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  • 2022/03/18

原油「1バレル=100ドル越え」が続くと日本はどれだけヤバいのか

原油価格の高騰を受け、2022年1月の経常赤字が過去2番目に大きい水準となった。季節調整済みで黒字を維持したものの、原油価格の高騰が続いた場合、恒常的な経常赤字に陥る可能性が見えてきた。経常赤字と経済成長率は直接関係しないとはいえ、今の産業構造のまま赤字体質に転落することは弊害が大きい。1バレル=150ドル時代を見据えた戦略の転換が必要である。

経済評論家 加谷珪一

経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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原油価格の高騰が続く中、1バレル=150ドル時代を見据えた戦略の転換が必要である
(Photo/Getty Images)

原油価格の高騰が続けば、定常的な赤字体質に

 財務省が発表した2022年1月の国際収支統計によると、海外とのお金のやり取りを示す経常収支は1兆1,887億円の赤字だった。赤字は2月連続で、金額は過去2番目に大きい水準である。

 経常収支は大まかに言うと貿易収支と投資収益を合わせた数字である。高度成長時代の日本は輸出が好調で、毎年、多額の貿易黒字を計上していた。だが、日本の国際競争力の低下に伴い、年々貿易黒字の額が低下し、近年は、過去の黒字で蓄積した外貨の運用益(所得収支)が経常黒字の大半を占めるようになってきた。

 ちなみに1月の貿易・サービス収支は2兆3,422億円の赤字となっており、所得収支である1兆2,890億円をはるかに上回っている。貿易赤字の要因は言うまでもなく原油価格の高騰をきっかけとした輸入金額の増加である。輸出も前年同月比で15.2%増えているが、輸入の増加(プラス39.9%)を埋め合わせることができず、最終的な収支は(経常収支)は大幅な赤字に転落した。

 過去最大の赤字額を計上したのは2014年であり、この時も原油価格が100ドルを超えていた。つまり、日本の経済構造においては、原油価格が100ドルを超えて推移する状況では経常赤字に転落する可能性が高いと考えるべきである。

 原油価格の高騰は、ウクライナ情勢が直接的なきっかけではあるが、原油価格の上昇とそれに伴うインフレは以前から進んでおり、コロナ危機による物流の混乱とウクライナ情勢がこれに拍車をかけた。つまり、現在進行している輸入物価の上昇は一時的なものではなく、仮にウクライナ情勢がある程度収束しても、今後も継続すると考えた方が良い。

 原油価格の動きを正確に予想することは難しいが、以前のように定常的に100ドル以下の取引が続くという、楽観的な予想を前提に戦略を組み立てることは危険だ。リスク管理は、常に最悪の状態を考えるのが基本原則であり、物価上昇についても継続を前提にすべきだろう。

 日本では現時点において原発がほとんど止まっている状態であり、日本の原油(天然ガス)依存度は極めて高い。一連の物価高騰を受けて、原発再稼働の議論が出ているが、(国民世論の説得は別にして)原発を再稼働すれば、すべてがバラ色に解決するという、甘い期待は持たない方が良い。

 なぜなら、日本はウラン資源も100%輸入に頼っており、原発の発電コストも最終的にはウラン価格に左右されるからである。エネルギー価格が上昇すればウランの価格も上がるので、原発だけが低コストであり続ける保証はない。ウランを生産する地域でウクライナと同じような事態が発生すれば、ウランの供給が途絶えるリスクもある。エネルギーを外国に頼っている以上、こうしたリスクは避けられないと考えるべきだ。

 今、発生しているインフレは単に原油価格だけが元凶というわけではなく、全世界的に実施された量的緩和策の影響など貨幣的要因も多分に影響している。基本的に物価は上昇傾向であり、輸入価格の増大によって経常赤字に転落しやすくなっているとの認識が必要である。

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日本の経済構造においては、原油価格が100ドルを超えて推移する状況では経常赤字に転落する可能性が高いと考えるべきである
(Photo/Getty Images)

経常赤字を前提にした経済構造とは

 一連のインフレはすべて海外(世界経済)を基点とするものであり、日本政府にできることは限られている。インフレを防ぐ根本的な手段は存在しないという現実を前提に、戦略を組み立てなければならない。

 輸入金額が増大し、仮に経常赤字体質が定着した場合、国内経済には極めて大きな影響が及ぶ。経済学上、経常収支と経済成長率は直接的しないが、今の日本経済の体質のまま経常赤字になることは弊害が多い。

 経済学の基本原理である貯蓄投資バランス論に従えば、国民の貯蓄は、企業の設備投資と財政収支、経常収支に案分される。日本の場合、財政赤字が減る見込みはほぼゼロであり、ここに、経常収支の赤字が加わる。このまま恒常的なインフレが続き、貯蓄率が変わらない場合、経済学の理論上、企業の設備投資を犠牲にせざるを得なくなる。そうなると国内の景気には確実にマイナスの影響が及ぶだろう。

 一連の事態を回避するためには、(1)輸出競争力を復活させて貿易黒字を確保する、(2)経常赤字を前提にそれがメリットになるような経済構造への転換を目指す、(3)貿易を縮小し閉じた経済を目指す、という3つからの選択になる。(3)は鎖国に近い政策であり、現実的に選択できるとは思えないので、(1)もしくは(2)ということになるだろう。

 日本の輸出競争力の低下は1990年代から継続している問題であり、簡単に回復できるようなものではない。一度、工業製品の競争力を落とした国が復活するケースは極めて希であり、仮に実現できたとしても、相当な時間がかかる。したがって輸出競争力を回復させるという選択肢も、事実上、閉ざされていると思って良い。

 そうなると、経常赤字を前提に、経済が回るような産業構造への転換がどうしても必要となる。具体的には、内需を中心とした経済成長が実現できるよう消費拡大を促すとともに、経常赤字国において必須となる、海外からの資金調達を円滑にするため、金融市場を整備していく必要があるだろう。

【次ページ】金融市場の整備はほとんど進んでいない

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