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  • 2022/10/28 掲載

食品産業での単純作業の解消には、ロボット活用が「現実解」になりつつある

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人を大量に使う食産業の人手不足は深刻さを増している。特に冷凍冷蔵庫での作業、材料を扱う重労働、夜間の弁当やお総菜作り、毎日同じ作業の繰り返しの洗浄作業などは人気がない。単純作業でありながら責任の重い入院患者向けトレーメイクのような精神的負荷の高い作業もある。まずは人が嫌がる作業、苦手な作業、向いていない作業、敬遠されがちな作業から、AIとロボットを使って自動化していってはどうだろうか。

サイエンスライター 森山 和道

サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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食産業でのロボット活用に期待したい

現実的なソリューションとしてのロボットが増えてきた

 秋は物流、食、農業、ビル管理などさまざまな業界の専門展示会がめじろ押しだ。人手不足を背景として、どのイベントにも必ず、何らかのかたちでロボット活用を含む自動化が提案されている。ロボットの姿が見られない展示会は、もはやないと言ってもいいくらいだ。

 一方で、以前よりも落ち着いている感もある。特に展示会では以前は「客寄せパンダ」のようにロボットが扱われていることも少なくなかった。ただ人目を引くためだけのロボットだ。いわゆる「未来展示」といった類いのものである。

 コンセプト展示は見た目が面白いので我々メディアも取り上げやすい。また、業界関係者は未来を思い描くことができる。意外と社内のモチベーションにも影響する。だから、それはそれで悪いことではない。だが今ここにあるニーズに応える、困りごとへの課題解決といったものとは、やはり毛色が少し違う。

 ロボットメーカーの営業やシステムインテグレーターの人たちからは「ロボットは、特に中小企業の人からはすぐに『高価』で『難しい』と言われがちだ」とよく聞く。二言目には「でも高いんだろ」「難しくて使いこなせないよ」と言われるそうだ。それはそうだろうなと思う。しかし今のロボットはメーカーの工夫によってだいぶ使い勝手が良くなり、システム全体の価格も下がってきているのもまた確かだ。

 たとえば滝川工業は自社開発のIH焼印機とユニバーサルロボットのアーム、そして非接触型のチャックを使った移載システムを参考出展していた。ベルヌーイの定理を利用したチャック(圧縮空気を吹き出すことで中心部に負圧を生み出して逆に吸い付けるエンドエフェクタ)を使うことで、食品のような柔らかなものであっても傷つけずに運ぶことができる。こういった作業も今は人が行っている現場が多いが、今後はロボット活用が進められていくべきだ。


 食産業に特化したロボットシステムインテグレーターとして知られるニッコーは 、段ボールケース開梱(かいこん)・取り出し装置を出展。重たい食品原料の入ったダンボールケースを自動で開梱(かいこん)して、下から中身を取り出し、空き箱を逆方向に排出する装置だ。このような荷さばきは人手で行われていることが多く、重量物を冷蔵・冷凍環境で扱わなければならないこともある。この装置を使うことでカッターを使うことによるけがリスクや段ボールカットで発生する紙粉などの問題も提言できる。食品だけではなく幅広い分野で活用できそうな装置である。

 同社の営業第二部部長 大場勝氏は「食品製造現場におけるサステナブルな生産体制構築とは」と題した講演も行い、主に中小企業向けに「自動化」「省力化」「技術継承」の3つの観点から事例も交えて具体的に紹介した。なお同社は産業用ロボットを取り扱うための教育施設として「北海道ロボットラボラトリー」も設置している。


 まだまだロボットを「色物」のように見ている経営者や現場の人も少なくないと思うが、ロボットが、ただ単にロボットであるだけで人目を引く時代は過ぎ去ろうとしている。ロボットは何でもできるわけではなく、得意な作業や領域があり、それを見いだして当てはめることが自動化への唯一の道だ。この当たり前のことを多くの人が理解し、浸透するに至った結果、昨今の展示会では、より現実的なソリューションが増えつつある。

病院での給食トレーメイクの自動化で、作業者の精神的負荷とリスクを軽減

 食品工場設計の「フードファクトリー」、異物混入対策などの「フードセーフティジャパン」、そして学校・病院・高齢者施設向けの給食・大量調理現場向けの専門展示会「フードシステムソリューション」など5つのイベントから構成された「FOOD展2022」(2022年9月28日~30日開催)でも、ロボットの利点を生かした堅実な出展が増えていた。

 病院や介護施設の給食機器総合メーカーのAIHOは、主に大病院を対象として、ファナック製の協働ロボットを使った「トレーメイク協働ロボットシステム」を出展していた。病院給食では患者ごとに違うメニューを提供しなければならない。ご飯の量も異なるし、患者によっては食べてはいけないものもあるからだ。そのトレーを作るロボットシステムである。

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AIHO「トレーメイク協働ロボットシステム」

 現在の実際の作業では、ご飯担当、おかず担当、汁物担当の人が「食札」に書かれたメニューを目で見て一つ一つ確認し、それに応じて食材を選んだり盛り付けたりして、トレーに食材を置いている。人海戦術であり、間違いが許されないため、集中力も必要とされる作業だ。

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現状の病院給食は全て人手で作業されている

 それをロボットを使って提供し、画像AIを使って確認する仕組みである。人ではどうしても間違いが発生するし、人手も取られてしまう。そこでロボットを使おうという提案だ。


 面白いのはコンベア上の食札の確認もOCR(光学文字認識)で行っていること。RFIDなどではない。食器はこれまで使っていた備品をそのまま使える。

 ロボットは食器1個あたり8秒(1時間あたり450個)をトレーに置くことができる。ほぼ人と設置面積の変わらない協働ロボットを使っているため、リスク対策を施せば人の隣で作業させることもできる。従来の運用とほとんど変化なく今までと変わらぬ品質を保つことができる一方、人手を介する部分を減らせるため、衛生面も向上するというわけだ。

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ブレインの食事識別POS「EatScan」

 最終的な確認には、パン屋や学食など食堂向け精算システムとして用いられているブレインの「EatScan」を使っている。たとえばカレーとカツカレー、エビ天うどんときつねうどんといった違いも区別できる。検品してトレーを完成した後はトレーごとラックに入れて、再加熱して配膳する。

 このように、単純作業でありながら責任も重く、人の「集中力」を要求してしまっているような精神的負荷の高い作業は、ロボットを含む自動化システムが担うべき部分だし、向いている作業だ。給食事業者も、導入している施設もリスク低減のために自動化を考えるべき作業と言える。

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一人一人異なる食札。これに合わせて一つ一つトレーを作らなければならない

まずは人気がない工程から省人化 食缶の洗浄や残菜計量の自動化

 もう1つ、ロボットが使われるべき作業はやはり重労働の軽労化だ。食材は重たいし、食品が入った食缶もやはり重たい。今の学校給食の現場では、これを主にパートの女性たちが運んでいる。

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中西製作所の省人化食器洗浄システム。最後の仕分けにはチトセロボティクスのロボットシステムが使われている

 給食センター全体での省人化やスループット向上を狙う中西製作所は今回、省人化食器洗浄システムを提案していた。いわゆるロボットらしいロボットが使われているのは、最後の洗浄後の食器の仕分けの部分だけだが、その前の食器とトレーを反転し、洗浄工程に移し替える部分も含めて全体を自動化したシステムだ。

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中西製作所の食缶洗浄システム

 また今回は学校給食センターの洗浄作業に特化した商品として、食缶洗浄器も提案していた。学校給食では文部科学省のガイドラインによってエネルギー摂取量が決められており、戻ってきた食缶を洗浄するだけではなく、残菜量を計量し、手書きで記録しなければならない。その後で残菜はディスポーザーに廃棄し、内部をノズル洗浄する。この作業は当然、午後に行われるわけだが、午前の調理工程に比べると人気がなく、人も集まりにくい。そこで省人化のために、計量・記録と予洗いを自動化した機械である。

 容器を載せるとバーコードを使ってどのクラスの情報かといった情報を取得し、自動で計量し、その後に食缶を自動でひっくり返して下から予洗いし、洗浄機へ回す。繰り返しになるが、現在の現場では、この「持ち上げてはひっくり返す」作業を人手で行っている。こういう作業は自動化されるべきだ。ただし、この機械においても最初のセットは人力で行わなければならない。ここにも自動化技術を入れてほしいところだ。

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食器を重ねてカゴに入れたままカウント、洗浄も可能だ

 このほか、食器やトレーの自動カウント装置も出展されていた。食器やトレーの洗浄を楽にするだけでなく、学校給食ならではの作業だが、給食センターでは食器やトレーが戻ってきた後、返し忘れがないかどうかチェックするためにカウントしなければならない。「通常は枚数確認になれた人でも5秒はかかる」そうだ。自動カウント装置では食器カゴにバーコードでクラス人数がセットされているので、それと自動で照らし合わせる。この作業を画像認識を使ってカゴに入れたまま行う。

 そしてその後の洗浄も、洗浄スプレーで食器と食器の隙間を作りながら連続洗浄する独自の「離間洗浄」技術でカゴに入れたまま行うことができる。洗浄工程全体を自動化した機械である。この機械を使うことで、通常は5人は必要な工程が3-4人程度で済むようになる。午後の工程においてはおおよそ1人分の作業を減らすことができるという。

 給食センターではどちらかというと午前の調理のほうが人を集めやすく、午後の洗浄作業のほうは人気がないのだそうだ。仕事しているパートの方のなかには午後には他の用事がある人も多いこともあるだろう。またそもそもの話として、日々違う作業を行う調理よりも洗浄のほうは毎日同じ作業が行われる。当然、毎日同じ作業が行われるほうが自動化しやすい。だからまずは「人気がない工程を省人化する」ことを狙いとした自動化だ。

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学校給食センターにも徐々に変化が始まっている

 余談だが、日本全体で人口減少が進むなか、給食センターをもっと多様な用途で利活用できないかという考え方もなくはない。しかし学校給食では食材費は保護者負担、施設は自治体負担となっているし、安全面を考えるとさまざまな問題があるため、話はそんなに単純ではない。

 いっぽう、東京・福生市の「防災食育センター」のように、平時には小中学校向けの学校給食施設、非常時には避難所・災害備蓄庫、そして大人数の食事を賄える応急給食施設等の防災センターとして活用しようという動きもいくつかの自治体で始まってはいる。せっかくの社会リソースなので有効に活用するように社会全体で考えられるようにしてほしいところだ。

【次ページ】常温と冷凍を行き来できるAMR

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