- 2023/02/10 掲載
アングル:中国経済再開巡るアジア株取引、選別色強める段階へ
中国によるロックダウン(都市封鎖)解除に伴う楽観ムードが広がった当初、アジア地域全体でまず買われたのは、最も追い風が期待できると誰の目にも明らかだったマカオのホテルやタイの観光関連銘柄だった。
だがそれから3カ月が経過し、投資家はよりじっくりと購入対象を選別する時期がやってきたと認識しつつある。
T・ロウ・プライスの株式部門ポートフォリオ・スペシャリスト、ロバート・セッカー氏は「株価反発における次の段階では、強じんな利益の伸びを達成できる企業が重視されるようになると考えている」と述べた。
HSBCのアジア太平洋株式戦略責任者ヘラルド・ファンデルリンデ氏は、既に恩恵を享受した旅行やゲーム関連株に続いて「年内は中国経済の回復がどのような形で中国以外の消費関連企業や銀行に波及していくかという話に尽きると思う」と話す。
次の成長の柱を見つけようとしている投資家に対してアナリストが推奨するセクターは、中国消費者の待機需要の恩恵に浴する分野で、例えば接客サービスや小売り、さらに経済が悪化していた際に厳しい環境に置かれたショッピングモール運営などの業界だ。
投資家は、昨年17兆8000億元(2兆6200億ドル)にまで膨れ上がった中国国内の家計貯蓄が消費に回り、これらのセクターを潤すという展開を当てにしている。
バリュー・パートナーズでアジアファンド(日本を除く)の筆頭マネジャーを務めるマン・ウィン・チャン氏は、台湾の半導体やハードウエア関連銘柄をポートフォリに追加しており、これらの企業のバリュエーションにはハイテクの下降サイクルを巡る多大な弱気心理が既に織り込まれたとの見方を示した。
台湾積体電路製造(TSMC)は昨年10月の直近安値からこれまでに45%上昇しているものの、予想利益に基づく株価収益率(PER)は15.5倍となお5年平均の18.8倍より低い。
3年にわたる厳しいロックダウンからようやく解放された中国の人々が旅行や社会活動に向けて活発に動き出すとの観測から、マカオのカジノ企業サンズ・チャイナやウィン・マカオ、MGMなどは過去3カ月で株価が2倍以上に上がっている。
同じ期間にシンガポール航空は12%、トリップ・ドット・コムは実に68%も値上がりした。
当然ながらアジア株の中でも中国株に最も強い追い風が吹き、MSCI中国株指数は昨年11月以降の上昇率が50%近くとなり、MSCI東南アジア株指数の13%やMSCIアジア太平洋株指数の26%を大きく上回った。
こうした中で投資家は、中国以外でバリュエーションが低迷しているセクターや企業に物色の手を伸ばしている。
まだバリュー・パートナーズのチャン氏は、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国の輸出の20%強が中国向けである以上、中国の回復は地域全体の成長を押し上げると主張し、ASEANの株式市場全体の投資判断をオーバーウエートとしている。
台湾、インド、フィリピン、ベトナム、タイ、インドネシア、韓国の各証券取引所のデータに基づくと、これら7カ国・地域の株式市場では1月の外国人投資家による合計買越額が88億ドルと、月間ベースで少なくとも過去2年間の最大規模になった。
昨年は外国人が572億ドル相当を売り越している。
<中国と世界の綱引き>
投資家の間では、中国経済の急速な持ち直しが世界経済の減速、あるいは景気後退(リセッション)に陥る可能性がもたらす悪影響をある程度和らげてくれるだろうとの見方が出ている。
バリュー・パートナーズのチャン氏は、世界的なリセッション懸念は市場で既に織り込まれた半面、中国の経済活動再開に伴うプラス効果はまだ浸透していないと指摘した。
世界全体でインフレはピークアウトの兆しを見せ、主要中央銀行の金融引き締めは間もなく終わると予想されているだけに、投資家の関心は世界経済がリセッションに突入するかどうかに移りつつある。
フランクリン・テンプルトン・インスティテュートの投資ストラテジスト、クリスティー・タン氏は、リセッションが到来し、それが緩やかな程度にとどまるということは誰もがもう「知っている」ように見受けられるが、中国と同国の経済活動再開に絡む取引はまだ始まったばかりで、年内のアジア株を一段と押し上げる要素になるかもしれないと予想した。
(Ankur Banerjee記者)
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