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  • 2020/11/17 掲載

チームラボ猪子寿之が語るコロナ禍の“分断”、人を「許せない」のは通信だから?

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デジタルアートの世界で、グローバルな活動を続け、この数年間で世界3000万人近くの人々を動員したチームラボ。「ボーダレス」を掲げてきたチームラボはアートシーンの中で、今回の新型コロナウイルスの“分断”を一体どのように捉えているのか。それが自らの作品にどんな影響を与え、そして今後どんな作品をつくり続けるのか。チームラボ代表の猪子 寿之氏に話をうかがった。
聞き手・構成:編集部 中島正頼、執筆:井上猛雄

聞き手・構成:編集部 中島正頼、執筆:井上猛雄

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チームラボ 代表 猪子 寿之氏

メディアがコロナ禍の恐怖や変化を煽った

──新型コロナウイルスが人々や社会に与えた影響をどのようにお考えですか?

猪子氏:オールドメディアから新興のIT系メディアまでが、間接的あるいは直接的に新型コロナウイルスの恐怖や変化を実際の数字以上に煽ることによって、利益を得ようとしてきたように思います。SNSなどを通じ、不確かな情報が大量に拡散されてしまう、俗に言う「インフォデミック」が起きて、人間が人間を煽って自らの社会を破壊した、とも言えるんじゃないかと。

 恐怖を煽ることや、それを撤回しないことで、情報による虚像を人々が信じて、社会の破壊が継続している状況なのかもしれない。急激な変化を必要以上に肯定したり、もしくは分断を煽ることで、それを肯定しているようにも見える。おそらく人は、放っておくと分断を好む方向に進んでいくのかと思いますね。

 でも、過去の歴史を振り返ると、どんな時代でも分断を乗り越えて、多様性を肯定してきた地域や都市が繁栄して豊かになってきたという事実があります。それは歴史が証明しているし、特に20世紀後半は知性と強い意志によって分断を乗り越えようとしてきた。

 仮にウイルスが真の脅威だったとしても、少なくともそれに対抗するのは薬であったり、ワクチンであったり、そういった医療体制であり、それらはすべてサイエンスに基づいたものでしょう。サイエンスは人類が積み上げて構成してきたもので、どこか一地域で発展したものではなく、長い歴史の中で世界中の人たちが互いに研究してきた成果です。

 だからこそ、ウイルスが脅威であればあるほど、人類が共通して立ち向かわなければいけない。本当は分断とは真逆の方向に進んだほうが良いはずなのに、グローバル化を否定したり、世界が協調するのを否定するかのような風潮っていうのは、悲しいと思いますね。

“分断”される世界で、チームラボのアプローチ

──本来は世界が協調して立ち向かうべきところを、逆にメディアやSNSが分断を煽ってしまったと。

猪子氏:そう。世界中の人が今回の新型コロナウイルス騒動の渦中で、何か何だかわからない状況のときに、たとえばテレビをつけると彼らが分断を煽ってきたわけです。

 でも、そういうことに対して、自分はちょっと怪しいなと感じていたので、たとえ家に閉じこもっていなくてはいけなくても、意図せずに世界がつながっていることを祝福できるようなプロジェクトをやりたいと思った。それで家にいながら体験できるアート「フラワーズボミングホーム」という作品を発表したんですよ。

コロナ禍であっても、人々がつながりあえるようにしたいという思いから発表した「フラワーズボミングホーム」紹介動画

 たとえば、花の絵を紙に描いて写真を撮ったり、スマートフォンやPCで花を直接描いてアップロードすると、世界中の人々が描いた花々と一緒に、家のテレビやPC(YouTube Live)の画面に花々が現れて、咲き渡っていくという作品。花々が散っていくときに、また共に新たに1つの絵が生まれていきます。

──チームラボは分断とは真逆の、さまざまな境界を曖昧にして溶け合うような作品が多いように思います。コロナ禍でも、家にいながら世界がつながっていることを実感できる手助けをしているのでしょうか。

猪子氏:本当に実感できるかどうかは分からないけれど、少なくとも祝福できたらいいなと。あとは誰もが家の中に、そういったアートを飾れたらいいなと思って。

 やはり当時は情報が錯乱して、いつまで家に籠らなければいけないのかも分からなかった。世界を旅することができなくなったり、往来ができなくなってしまったので、とにかく人がつながれるようなアートを作りたかったってことなんだよね。

人が人に会えるのは、本当はすごく幸福なこと

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──従来の作品は他者の行動で作品がインタラクティブに変化したり、他者との関りを意識しているものが多いと感じました。コロナ禍で他者との距離感が変化する中で、作品に与える影響はありますか?

猪子氏:いやいや、本当は劇的には変わっていないんだよね。だって、みんなが煽るもんだから、何か変わった振りをしないといけないだけで(笑)。家族との距離感もそう。マスクだって家の中ではしてないでしょ。本当は何も変わってないんですよ。

──そうなると世界に本質的な変化はなくて、チームラボの作品も本質的には変わらないと。

猪子氏:そう、変わらないと思う。人類の歴史の中で、人は常に“密”に向かってきたし、人が人に会えるのは、本当はすごく幸福なことなんだよね。同じことを言うにしても、人に会わずに何かを言うのと、会って言うのでは伝わり方が違う。ストレートなことでも、会って言うと許されたりするわけです。

 会っているだけで「まあまあ、何を言ってんのよ」って許せる感じ。でも会わずに本音を言うと喧嘩になっちゃう。Twitterなんか、ずっとケンカしているでしょ? たとえばファミレスなんかで、SNSのような感じで大喧嘩している人っている? そんなこと見たことがないよね(笑)。

──なるほど、やはりリアルで人に会うことは大切だと(笑)。一方で、チームラボの作品ではデジタルをうまく作品に落とし込まれています。デジタルには、離れた場所の他者をつないでくれるようなメリットもあると思うのですが。

猪子氏:そうですね。かつてシリコンバレーの人たちは、「通信」で人類を変えていった。つまり時間と距離を開放し、人間の脳を拡張するために通信という手段を使った。

 でも我々は、物質の代わりにデジタルを使っているんですよ。ペンキやプラスチックや鉄などのマテリアルをデジタルに変え、肉体がある空間を可能な限りデジタルで作るということ。

 もちろん通信は便利だけれど、どうしても薄っぺらくなってしまう。なぜなら(通信だけだと人を)許せないから。コピービジネスやタイムマシン経営をするぶんには良かったけれど、真の意味でのイノベーションは生まれにくい。本当にクリエーションを起こそうとすると喧嘩になってしまうからね。

【次ページ】「本当は生物と無生物の境界すら引けないのかもしれない」
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