- 会員限定
- 2022/11/01 掲載
公と民「まっぷたつ」に、今「NHK分割民営化」を議論する絶好の機会と言えるワケ
大関暁夫のビジネス甘辛時評
株式会社スタジオ02代表取締役。東北大学経済学部卒。 1984年横浜銀行に入り企画部門、営業部門の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時にはいわゆるMOF担を兼務し、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。2006年支店長職をひと区切りとして独立し、経営アドバイザー業務に従事。上場ベンチャー企業役員を務めるなど、多くの企業で支援実績を積み上げた。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業などのアドバイザリーをする傍ら、出身の有名進学校、大学、銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆やコメンテーターを務めている。

「主題」はネット事業の見直しだが
そもそも、今回の作業部会組成のきっかけとして、若い世代を中心とした「テレビ離れ」が言われて久しく、かつ最近では幅広い世代がYouTubeの視聴はもとよりテレビ番組もネット配信で見るというライフスタイルが一般的になりつつある、という現実があります。テレビ受信機にひもづけされるNHKの受信料に支えられるNHK事業そのものが、このままでは成り立たなくなる可能性が出てきたわけなのです。このため作業部会の名目上のテーマは、テレビだけでは先細りが確実なNHKのネット事業を本来業務に位置付け、これを受信料の対象とすることの可否を検討するということなのです。現在、NHKのネット事業は補完業務に位置付けられており、その予算は年額200億円が上限とされています(「NHKインターネット活動業務実施基準」による)。一方で、NHKの受信料収入は年間約7,000億円です。すなわち補完業務が本来業務に移行するならこの上限は取っ払われて、受信料収入の中で自由に予算を振り分けることができ、NHKのネット業務拡大は確実な流れになると考えられます。
しかしNHKが取り組むネット事業は、新聞社やテレビ局などの旧勢力に加えて、ヤフーやグーグルをはじめ大小さまざまなニュース・情報プラットフォームやYouTubeをはじめとした動画サイトなど、すでに長らく民間事業者が新旧入り乱れてしのぎを削っているというのが実情です。ここに新たにNHKが公共メディアの本業として事業拡大するというのは、明らかな民業の圧迫ではないのか、という疑問が真っ先に思い浮かぶところなのです。
となるとこの議論の前に、NHKのあるべき業務範囲という大前提議論が必要になるのではないのか、と考えるのです。すなわち、民業圧迫にならない「公共メディア」の本来業務はどうあるべきなのかということです。これはとりも直さず、長らく議論が停滞してきたNHKの民営化議論に直結する議論であるとも言えるでしょう。テレビ、ネットという媒体を問わず、NHKの事業のどこまでが公共事業にふさわしく、どこからが民間に委ねるべき事業であるのか、という事業の色分けをこの機会にこそしっかりするべきであるということです。
NHKの「民営化」、実は過去にも話題に上っていた
さかのぼること17年、小泉政権下の2005年にNHK職員の不正問題やセクハラ問題、さらにはやらせ報道が発覚。「小泉改革=聖域なき構造改革」の最中であったこともあり、急激なNHK批判の高まりは「NHKの民営化も議論すべし」との世論の盛り上がりにつながり、複数の有識者会議でNHK改革について本格議論がなされたということがありました。この時の各有識者会議は、こぞって「公共放送見直しすべし」との結論を出していました。しかし、このまま見直し議論が具体化するかと思われた矢先、小泉首相は2001年にNHKの組織形態を特殊法人のまま現状維持する「特殊法人等整理合理化計画」が閣議決定されていたことを理由に、「NHKの民営化はしないという閣議決定を踏まえた方がいい」と発言。この話は突如立ち消えになってしまいました。政治の舞台裏で何があったのかもはや知る由はありませんが、これによってNHK民営化議論は永い眠りにつくことになったのです。
今回の作業部会は、自民党の情報通信連絡調査会の提言によって組成が決まったわけですが、ネット時代の急速な進展を受けてこのままでは将来はないと考えたNHKが自民党に働きかけたと考えるのが筋でしょう。現時点ではネット事業の本来業務化議論を大義名分とした会議ではありますが、先にも述べたように、その議論を深めれば深めるほどNHKの存在そのものを問う議論に行きつくわけなのです。17年の時を経てようやくNHK民営化議論が永い眠りを解き放つ時が来たのではないかと、個人的には捉えています。
【次ページ】分割民営化はいかに実現できるのか
関連タグ
関連コンテンツ
PR
PR
PR