事の桐生 正幸氏に「特殊詐欺」の最新の傾向、犯罪者の心理、防犯のヒントを解説してもらった。

東洋大学 社会学部 社会心理学科 教授/日本犯罪心理学会 常任理事 桐生正幸

東洋大学 社会学部 社会心理学科 教授/日本犯罪心理学会 常任理事 桐生正幸

山形県出身。文教大学人間科学部人間科学科心理学専修。博士(学術)。山形県警の科学捜査研究所(科捜研)で主任研究官として犯罪者プロファイリングに携わる。その後、関西国際大学教授、同大防犯・防災研究所長を経て、現職。日本心理学会 代議員。科捜研時代には、ほぼ全罪種の犯罪現場に立ち会った。現在も、その豊富な経験を活かして、実際の捜査に協力することもある。また、兵庫県尼崎市の地域防犯アドバイザーなどを務めながら、「人を犯罪に走らせる要因」を総合的に検討し、データ分析を駆使した実践的な犯罪心理学の研究を行っている。新聞、ワイドショーや報道番組での事件解説、テレビドラマ・映画の監修など、さまざまな分野で活躍中。 主な著者に『司法・犯罪心理学』(北大路書房 編著)、『基礎から学ぶ犯罪心理学研究法』(福村出版)などがある。

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悪いヤツらはいったい何を考えているのか?
(Photo/Getty Images)

被害者の圧倒的多数は高齢者

 特殊詐欺とは、親族や公共機関の職員を装って、緊急事態を演出しながら被害者に接触し、現金などをだまし取る犯罪行為のことです。いわゆる「振り込め詐欺」が有名ですが、他にもさまざまな手口があり、10種類に分類されています。

 被害者は圧倒的多数が高齢者。しかも女性の被害者が群を抜いています(下記参照)。

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特殊詐欺被害者の年齢・性別構成(2019年1~12月)

 被害者に高齢者が多い理由として、相談する人がまわりにいない、判断機能が衰えている、パニックに陥りやすいという点がよく理由に挙げられます。もちろん、そうした理由もあるのですが、在宅時間が長く、電話(固定電話)を取りやすい環境にあることも、無視できない要因でしょう。

 実際、犯行グループの多くは、日中にコンピューターを使ってランダムに電話をかけ、どんな人が出るかを細かく調査しています。年齢や性別、在宅の有無、そして声のトーンなどから、ターゲットを絞り込んでいくわけです。

「振り込み詐欺」以外の特殊詐欺

 「振り込み詐欺」以外にも下記のような詐欺があります。大規模災害が起きたり、新制度がスタートしたりするときには、便乗した詐欺が横行する傾向があります。

●預貯金詐欺
役所の職員を装い、「医療費の過払い金があります。こちらで手続きをするのでカードをお預かりします」と提案。キャッシュカードをだまし取る。

●架空料金請求詐欺
 メールやハガキなどで、利用した覚えのない架空の料金を請求。「今日中に支払わなければ裁判になる」などの文面で脅す。

●金融商品詐欺
 価値がない未公開株や美術品を「購入すれば必ず価値が上がる」と信じ込ませ、購入代金をだまし取る。

●交際あっせん詐欺
 「現金を振り込めば必ず女性に会える」と言って、申し込んできた人から会員登録費や保証金をだまし取る。

都合のいい情報だけを信じる確証バイアス

 それにしても、「振り込め詐欺」のような単純な手口になぜ簡単に引っかかってしまうのか? そんな疑問を抱く人は多いでしょう。

 原因は、被害者が「認知バイアス」の影響を受けるからです。私たちは、日常生活の中で、先入観によって自分にとって都合のいい解釈をしてしまうことがあります。客観的に見れば不合理だと思われる判断でも、本人は間違っていないと信じてしまう。その思考の偏りやゆがみが認知バイアスです。

 なかでも特筆すべきなのが「確証バイアス」でしょう。これは、あらかじめ自分が立てた仮説に合致する事例だけに目を向けて、仮説を否定・反証する事実からは目を背けてしまう傾向のこと。このバイアスに支配されると、電話でつじつまが合わないことを言われてもおかしいと気づかなくなるのです。

 こうした犯罪が一向になくならないのは、特殊詐欺犯が巧妙に組織化されているからでしょう。特殊詐欺犯は単独犯であることはまずありません。複数の人間が関与し、徹底した分業体制のもとで犯行が行われます。

 首謀者以外に関与しているのは、電話をかける「かけ子」、被害者から振り込まれた現金を引き出す「出し子」、被害者に直接接触し、現金を受け取る「受け子」など。

 かけ子には、息子役以外に、警察官役や弁護士役、息子の上司役が登場することもあるようです。受け子や出し子は、Twitterなどで募集される“闇バイト”に応じてきた若者であることが多く、彼らはあくまで末端の存在に過ぎません。したがって、上層部とは関係が薄く、検挙されても全容が解明されないままになってしまうのです。

 最近、増加しているのが「アポ電詐欺」です(下図)。子どもや銀行員などになりすまして、ターゲットから現金の保有状況を聞き出し、面会(アポイントメント)をとりつけた上で現金をだまし取る手口です。

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特殊詐欺のカラクリ

【次ページ】被害者の協力者として忍び寄る

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