• 2023/02/01 掲載

アングル:社長交代も「トヨタイムズ」、直接発信にこだわる訳

ロイター

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[東京 1日 ロイター] - 上場会社の社長交代は記者会見の形を取るのが一般的だが、1月26日に約14年ぶりの社長交代を発表したトヨタ自動車は違った。オウンド(自社)メディア「トヨタイムズ」上でニュース番組として緊急生放送し、豊田章男社長は「ステークホルダー(利害関係者)の皆さまにできるだけ早く正しくお伝えするため、急遽このような場を設定した」と述べた。

「正しくお伝えするため」。この言葉に自社メディアを使うトヨタの狙いが凝縮されている。豊田氏は社長就任早々の2009年、米国リコール問題でメディアから叩かれた。10年の米ワシントンでの公聴会では、時にいら立ちをあらわにする議員たちから3時間にも及ぶ追及を受け、その後開いた販売店オーナーや従業員との会合で涙を流した。

豊田氏は21年末の雑誌のインタビューで、「強烈な」孤独感と「見捨てられた」ような感覚を味わったと当時を回想している。

特にトヨタはここ数年、一部の機関投資家や環境活動家、メディアから電気自動車(EV)への取り組みに消極的と批判されてきた。豊田氏は「トヨタは(商品を)フルラインアップで持ち、グローバルに展開している」ため、脱炭素化の手段はEV一択ではなく、地域事情によってさまざまな選択肢があるなどと反論。トヨタイムズでも「『EV対HV(ハイブリッド車)』などとメディアは必ず対立構造で物を言う」と語る。

豊田氏に近い企業幹部は「章男さんの危機感やトヨタを思う気持ちは誰にも理解できるものではないが、メディアに分かってもらえないといういら立ちがある」と指摘。「日本経済を支える企業だからこそ『その期待に応えなければ』という強い思いがうまく伝わらず、メディアへの不信感を増幅させてきたようだ」と話す。

トヨタがトヨタイムズを始めたのは19年。今年からは「トヨタイムズニュース」を毎週月曜に配信。自社メディアを「企業や組織自らが所有し、消費者に向けて発信する媒体」と定義し、ニュース番組は「世界中のトヨタの仲間たちをつなぐプラットホーム」と紹介している。

ニュース番組の司会は元テレビ朝日アナウンサーでトヨタに昨年入社した富川悠太氏で、社長交代の番組でも進行を取り仕切った。HV「プリウス」の生みの親、内山田竹志会長の退任も発表し、プリウスの歴史や豊田社長と佐藤恒治・次期社長がEVで疾走するビデオを流した。1時間ほどプレゼンテーションや談笑が続き、残り約30分でメディアの記者からの質問に答えた。

番組は動画投稿サイトのユーチューブでも生配信され、チャットには「この会見の形いいな!」、「トヨタイムズでの報告が一番いいですね」などと好意的な視聴者の声が見受けられた。

<ステークホルダー>

豊田氏のように社長が直接、情報発信するのは大企業の世界的な潮流なのかもしれない。米実業家イーロン・マスク氏もSNS(交流サイト)経由のコミュニケーションを優先し、経営するEV専業テスラの広報部門を解体した。

しかし、広報の専門家や投資家はこの流れに警鐘を鳴らす。自社メディアやSNSを優先しすぎる広報手法は、従業員や消費者のほか、株主、取引先、債権者、地域社会など大企業の幅広いステークホルダー全員にはメッセージが届かないとみている。

危機管理広報コンサルティング会社アクセスイーストの山口明雄代表取締役は、トヨタは日本を代表する企業であり、その社長交代は従業員やファン以外にも重要な話だと指摘。その発表方法には「社会的な責任がある。自社メディアで行うのはいかがなものか」と話す。

豊田氏は社長交代の番組で、危機に陥った時に選んだ道は「もっと良い車をつくり、世界各地域のステークホルダーに愛され、必要とされる町一番の会社を目指す道」であり、言い換えれば「商品と地域を軸にした経営」と説明。成果が出るまでには時間がかかり、「短期志向の人には理解も評価もされない茨の道だ」とも続けた。

あるトヨタの株主は「豊田社長の言うステークホルダーは『ファン』中心のように聞こえる。トヨタイムズで耳障りの良い話しか発信されないと危険で、メディアなどによる客観的な視点で気づきをもらうことも必要だ」と心配する。

金融市場関係者らによると、トヨタのIR(投資家向け広報)は決して悪くなく、担当者に頼めば話を詳しく聞くことができるといい、「忙しい社長なので、トヨタイムズでの発信も効率を追求した結果なのだろう」と一定の理解を示す。ただ、豊田氏の前の歴代社長3人と定期的にあったアナリストとの懇談会は、豊田社長の場合は就任後に1回あった程度だったと複数の市場関係者は振り返る。

トヨタを約30年間分析してきたSBI証券の遠藤功治シニアアナリストは「上場企業である以上、市場との対話は必要。経営責任を担う社長の考え方を直接かつ定期的に聞きたい」と話す。

トヨタはロイターの取材に対し、豊田社長とアナリストとの定期的な懇談会は「特に実施していないが、さまざまなステークホルダーの皆さまから共感を得られる発信を目指している」と説明。トヨタイムズを活用する理由も「ステークホルダーにできるだけ早く正しくお伝えするため」としている。

(サム・ナッセイ、白木真紀、山崎牧子、杉山聡、小宮貫太郎 編集:久保信博)

*脱字を補いました。

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