- 2025/10/04 掲載
先送りが命取り…BCG日本共同代表が指摘、新規事業の「撤退力」を高めるべき3つの理由
三和銀行(現三菱UFJフィナンシャル・グループ)を経て1998年にBCGに入社。金融、通信、ハイテク、消費財、運輸などの業界の企業に対して全社戦略、事業戦略、新規事業構築、事業再生、アライアンスなどに関わる支援を行っている。カーネギーメロン大学経営学修士(MBA)。東京大学文学部卒業。著書に『新規事業着工力を高める』(東洋経済新報社)。
あえて「新規事業撤退」について議論すべき理由は3つ
多くの方々が新規事業の成功に向けて心血を注いでいるところ、新規事業の撤退をテーマに論じていくのは心苦しい。「懸命にやっているのに水を差すような議論をしてくれるな」という批判の声も聞こえてきそうだ。また、そのような意図はまったくないが、「新規事業撤退力を高める」という言葉だけでは「どんどん新規事業をやめるべきだ」と主張しているように誤解されてしまうかもしれない。そのような不安やリスクを感じながらも、あえて新規事業の撤退について論じようとしているのは、今の日本では新規事業に積極的に取り組むことが極めて重要だと強く信じているからだ。これをテーマに論じようとした動機は、次の3つの強い課題意識から来ている。
最悪の場合…新規事業に着工できなくなってしまう
新規事業を継続的にスタートし、高い確率で成功させていくためには、場合によっては難しくなった新規事業から撤退することも検討し、うまく幕引きすることが欠かせない。しかし、その重要性は十分には認識されていない。こうした現状への懸念が動機の1つ目である。長期的、また連鎖的に新規事業を成功させるためには3つの能力が必要だ。1つは、新規事業を始める力=新規事業着工力である。新規事業を始めなければ結果は出ないものの、実際には始めるところでつっかえてしまうことが多い。また、始め方を間違えてしまうと成功確率は落ちる。よって、新規事業着工力は非常に大切である。
2つ目に必要な能力は、新規事業遂行力である。うまく新規事業をスタートしても、成功に向けた道のりは山あり谷ありであり、強い心を持ってチャレンジしていかなければならない。よって、幾多の壁を打ち破り、やり遂げる力が重要であることも明白だ。
そして3つ目の能力が、新規事業撤退力、すなわち撤退が必要な局面で、適切に、うまく幕引きを図る力である。
人によっては千に三つしか成功しないくらいに難しい「センミツ」などとも言うが、つまりどんなに周到に準備をして頑張っても、うまくいかないことが多いのだ。そうなると、ある時点で撤退を考える必要がある。しかも、単にやめてしまうのではなく、うまくやめることが重要である。やめ方を間違えると必要以上の損害を出したり、貴重な教訓を得られなくなったりするかもしれない。そうなると、「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」かのごとく「うちは新規事業は向かない」「もっと慎重に着工するか否かを検討すべきだ」といった空気が蔓延し、最悪の場合は新規事業に着工できなくなってしまう。
うまく撤退できなければ適切に着工できなくなり、新規事業を連鎖的に成功させることは望めない。撤退力と着工力には相関関係があり、極論すればうまい撤退ができない企業はうまい着工ができないと言ってもよい。日本企業が新規事業を次々と生み出し、成功していくことを願って、まずはこの撤退力の重要性を改めて強調したい。 【次ページ】日本企業は「適切な撤退」ができているかというと……
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