- 2025/10/09 掲載
BCGが解説…優秀な人材を「儲からない新規事業」で“無駄遣い”する事情
三和銀行(現三菱UFJフィナンシャル・グループ)を経て1998年にBCGに入社。金融、通信、ハイテク、消費財、運輸などの業界の企業に対して全社戦略、事業戦略、新規事業構築、事業再生、アライアンスなどに関わる支援を行っている。カーネギーメロン大学経営学修士(MBA)。東京大学文学部卒業。著書に『新規事業着工力を高める』(東洋経済新報社)。
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「撤退」にはどのような意義とメリットがあるのか
撤退という難題にあえて挑む必要があるのは、多くの意義とメリットがあるからだ。撤退が急務になってしまった状況では利点を考えている暇はないが、能動的な撤退を適切に検討するためには、意義の大きさを念頭に置いておくことで難しさに対峙できる。ここでは、撤退にはどのような意義とメリットがあるのかを改めて確認してみたい。辛い意思決定だが…経済的メリットも大きい
合理的に考えて成功の可能性はかなり低い、あるいは、当初の戦略が変更されてその新規事業に資源を割くべきではなくなったという状況では、今までの投入リソースはムダになるとしても、速やかに事業を取りやめることで、それ以上の損失を防ぐことができる。これが撤退の最大の意義の1つである。最も避けるべきは、撤退時期を延ばして追加的にリソースを投入し、損害を増大させることである。また撤退は、取り掛かっていた事業やその道中で得られたアセットを売却することにより、投資もしくはコストを若干なりとも取り戻し、トータルの損失を軽減させる可能性がある。しかし、これも時期が遅れてしまうとアセットの価値が減じたり、撤退やむなしなのだろうと売却先に足元を見られたりするので、適切な時期での撤退判断が重要である。
いずれにしろ辛い意思決定ではあるが、撤退には、追加的なコストを抑えつつ場合によっては損失を取り戻せるという経済的メリットがある。
ヒトという“希少資源”が最も威力を発揮するのは…
新規事業にはヒト・モノ・カネのリソースを投入しているので、その事業をやめるとリソースが解放される、すなわち他の事業に振り向けて活用できるようになる。企業によって希少なリソースは異なるが、多くの企業ではヒトが最も重要なリソースである。特に新規事業には往々にして非常に貴重な人材を投入するものだ。そのような人材を成功可能性が極めて低い戦線に貼り付けておくのは大変もったいない使い方であり、より可能性がある領域に配置転換することが企業価値の最大化につながってくる。
新規事業の厳しい戦線を経験した人材は、結果を出せなかったとしても当初より大きく成長していることが多く、さまざまな領域での活躍が期待できる。既存事業でもコーポレート部門でも力量を発揮してくれるだろうし、別の新規事業に振り向ければ直前の経験を活かして大きく貢献してくれる可能性もある。
もちろん、厳しい戦線で苦労してきた人材を即座にまた新規事業に投入してしまうと疲弊させてしまうおそれもあり、注意が必要だ。本人も困難な経験から頭を切り替え、心を整理する時間が必要になる。
ヒトという希少資源は配置転換で最も威力を発揮する。同時に、新規事業に投入されていた資金やコーポレート機能、さらにはマネジメントのマインドシェアなども解放されほかに振り向けられるので、撤退はリソース活用の最大化という観点で非常に大きな意義をもたらす。 【次ページ】再挑戦の余地を残す重要性を示す、有名企業の事例
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