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  • 2022/12/22 掲載

データで徹底分析「科学技術立国」日本の危機、論文の質「途上国並み」という現実

SIC戦略フォーラム

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工業資源が限られていることから科学技術立国として邁進してきた日本。これまでノーベル賞受賞者も数多く輩出してきた。しかし今、徹底した定量データに基づいて各国の論文情報を分析すると、極めて危機的な状況にあることがわかる。中でもトップ10%論文率という論文の質の指標では、58カ国中52位と開発途上国レベルにまで下落しているという。『科学立国の危機: 失速する日本の研究力』を上梓した豊田長康氏(鈴鹿医療科学大学学長)が一般社団法人システムイノベーションセンター(SIC)で語った。

執筆:フリーライター/エディター 大内孝子

執筆:フリーライター/エディター 大内孝子

主に技術系の書籍を中心に企画・編集に携わる。2013年よりフリーランスで活動をはじめる。IT関連の技術・トピックから、デバイス、ツールキット、デジタルファブまで幅広く執筆活動を行う。makezine.jpにてハードウェアスタートアップ関連のインタビューを、livedoorニュースにてニュースコラムを好評連載中。CodeIQ MAGAZINEにも寄稿。著書に『ハッカソンの作り方』(BNN新社)、共編著に『オウンドメディアのつくりかた』(BNN新社)および『エンジニアのためのデザイン思考入門』(翔泳社)がある。


客観的なデータと「システム」という見方

 文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は8月、「科学技術指標2022」を発表した。客観的・定量的データをもとに各国の科学技術活動を体系的に把握しようというもので、リリース等で特記されている動向として、

  • 日本の研究開発費、研究者数ともに主要国(日米独仏英中韓の7カ国)中で第3位
  • 日本の論文数は世界第5位、注目度の高い論文数のうち「トップ10%論文数」は第12位、「トップ1%補正論文数」は第10位
  • 日本の博士号取得者数は2006年度をピークに減少傾向にある

などの点がある。

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図1:主要な指標における日本の動向
(出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所、科学技術指標2022、報告書P19、2022年8月)

 このような科学技術活動の数値化および分析によって、日本の科学技術を取り巻く現状を捉え、そこから改善するヒントを得ることができるわけだが、ここで豊田氏は研究活動をシステムとして捉える考え方を提示する。

 研究開発費や研究者数などを「入力」、論文・成果などを「出力」として全体をイノベーションのシステムとして捉えることで、何が原因となっているか、何を解消すれば問題の解決がなされるか、そのヒントを見つけることができるのではないかということだ。

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図2:研究・イノベーションのシステム

 独立した存在である政府、企業、大学が連携しあっているところに研究資金・研究人材という入力があり、それに対し出力は、企業の場合は新製品、新サービス、新システム、特許、学術界の場合は論文ということになる。さらに付加価値にも貢献する。するとGDPが上がり、その一部がまた入力に還元される。企業の場合は企業研究に、あるいは税金として国に還元されたうちの一部が公的な研究費として大学や研究所に、という形だ。

 ただし、このような研究・イノベーションを取り巻くシステムを意識しつつ、科学技術指標の数字が示す意味をひも解いていくには、より本質的なデータの捉え方が必要だろう。そもそもデータの中には誤差や変動が存在するし、カウントの方法や指標の割り出し方で値が変わってしまうからだ。

 豊田氏がベースとするのは、Clarivate社のデータベース「Web of Science Core Collection」のデータをもとに、分析ツール「InCites Benchmarking & Analytics」を使って作成した量的指標および質的指標だ。

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図3:量的指標と質的指標

 論文をカウントする際の方法にはいくつかの種類があるが、ここでは2008年以降の論文に対しては「責任著者カウント」を、2007年以前の論文に関しては「整数カウント」「分数カウント」「責任著者カウントの近似法」を用いる。

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図4:論文カウント法の種類

 そして、今回、論文の質を測る評価軸として用いるのが、1論文当たりの被引用数の世界平均に対する比率「CNCI」、被引用数上位10%(1%)の注目論文の割合「トップ10%(1%)論文率」、上位1/4のジャーナルに採用された論文の割合「Q1論文率」。いずれも被引用数に基づく指標である。

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図5:被引用数に基づく質的指標

 また、競争力を測る指標として、対G6比率(米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ)を用いている。その他のデータとして、OECD.Sat、Times Higher Education(THE)のWorld University Ranking、文部科学省、国立大学が公開するものを適宜使っている。

 これらの指標をもとに、これから日本の研究競争力の現状ということで豊田氏の分析を見ていく。

日本の研究競争力の現状

 2008年から2021年の論文数の推移は次のグラフのとおり。

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図6:論文数の推移(2008年-2021年)、左:論文数、右:責任著者カウント

 右のグラフでは近年どの国も増えているように見えるが、これはデータベースの論文数が増えているということと、ある種の誤差や変動が含まれているためだと豊田氏は指摘する。こうした場合、G6諸国の比率で比較するほうが研究競争力の変化をより適切に評価できるという。

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図7:論文数のG6比率(2008年-2021年)

 他国と同様に緩やかな上昇傾向に見える図6に対し、図7では2008年から2016年までかけて低下し、そのままの状態が維持していることがわかる。

 次に、人口あたりの論文数。図8で見ると日本は30位で、たとえば韓国は日本の2倍以上の論文を出していることになる。

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図8:人口あたりの論文数(2008年-2021年)

 トップ10%論文数は、先にあげた科学技術指標2022が示すものと同じで13位、減少していることがわかる(図9参照)。また、図表は省略するがトップ1%論文数では日本は14位。いずれも、韓国はもちろんイランにも抜かれている状況だ。そして図10に示すように、人口あたりで計算するとさらに順位は下がり、日本は35位。

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図9:トップ10%論文数(2008年-2021年)

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図10:人口あたりのトップ10%論文数(2008年-2021年)

 トップ10%論文率という質の指標では58カ国中52位と開発途上国レベルとなる(図11参照)。

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図11:トップ10%論文率(2008年-2021年)

 また、Clarivate社が毎年選出している高被引用論文著者(Highly Cited Researches:HCR)、いわゆるトップ1%論文を産生する研究者の推移を見ると、2014年から日本は激変している(図12参照)。これがデータから見る、日本の研究競争力の現状だ。

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図12:高被引用論文著者(HCR)の推移(2008年-2021年)

【次ページ】何が論文の量と質を決めるのか?日本の研究競争力低下の背景

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