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  • 2022/08/17 掲載

人工光合成とは? 実用化はいつ? CO2で資源ができる仕組みをわかりやすく解説

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今、日本の企業や研究機関がプロジェクトチームを結成し、総力をあげて研究・開発に取り組む「人工光合成」。人工光合成とは、太陽光エネルギーで水を分解して生成した水素(H2)を二酸化炭素(CO2)と合成し、化学製品原料などの有機化合物を生成するものを言う。カーボンニュートラル社会の実現のため、特にCO2排出量の多い化学産業が実用化を待ち望む「夢の技術」だ。では実用化されればどのような効果が期待できるのか、また実用化に向けてどんな課題があり、どのような研究・開発が進められているのか。人工光合成についてわかりやすく解説する。

執筆:元技術系公務員 和地 慎太郎(わち・しんたろう)

執筆:元技術系公務員 和地 慎太郎(わち・しんたろう)

メーカー出身の元技術系公務員。東北大学大学院工学研究科応用化学修了後、大手メーカーで電子材料などの製造開発に従事。その後、化学の技術系公務員として、水質汚濁防止法や廃棄物処理法などの環境分野で10年以上の実務経験。現在、大学に勤務しながら、フリーのライターとして執筆活動を行っている。公害防止管理者。廃棄物処理施設技術管理者。

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図1:人工光合成による有機化合物(オレフィン)の製造プロセス

人工光合成とは何か

 人工光合成とは、「光触媒」などを用いながら、太陽光エネルギーにより水(H2O)を分解して水素(H2)と酸素(O2)を高い効率性で生成する技術だ。さらに生成された水素を、工場などから排出される二酸化炭素(CO2)と、合成触媒によって合成させることで、プラスチックといった化学製品の原料などになる有機化合物(オレフィン)を生成するものである(図1)。

 その名前の通り、人工光合成は植物が行う「光合成」からヒントを得て作られた。植物の光合成は植物が太陽エネルギーを使ってCO2と水から有機物(でんぷん)と酸素を生み出す働きを持つのに対し、人工光合成はCO2と水を原材料に太陽エネルギーを活用する形で化学品を合成することができる。

 生成するものが有機物というところは光合成も人工光合成も同じだが、具体的な有機物の種類は異なり、その用途も大きな違いとなっている(図2)。

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図2:植物の光合成と人工光合成を比較
(出典:経産省 資源エネルギー庁)

 人工光合成では前述の一連の作業を、太陽光エネルギーから水素を製造するプラントと、水素・CO2を合成してオレフィンを製造するプラントを広い土地に設置して行う(図3)。

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図3:人工光合成を実用化した時のプラントイメージ
(出典:経産省 資源エネルギー庁)

 この人工光合成を2030年までに実用化させようと、日本の企業や研究機関がプロジェクトチームを結成して研究・開発に勢力を注いでいる。

人工光合成の3つのメリット


・CO2削減
 人工光合成は植物の光合成と同じようにCO2を吸収して、有機化合物を生成する。このため、人工光合成を利用することでCO2は必然的に削減されていく。

 特に人工光合成に大きな期待を寄せている産業が化学産業だ。日本の化学産業は出荷額約44兆円、従業員数約88万人の巨大産業である一方で、CO2の排出量、産業分野の約22%を占めており、鉄鋼業界に次いで2番目に多い。

・エネルギー問題の解消
 化学製品は石油製品の1つであるナフサなど、大量の化石資源を消費する。こうした化石資源は(日本の場合は輸入に頼る)石油価格の上昇や資源が枯渇するリスクも懸念されている。

 しかし人工光合成が実用化されれば、そこで生成できるオレフィンがプラスチックといった化学製品の原料となる。石油価格の上昇や資源の枯渇といったリスクを心配する必要がなくなる。

 またメタノールなど燃料となる液体を作り出すことができれば、化石資源を使わずに自動車に利用する、といったことも可能になる。

・食糧問題の解消
 人工光合成によって食用タンパク質を作り出すことができるようになれば、食料を自動で生産できる仕組みを構築でき、人口増加によって直面している食糧問題の解消に期待できる。ドイツの研究者らが発表した論文によると、微生物を太陽光のエネルギーで培養することで、大豆などの10倍以上の効率で食料を合成できるという。

 人工光合成は大きなメリットを有しているが現在のところまだ実用化に至っていない。実用化に向けては大きな課題がある。

人工光合成の2つの課題

 人工光合成の肝となる光触媒の歴史は古い。しかし近年のカーボンニュートラル社会の実現に向け、再び注目を集めている。

 光触媒は、太陽光(主に紫外光)を受けると、電子を放出し、その放出された後には穴(正孔)ができる。正孔が水を酸化して、酸素が生成され、放出された電子が水を還元して、水素が生成される(図4)。

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図4:光触媒によって水素が生成される原理
(出典:山形大学工学部・有馬研究室 研究発表

 光触媒が受けた太陽光に対して、水素や酸素を作りだす割合を「太陽エネルギー変換効率」(変換効率)という。実用化に向けては、少なくとも10%の変換効率が求められる。

 この高い変換効率の実現とともに、大量生産かつ低コスト化も課題となっている。決して簡単にクリアできるような課題ではなく、「高い変換効率」と「大量生産・低コスト化」を両立できる技術を開発することによって初めて実用化が現実味を帯びてくる。

 しかし、人工光合成の実用化に向けた研究・開発を通して課題解決に大きな進歩を見せている。これについては後ほど解説しよう。

人工光合成のプロジェクト「ARPChem」とは

 人工光合成の実用化に向けては、国を挙げての「人工光合成プロジェクト」が進められている。

 2012年度に、経産省主体で「人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem:アープケム)」が設立され、2014年度から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)へ運営・管理が承継された(図5)。

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図5:2021年度におけるARPChemの概要
(出典:経産省)

 ARPChemは、太陽光と光触媒を利用して製造した水素と、CO2を合成させて、化学製品の原料を作り出すプロセスの確立を目的とした組織である。ARPChemには、多くの企業や大学・研究機関が研究に携わっている。
【企業】
三菱ケミカル、富士フイルム、INPEX、三井化学、TOTO

【大学・研究機関・団体】
ファンセラミックスセンター、東京大学、京都大学、東京理科大学、産業技術総合研究所(産総研)、信州大学、明治大学、名古屋工業大学、山口大学、東京工業大学、早稲田大学
 2014年度からはじまったプロジェクトは、光触媒を中心に人工光合成の一連のプロセスの研究開発が進められた。参画企業や研究機関は、それぞれの得意技術を持ち寄って開発を進め、2021年度までの8年間で数々の研究成果を得ている。中には人工光合成の大規模な実証実験に成功した「世界初」となる成果もある。

【次ページ】「ARPChem」の第2期や「人工光合成」の研究・開発を解説

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