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  • 2022/03/09

ロシア制裁手段「SWIFT排除」の影響力とは? なぜ金融の「核兵器」と呼ばれるのか

ロシアによるウクライナ侵攻に対し、米欧はSWIFT(国際銀行間通信協会)排除と外貨準備の制限という2つの制裁を実施した。特にSWIFTは金融の核兵器などと呼ばれており、フルに発動した場合の影響力は凄まじい。外貨準備制限もロシアが通貨介入できなくなるという点において、相当な影響力を持っている。

経済評論家 加谷珪一

経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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ロシア制裁に使われたSWIFT排除の影響力とは?
(写真:ロイター/アフロ)

SWIFTは送金情報をやり取りするシステム

 SWIFTというのは、銀行などが海外送金する際に利用する国際的な情報ネットワークである。私たちが銀行で海外送金を依頼すると、ほどなくして外国の相手口座に資金が振り込まれるが、物理的に送金は行われていない。各国の銀行は、相手国にあらかじめ口座を持っており、送金と着金を相殺処理するだけである。また、一連の代理決済は基本的にドルで行われ、ドル以外の通貨国に送金する場合にも一旦、ドルを経由することになる。

 このような仕組みになっているのは、ドルで一括処理しないと、多対多の無数の送金処理が発生し、コストが大幅に上昇するからである。このため基軸通貨ドルを発行する米国は国際金融システムにおいて絶対的に優位な立場にある。

 上記の仕組みを円滑に運用するためには、誰がどこの銀行にいくらの金額を送ったのかという情報を一元管理し、相殺処理を行うデータを作成する必要がある。この情報を取りまとめているのがSWIFTである。SWIFTの本部はベルギーにあり、200カ国、1万1000以上の金融機関が参加している。もし、このネットワークへの参加を拒否された場合、送金情報の取りまとめができなくなるので、送金業務が著しく滞ってしまう。

 もっともSWIFTが出来たのは1973年であり、それ以前は電話やテレックスで送金情報をやり取りしていた。原理的には昔の時代に戻り、手作業で送金業務を行うという手段が残されている(もしロシアがそうした体制に移行するのであれば、さすがに電話ではなく、電子メールやメッセージングツールを使うと考えられる)。

 だが、グローバル化が進む現代社会においては、膨大な数の送金が行われており、SWIFTは1日あたり約4200万件のデータを処理している。このシステムから完全排除されてしまえば、ほかの送金ネットワークを利用しない限り、送金業務の大半が不可能になると考えて良いだろう。

 ロシアは国内経済や財政の多くを石油や天然ガスの輸出に依存しており、輸出の代金決済ができないと経済や財政が破綻する。貿易は国家にとって生命線であり、SWIFTから排除すれば、事実上、貿易の停止に追い込める。これがSWIFTが金融の核兵器と言われる所以である。

 もっとも、最初に発動された制裁プログラムには、ロシア最大手の国営ズベルバンクと、天然ガスを扱う国策企業ガスプロム系列のガスプロムバンクは対象になっていない。現時点では、米欧は100%ロシアを追い詰めるつもりはないというメッセージと理解できるが、これも停戦交渉の進捗次第ということになるだろう。

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SWIFTから排除すれば、国家にとって生命線とも言える貿易を事実上の停止に追い込める影響力がある
(Photo/Getty Images)

意外と脆い「外貨準備」という資産

 ロシアのSWIFT排除は段階的に行われるので、すぐには効果を発揮しないと考えられる。むしろロシア経済への影響が最初に及ぶのは外貨準備の使用制限だろう。

 外貨準備は通常、通貨を発行している相手国の中央銀行に口座を開設し、その口座に預金するという形で保有している。たとえば日本が持っている外貨準備のうちドル資金については、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)への預け金である。ロシアが保有する外貨準備のうち、ドルについては日本と同様、FRBの口座で、ユーロについては欧州中央銀行の口座で管理されている。

 日本を含む米欧は、ロシアの外貨準備の引き出し制限を決定した。ロシアは各国から経済制裁を受けているので、同国の通貨ルーブルは大幅に下落する可能性が高い。ロシアとしては為替介入を行いルーブルを買い支えたいはずだが、そのためには保有する外貨を売って、ルーブルを買うという為替取引が必要となる。保有する外貨を引き出せないと、介入するための資金を用意できないので、ルーブルの下落を防げない。

 実際、ルーブルは3月5日時点において、ウクライナ侵攻前との比較で30%以上下落した。ロシア国内では輸入品の価格が高騰し、インフレの加速が予想される。ロシア中央銀行は政策金利を20%に引き上げる緊急措置を発表したが、金利を上げすぎると今度は国内経済を急激に縮小させる可能性があり、いずれにせよロシア経済には深刻な影響が及ぶ。

 話が少しそれるが、今回の一件から分かるように、各国が保有する外貨準備というのは、ほとんどが相手国の中央銀行に預けられており、自国内には存在していない(というよりも、そもそも紙幣以外で外貨を保有した場合、そのような形態にならざるを得ない)。日本は中国に抜かされたものの、約1兆4000億ドルの外貨準備を保有しており、膨大な外貨準備の額は日本が世界最大の債権国であることの象徴とされた(為替自由化後の外貨準備は貿易ではなく主に為替介入の結果として生じるので、あくまで象徴ということになる)。

 だが、日本が膨大な額の資産を持っていると言ったところで、相手国の中央銀行が口座を凍結してしまえば、外貨準備は1銭も引き出すことはできない。多額の外貨準備を保有していることは、経済運営上、重要なことではあるが、場合によっては、一瞬で無価値になってしまうリスクもあるという現実について、理解しておく必要があるだろう。

【次ページ】ロシアの生存は中国次第と言えるワケ

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