- 2021/12/22 掲載
NTT・東大・理研、ラックサイズで大規模光量子コンピュータを実現する基幹技術開発
量子コンピュータは、重ね合わせ状態と量子もつれ状態という量子力学特有の現象を利用した超並列計算処理が可能なことから、世界各国で研究開発が進められています。現在様々な方式が考案され、その中でも光の量子である光子を用いて計算する光量子コンピュータには多くの強みがあります。例えば、他の方式で必要とされる冷凍・真空装置が不要なため、実用的な小型化が可能です。また、時間的に連続的な量子もつれ状態を作ることで、集積化や装置の並列化なしに量子ビット数をほぼ無限に増すことができます。加えて、光の広帯域性を活かした高速な計算処理も可能です。さらに、一つの光子で量子ビットを表すのではなく、多数の光子で量子ビットを表す手法を用いれば、光子数の偶奇性を用いた量子誤り訂正ができることも理論的に示されています。この方式は光通信技術とも親和性が高く、通信波長帯の低損失な光ファイバや光通信で培われた高機能な光デバイスを用いることができ、実機構築に向けた飛躍的な発展が期待できます。
しかしながら、この光量子コンピュータにおいて量子性の源となるスクィーズド光は生成が難しく、これまで光通信波長帯で動作する光ファイバ結合型の高性能な量子光源が存在しませんでした。スクィーズド光は偶数個の光子流であり、かつ量子ノイズが圧搾された特殊な状態の光で、量子もつれ状態生成の源となります。また、光子数の偶奇性を利用することで量子誤り訂正が可能になることから、スクィーズド光は量子誤り訂正においても極めて重要な役割を担います。これらの実現には多光子成分においても偶数性を保ち、高い量子ノイズ圧搾率を有する光が必要です。例えば大規模量子計算を実行できる時間領域多重の量子もつれ(2次元クラスター状態)(※2)の生成には、65%を超える量子ノイズ圧搾率が求められます。
今回、光通信波長で動作する光ファイバ結合型量子光源を新たに開発し、光ファイバ部品に閉じた系で、6テラヘルツ以上の広帯域にわたって量子ノイズが75%以上圧搾された連続波のスクィーズド光の生成に世界で初めて成功しました。これは光量子コンピュータにおける基幹デバイスが、光の広帯域性を保ったまま光ファイバと相互接続性のある形で実現できたことを意味します。これにより、光ファイバおよび光通信デバイスを用いた安定的かつメンテナンスフリーな閉じた系において、ラックサイズの現実的な装置規模での光量子コンピュータ開発を可能とし、実機開発を大きく前進させることができます。
本成果は、2021年12月22日(米国時間)に米国科学誌「Applied Physics Letters」において掲載されます。また本論文は「Editor's Pick」論文に選出されました。なお、本研究の一部は、科学技術振興機構ムーンショット型研究開発事業の助成を受けて行われました。
※1 スクィーズド光源
非可換な物理量対の量子ゆらぎのうち、片方の量子ゆらぎ(量子ノイズ)が圧縮された状態の光を生成する装置。非線形光学現象を効果的に引き起こす媒体により実現される。
※2 2次元クラスター状態
あらゆる量子計算パターンを実現できる量子もつれ状態。一方向量子計算という汎用型量子計算手法において重要なリソースとなる。2019年に東京大学古澤教授らによって、1万を越える光量子ビットがもつれた2次元クラスター状態が実現された。(参考文献1)
【参考文献1】W. Asavanant, et al., "Generation of time-domain-multiplexed two-dimensional cluster state," Science 366, 373 (2019)
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