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  • 2021/09/17

「ブルーポンド戦略」とは?“コピー大国”中国企業が実践する市場の作り方

新規事業において、ライバルのいない市場を狙う「ブルーオーシャン戦略」を実践することは非常に難しい。そもそも大きな市場を見つけることができず、仮にめぐりあえてもすぐにライバルに模倣され、レッドオーシャンに変えられてしまうためだ。しかし中国ベンチャーの戦略に詳しい高千穂大学 永井竜之介准教授によれば、「『ブルーオーシャンなど存在しなかった』のではなく、『ブルーオーシャンをつくる手順が間違っていた』」という。中国ベンチャーが圧倒的なスピードで実践する「ブルーポンド」戦略とは何か、同氏の著書『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』より紹介する。

高千穂大学 商学部 准教授 永井竜之介

高千穂大学 商学部 准教授 永井竜之介

1986年生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業、同大学大学院商学研究科修士課程修了の後、博士後期課程へ進学。同大学商学学術院総合研究所助手、高千穂大学商学部助教を経て2018年より現職。専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。日本と中国を生活拠点として、両国のビジネス、ライフスタイル、教育等に精通し、日中の比較分析を専門的に進めている。

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「海」ではなく「池」を作る戦略とは
(Photo/Getty Images)
※本記事は『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』の内容を再構成したものです。

ブルーオーシャンは「夢物語」か

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『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』
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 ビジネスのスピードに関して、こんな話を聞いたことがある。「同じビジネスを進める場合でも、日本の大企業では数カ月かかるが、日本のベンチャー企業なら数週間で済み、中国ベンチャーだったら数日で実現してしまう」。冗談のように聞こえるかもしれないが、あながち間違いでもない。それほどに中国ベンチャーの意思決定と実行のスピードは圧倒的なのだ。その背景にあるのが、高速に差別化を量産し「数を撃って、当てていく」ブルーポンド戦略である。

 ブルーポンド戦略について詳しく触れる前に、まずはその元となるブルーオーシャン戦略を取り上げておこう。ブルーオーシャン戦略とは、ライバルと激しい競争を繰り広げて血を流す「レッドオーシャン(赤い海)」で戦い続けるのではなく、ライバル不在で競争のない「ブルーオーシャン(青い海)」を新規開拓していこう、という概念である。差別化と低コストを両立させた、価値のイノベーションをつくり出すことを目指す戦略として、2000年代に注目を集めた。

 ブルーオーシャン戦略があてはまる事例として有名なものに、シルク・ドゥ・ソレイユがある。従来のサーカスは、出演料の高額なスター演者が、維持コストの高い動物とともに芸を披露する、ファミリー向けのものだった。それに対して、シルク・ドゥ・ソレイユは、スター演者と動物を使わずにコストダウンし、その代わりに、サーカスに演劇やバレエの要素を取り入れて、より芸術性の高い大人向けのショーをつくりあげた。

 日本企業の例でいえば、任天堂のゲーム機「Wii」がその好例だ。既存のゲーム機はゲーム好きの既存ユーザーに向けて、画質や処理速度の機能を高めていく競争をしていた。それに対してWiiは、これまでゲームをしなかったファミリー層やシニア層を新規開拓し、簡単な操作性で家族みんなが遊べるゲーム機としてつくられた。

 この2つの事例は、ブルーオーシャンを実現したと言われる。ただし、「消費者が自由に使える『可処分時間』を奪い合う」という意味では、厳密にはライバル不在というわけではない。シルク・ドゥ・ソレイユは、サーカスとの競争はなくても、舞台演劇や映画と「大人がエンターテインメントを楽しむ時間」の奪い合いを繰り広げることになった。ウィーはライバルのゲーム機と真っ向からの対立はしなくなったが、テレビ番組やレジャー施設と「家族団らんの時間」をめぐって競い合うことになった。

 「直接的なライバルが存在しないブルーオーシャンをつくり出す」という夢のような話は、多くの企業を魅了した。しかし、先に挙げた2つの例のように、いざ実践してもなかなかブルーオーシャンは見つからなかった。戦略を採用し、慎重なリサーチを重ねたうえで、満を持してブルーオーシャンを狙ってみても、大きな市場に出会うことができない。奇跡的にめぐり合えたとしても、すぐにライバルに模倣され、レッドオーシャンに変えられてしまう。そうして、ブルーオーシャン戦略は、まさしく夢物語として、多くの業界・企業の現場で実践が諦められるようになっていった。

 しかし、ここには大きな勘違いが存在する。それは、「ブルーオーシャンなど存在しなかった」のではなく、「ブルーオーシャンをつくる手順が間違っていた」ということである。そもそも「いきなりブルーオーシャンをつくる」という都合の良い認識からして間違っている。ライバルのいない青い大海は、その辺に転がっているようなものではないし、簡単に0から開拓できるものでもない。大海を狙って時間をかけて計画を練っている間に、市場も環境も変わっていき、狙いは外れに終わってしまう。一直線にオーシャンへたどり着けると期待して、それができなかったから失望する、というのは短絡的すぎる。

ブルーオーシャンをつくる正しい手順

 では、ブルーオーシャンをつくる正しい手順とは何だろうか?答えは「まず小さな青い池(ブルーポンド)をつくり、それを青い海(ブルーオーシャン)へと急拡大させる」というものだ。これこそ、圧倒的なスピードを持つ中国ベンチャーが実践している「ブルーポンド戦略」である。

 この戦略では、まず、小規模なもので構わないので新しい製品やサービス、ビジネスをとにかく速く大量にリリースすることからスタートする。それらのなかには、市場の反応が想定外に悪かったり、すぐさまライバルがフォローしてきて、競争が激化するものも出てくるだろう。そのなかでどのポンドがオーシャンになれるかを見極め、取捨選択したうえで、そこに一気に資源を集中させてオーシャンへと電撃的に急拡大させる。この最後の電撃的拡大は「ブリッツスケール」と呼ばれる。

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ブルーポンドを創り、ブルーオーシャンへ広げる
(出典:筆者作成)

 ブリッツスケールについては次の記事で取り上げるが、ブルーポンドとブリッツスケールはセットで組み合わせて考えるべき戦略だ。ブルーポンド戦略で小さなポンドを沢山つくり、まずは市場に出してみてオーシャンになりえる可能性を探る。そして、現在の市場の反応、市場の成長予測、競合の対応などから、選択と集中を行い、ブリッツスケールさせる。

 ポンドを量産するためには、0から画期的なアイデアを生み出すことに固執していては、到底数が追いつかない。ではどうすべきか。アンテナを高く張って情報収集し、同業他社や他業種の既存ビジネスから自社に取り入れられるものを見つけ出し、新たな組み合わせをつくっていくしかない。つまり、ブルーポンド戦略とは、「模倣して取り入れ、差別化を量産し、そしてビッグビジネスへ育て上げていく」戦略でもあるのだ。

【次ページ】模倣から競争優位を勝ち取る美団点評、コピーしたうえで本家を超える

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