- 2021/07/27 掲載
ソニーグループ・東工大など、動産担保融資におけるAIモニタリングシステムの検証開始
個体を遠隔からモニタリングするPETERの活用により、適切・効率的なABLの実行に繋がり、持続可能な畜産経営への貢献が期待されます。なお本実証実験は2022年3月末まで実施する予定です。
■実証実験の背景
畜産物を担保とするABLは、畜産経営への貢献に資するものとして注目されていますが、放牧を取り入れた畜産を対象とする場合、融資に必要となる個体数の確認や個体ごとの状況把握に時間やコストがかかるという課題がありました。
共同プロジェクトチームは、2019年4月より信州大学農学部において、肉用牛の放牧飼育管理に焦点を当て、アニマルウェルフェア(※5)に配慮しつつ、その管理作業を低コストで実現する仕組みの実証実験を行ってきました。放牧牛に首輪型センサを取り付け、放牧牛の飲水・摂食、伏臥位、立位、歩行などの複雑な行動や姿勢の情報をAI処理により推定する技術検証をこれまでに実施し、放牧牛の遠隔モニタリングを行う首輪デバイスとクラウドアプリケーションなどで構成するシステム「PETER」を開発しました。
今回の実証実験は、この取り組みを、放牧牛を担保とするABLに応用する試みです。従来から畜産ABLに積極的に取り組む鹿児島銀行と、放牧を中心に飼養を行っているさくら牧場が本実証実験に協力することで、銀行のABL業務と畜産経営の両面からPETERの放牧牛ABLへの有効性を検証し、追加すべき機能の洗い出しや課題の抽出などを行います。
■実証のポイント
本実証実験では、さくら牧場の放牧牛10頭にPETERの首輪デバイス(PETERエッジ)を装着し、アプリケーションで放牧牛の遠隔モニタリングを行います。PETERエッジで計測した放牧牛の位置データと活動データに加え、牧場内の環境データをクラウドに集約し(PETERクラウド)、銀行がABL業務を行う上で有効なデータ項目の抽出とPETERクラウドを介した銀行へのデータ提供のあり方を検証します。PETERを活用したABLの実現性検証の取り組みを通じ、畜産農家と銀行の情報連携の効率化と畜産ABLの更なる利用促進を目指します。
※1 サイレントボイス:地球上の自然、里山、社会、人に存在する今まで測ることができなかった・気づかなかった現象を、新規のセンサ技術および既存のセンサ技術を用いて顕在化させた統合的データのこと。東工大COIでは、上記センサ技術により取得されるデータをAI処理により、解釈可能あるいは私たちに関わりのある情報にすることを「サイレントボイス」に声を与えると表現しています。
※2 エッジAI技術:通常はクラウド側で実行されるAIの処理をセンサなどのデバイスが存在するエッジ側で実行する仕組み。
※3 LPWA技術:「Low Power Wide Area」の略で、「低消費電力で長距離の通信」ができる無線通信技術の総称。
※4 動産・債券担保融資(ABL):流動資産(集合動産、在庫、売掛債権等)を担保として活用する金融手法。
※5 アニマルウェルフェア:国際獣疫事務所(OIE)は、アニマルウェルフェアを「動物の生活や死(食用目的のと殺や疾病管理目的の安楽殺)という状況における動物の肉体的および精神的状態」と定義しています。すなわち、人類による動物利用(家畜、実験動物、展示動物、伴侶動物など)を認めつつも、前述の状況に際して、可能な限り苦痛を排除しようとするものです。現在、消費者教育の推進に関する法律(平成24年施行)の下で普及が進められている「倫理的消費」の畜産対応として、アニマルウェルフェアが示されています。農林水産省でも、アニマルウェルフェアに配慮した家畜飼育を推進すべく通知が発出されているところです。また世界的な食品企業はもとより、国内食品企業でも、自社で取り扱う畜産原材料に対して、アニマルウェルフェアの重要性を示し、アニマルウェルフェアに配慮された畜産物を扱うことが表明されています。国連食糧農業機関(FAO)でも、持続可能な家畜生産の手法の一つに、アニマルウェルフェアを位置づけ、アニマルウェルフェアへの対応は世界的な流れになっています。
関連コンテンツ
PR
PR
PR