• 2023/03/13 掲載

アングル:「SVBショック」は特殊事例か、よぎる金融危機の苦い記憶

ロイター

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伊賀大記

[東京 13日 ロイター] - 米シリコンバレー銀行の破綻を市場関係者の多くは「特殊事例」と受け止め、現時点で金融不安につながると見る向きは少ない。一方で、今回の破綻劇は金融タイト化に銀行や市場が脆弱であることを浮き彫りにした。米利上げが起点となった世界金融危機の苦い記憶が市場参加者の脳裏をよぎりつつある。

<銀行株主導で米株続落>

金融持ち株会社SVBファイナンシャル・グループ傘下のシリコンバレー銀行は、テクノロジーやヘルスケア分野の新興企業を相手に預金を集めていた。米連邦準備理事会(FRB)の利上げで、顧客企業はベンチャーキャピタルからの資金調達コストが上昇。預金引き出しが止まらず、資金繰りに行き詰った。

米金融当局が同行の破綻を発表した10日の米国株式市場は、銀行株が主導し主要3指数がそろって続落。パレオ・レオンのマネージングディレクター、ジョン・プラビーン氏によると、銀行システムを巡る不確実性に注目が集まった。

だが、ピクテ・ジャパンのシニア・フェロー、大槻奈那氏は「特定産業を対象にした金融機関であり、あくまで特殊事例」と言う。米利上げで価格が下落した米国債やMBS(住宅ローン担保証券)を多く運用していたことや、テクノロジー産業のIPO(新規株式公開)が減少したことも打撃となった。

さらに大口預金が中心で、個人の預金流出懸念にはつながらないことも影響が限定的とみられている理由の1つだ。米連邦預金保険公社(FDIC)が保護する預金額の上限は1口座当たり25万ドルだが、昨年末時点で同行の預金のうち89%が保護の対象外だった。保護対象外だったことも、顧客が預金引き出しを急いだ理由となった。

今月8日には、暗号資産(仮想通貨)関連企業が中心顧客の銀行持ち株会社の米シルバーゲート・キャピタルが自主清算計画を発表していた。同社はFDICの規制対象ではないが、相次ぐ米金融機関の破綻が市場の警戒感を強める結果となった。

<脆弱性を浮き彫り>

一方で、シリコンバレー銀の破綻は、米連邦準備理事会(FRB)など主要中央銀行が進める金融引き締めの中で、銀行や金融市場が抱える脆弱性を浮き彫りにした。

金利上昇は銀行にとってプラスだが、逆イールド状態では調達金利よりも運用金利が低くなる。米国の2・10年債の利回り格差は一時1%以上に広がり、1981年以来の大きさとなるなど厳しい「逆ザヤ」状態が続いている。米国債やMBSの価格下落も含み損となって金融機関にのしかかっている。

「突然死のような破綻劇は、同行の個社要因によるところが大きかったと言えるが、米銀全体が抱える脆弱性を浮き彫りにした側面があったことも否定できない」と、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏は指摘する。

世界金融危機も米利上げが始まりだった。FRBは住宅バブルを抑えるため、04年6月から17回連続で利上げし、1.0%だった政策金利は2年で5.25%まで上昇。不動産価格は急落し、信用の低い借り手が利用していた住宅ローンの返済が滞り、いわゆるサブプライムローンを組み込んでいた証券化商品の価格が急落。リーマン・ブラザースなど大型破綻につながった。

当時のバーナンキFRB議長は07年7月の議会証言で「サブプライムローン関連の損失は500億ドルから1000億ドル程度と見込まれる」と発言していたが、終わってみれば、損失は1兆ドルとも2兆ドルとも言われ、信用収縮に伴い世界経済は大打撃を受けた。

<金融危機前を超える米利上げ>

金融危機を経て、不動産など特定分野へのリスク偏重は抑制され、銀行は自己資本を厚くし、ドルスワップなどの安全装置も整備された。金融システムの安全性はかつてより格段に増している。

足元の景気も堅調だ。10日に発表された2月米雇用統計は、雇用の堅調さを示す一方、賃金の前月比伸び率が鈍化するなど、FRBの0.5%利上げ観測を後退させる内容となった。

しかし、当時とは違いインフレという問題がある。信用リスクが高まる場合は、中央銀行による流動性供給が効果的であることは金融危機で得られた成果だが、マクロ経済が悪化した場合、いま利下げすれば、インフレを高進させてしまうリスクが大きい。

FRBは金融危機前を超えるペースで利上げしている。昨年3月に利上げを開始し、0─0.25%だった政策金利を今年2月までに4.50─4.75%へ引き上げた。当時よりも金利水準は低いが、「3倍速」の0.75%利上げを4回実施しており、半分の1年で当時を超える利上げ幅となっている。

「SVBショック」で金利は低下しているが、不安心理の高まりが主因の金利低下は好感されず株価は下落。日米金利差の縮小で円高圧力も強まっている。「米株のPER(株価収益率)は18倍程度で10%程度の下げ余地がある。日本株のPERは13倍半ばで割高感は乏しいが、米株が下げれば影響は免れない」と、ニッセイ基礎研究所のチーフ株式ストラテジスト、井出真吾氏は指摘する。

世界金融危機で、世界の金利は07年6月をピークに低下したが、株価は一方向的に下がったわけではない。米ダウは同年10月に高値を付けるなど上下を繰り返した。しかし、08年9月15日のリーマン・ショックを経て、その後半分以下になる。

(編集:久保信博)

※クロスマーケットは、.JPCM+ENTER キーで検索できます。

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