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  • 2021/09/14

なぜDXの担い手が次々に生まれるのか、執行役員が語るキリンHDの人材育成術とは

DX推進組織として2020年4月にDX戦略推進室を設置したキリンホールディングス。目下、「キリングループ2019年-2021年中期経営計画」の最終年度として変革を進めている。同社では、DX実現のための投資はどのように評価、優先順位を設定しているのか。特にカギを握る人材面の戦略について、キリンホールディングス 執行役員 経営企画部 DX戦略推進室 室長の秋枝 眞二郎氏に聞いた。

執筆:阿部欽一 聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司

執筆:阿部欽一 聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司


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キリンホールディングス
執行役員 経営企画部 DX戦略推進室 室長
秋枝 眞二郎氏

IT・DX投資の判断基準はどこに設定している?

──IT投資に対する費用対効果(ROI)は、どのように評価しているのでしょうか。

秋枝氏:これはいくつかの視点があります。まずはIT投資全体で考えた場合です。たとえば、基幹システムのクラウド化などの投資効果というのは、なかなか測るのが難しい側面があります。ITシステムはビジネスに不可欠なインフラですが、これだけの費用をかけてこれだけの利益を得るという性質のものではありません。

 ただ、「ビジネスとして10%の利益率を確保したい」ときに、IT投資の比率や総額をこの程度にすべきという基準は持っておくべきだと思います。それによって、世の中全体をベンチマークしたときに、営業系システムだったらこの程度の投資比率が妥当だと考えることができます。

──では、DXに対する投資についてはいかがですか。

秋枝氏:DXの分野では、一つひとつの取り組みにROIを求めようとしています。たとえば、このプロセス改革に対してはこれだけのコストがかかり、これだけ利益が得られるという、ある程度の計画が可能です。私は、DX戦略推進室のメンバーには「必ずその試算をするよう」にと言っています。具体的には、変革に対するコストと、それに対するリターンは必ず概念実証(PoC)の計画書に記載させているのです。もちろん、あくまでPoCなので望んだ結果は出ないかも知れません。しかし、目標がないままに施策を実施しても、結果に対して適切に検証ができません。

 一方で、新しいビジネスを創出する場合は、そのビジネスがどの程度成長するのか、開発時点では分からないことがあります。そのため、新たなビジネス開発は「R&D(研究開発)」と捉え、ROIを求めないチャレンジであると考えるようにしています。

──どうしてもデジタルというと、「ブロックチェーン」「5G」などとテクノロジーありきで取り組むケースもあると思うのですが、そこは明確に異なるということでしょうか。

秋枝氏:私たちはIT企業ではないので、テクノロジーの開発自体に投資はしていません。テクノロジーを使って何をするかが重要です。たとえば、ブロックチェーンであれば、契約プロセスのデジタル化、ペーパーレス化をどう実現するかというケースで活用可能なツールとして見ています。

 もちろん、テクノロジーによって何ができるかという特徴・特性は理解していないといけません。その上で、ビジネスにどのように適用できるかを考える必要があるわけです。その意味で、DX戦略推進室を設立した目的には「世の中のトレンドの本質はどこにあるか」をメンバー間でレビューしたり、研究したりすることでユースケースを考えていくこともあります。それが後に「組織知」となり、会社の力になると考えています。

「攻め」と「守り」の両輪で、変革のスピードを保ちながらリスクを回避

──DXのリーダーに求められる資質についてはどのように考えますか。

秋枝氏:「先を見通せる」ことと「ある程度メンバーに任せられること」の2つですね。PoCのときは担当者に任せる必要がありますし、メンバーからさまざまなアイデアが出てきたときに「壁打ち」の相手になる役割も求められると思います。

 多くのメンバーは、PoCのアイデアを考えていくと壁にぶち当たります。それを誰かにぶつけて、新しい突破口が見つかることがあります。リーダーは、そうした相手になってあげられないとなかなか務まるものではないと思います。

 たとえば、テクノロジーに関する概念知識はある程度備えている必要があります。「この技術を使ったらいけるんじゃない?」というようなアドバイスが求められます。そういうセンスというのは必要かもしれないですね。

──そのあたりのセンスについて、ご自身はどのように身につけられたのでしょうか。

秋枝氏:私の場合は、個人の取り組みでしたね。会社としてトレーニングがあったわけではありません。そもそもIT部門に所属したこともありませんので。ただ、たまたまテクノロジーが嫌いでなかったというだけです。私が入社した頃はホストコンピューター全盛の頃でした。営業職だった私は、先輩にSQL文の書き方を教えてもらって、ホストコンピューターにプログラムでアクセスして、欲しいデータを抜き出して営業活動に活用していました。

 興味があると、目に入ったものや読んだものが頭に入ってきやすいですよね。自らが興味を持って勉強したものこそが、自分の業務やビジネスの改善・改革につながっていくと思います。

──DXの担い手として社内の連携は不可欠だと思いますが、IT部門との連携ではどのような工夫をされていますか。

秋枝氏:変革を担うシステムと、いわゆる基幹システムとは担当部門が分かれています。私たちDX戦略推進室は、前者の「攻めのIT」を担当します。後者の受発注や製造などの「守りのIT」システムを情報戦略部が担当しています。

 ただ、両者の連携は必要不可欠です。毎月、両部門で定期的に打ち合わせをしながら、お互いにやっていることの確認と、それがどういうリスクにつながっているかを相互にチェックしています。

 クラウド移行も進む中で、新しい取り組みについては必ずしも社内環境でやる必要もありません。一方で、クラウド利用には事業者側の都合で発生するリスクを考慮することも欠かせないでしょう。

──なるほど。攻めと守りの連携によって、変革のスピードを保ちながら、リスクを回避していくことが大事なのですね。

秋枝氏:はい。連携の重要性にはもう一つポイントがあります。たとえば、基幹システムのクラウド移行の場合、「今の業務プロセスをそのままに、システムだけ移行する」という発想になりがちですよね。そこにDX戦略推進室が関わる意義としては「今の業務のやり方でいいのか」という部分を加味できる点だと思っています。

 どうしても現業部門は「今やっている仕事が正しい、あるいは今やっていることに疑念を持ちにくいもの」です。外部の観点から見たときに「果たしてそれでいいのか」を問いかけるのが、私たちの仕事ではないかと思います。

──変革には現業部門の抵抗もあるのではないでしょうか。

秋枝氏:そうですね。「まあまあ、そうは言っても……」という話は必ず来ます。でも関係性やコミュニケーションが適切なら「考えてみて欲しい」と言えば、再考してもらえるはずです。「DX戦略推進室が言うようにドラスティックには変えられないけど、このぐらいだったら」という代案が出てくることもあり、そこから対話がはじまるわけです。逆に、現業側から「こんなやり方ならどうか」というアイデアが出てくることにもつながるのです。私たちの役割は、そうした流れの最初の「始動」の部分にあると思います。

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【次ページ】キリンHDがこだわる、DX人材採用・育成における3つの戦略

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