• 会員限定
  • 2023/01/13 掲載

入場料収入1億減…コロナ禍で苦境に追い込まれたヴァンフォーレ甲府の逆転戦略

連載:大手企業に勝つ地方企業

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
コロナ禍によりサッカーJリーグは大きな打撃を受けた。緊急事態宣言時には無観客や観客数制限の試合開催となり、主な収入源となる入場料収入などが激減したのだ。大手企業からのバックアップを持たない地方クラブのヴァンフォーレ甲府(VF甲府)は、特にその影響を受け、現在も厳しい状況が続くという。アジアでのカップ戦を控え、遠征費などさまざまな費用によってさらに収支が厳しくなるが、限られた予算・人員でどう戦っていくか。抱える苦労と課題を社長とゼネラルマネジャー(GM)を兼務する佐久間悟氏に聞いた。

聞き手・執筆:経済ジャーナリスト・経営コンサルタント 高井 尚之

聞き手・執筆:経済ジャーナリスト・経営コンサルタント 高井 尚之

経済ジャーナリスト・経営コンサルタント 高井 尚之
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)などがある。

photo
ヴァンフォーレ山梨スポーツクラブ 代表取締役社長 佐久間悟 氏
東京都出身。駒澤大学卒業後、NTT関東(当時)に入社。社員選手としてサッカー部(大宮アルディージャの前身)のディフェンダーで活躍。大学と社会人時代は主将を務めた。引退後はコーチ、強化・育成部長、監督などを経て、2008年にヴァンフォーレ甲府にGMとして移る。以後はGM兼務のまま、常務、専務、副社長を経て、2021年から代表取締役社長に就任
(出典:ヴァンフォーレ甲府提供)

56クラブ中32位、J2平均以下のVF甲府の営業収益

 2022年の天皇杯を制したJ2のVF甲府は、大企業の支援がない山梨県の地方クラブで予算規模は小さい。同クラブの2021年度「営業収益(売上高)は約12億9,200万円」、「営業利益は6,400万円」だった。2019年度が460万円の赤字、2020年度は5,300万円の赤字から黒字に戻したが、今後も厳しい運営が続く。

 かつてはJ1に8年いたクラブで、18年連続で黒字経営を続けた手堅い運営にも定評があった。当時と比べて2021年度の営業収益はどうだったのか。

「2021年度の営業収益は、J1時代の約17億3,000万円より4億円以上減りました。内訳で大きいのはJリーグからの配分金(J1とJ2の配分差)の2億円減、コロナ禍で観客制限もあった入場料収入の約1億円減などです。一方で全体の約6割を占めるスポンサー収入はJ1時代と大差なく、山梨県をはじめ地域の皆さんに支えられています。もちろん、このままでいいとは思っておらず、現状を打ち破る取り組みも進めています」(佐久間氏)

photo
14年以上ヴァンフォーレ甲府の運営に携わってきた佐久間氏
(出典:ヴァンフォーレ甲府提供)

 Jリーグが2022年7月に開示した「2021年度Jクラブ決算一覧表」(J1、J2、J3)によれば、J1(Jリーグ1部)クラブの平均営業収益は約41億5,900万円、J2は同15億900万円だった。ちなみにJ3はさらに下がり、同5億600万円となっている。


 J1とJ2では注目度が違い、観客動員数や広告収入にも差がある。さらに後述する分配金も違う。J2でも大企業の支援がある大宮アルディージャ(営業収益31億1,500万円)やジュビロ磐田(同31億800万円)といったクラブは比較的売り上げ規模が大きい。

 冒頭で紹介したVF甲府の13億円弱は全56クラブのうち32位。J2の22クラブ中でも12位だった。小口広告を集める方式にも定評があるが、営業収益は中位以下だ。

プロサッカークラブの経営を支える4本柱

 一般にプロサッカークラブの経営は、主に4つの収益から成り立つ。サッカー先進国の欧州とは少し事情が異なるので、日本の場合としてご認識いただきたい。

  1. (1)入場料収入
  2. (2)広告料収入
  3. (3)物販収入
  4. (4)配分金収入

 (1)は、主に本拠地スタジアム(ホーム開催)に有料で入場してくれた観客から得る収入だ。シーズンシート・シーズンチケットと呼ばれる年間パスの売り上げもここに入る。

 (2)は、クラブを支援する企業や法人、個人から支払われる収入。試合で目立つのはユニホームの胸や背中にある企業ロゴやブランドロゴで、ホームゲームのピッチサイドに置かれる広告も目立つ。広告の大きさは支出額で異なり、巨大企業はスペースが大きいが、中小企業の場合は総じて小さな広告だ。VF甲府は小口広告でも支えられている。

 (3)は、ユニホームや関連グッズの売り上げが中心だ。試合中、熱心なサポーターほどクラブのレプリカユニホーム(シーズンごとにデザインも変わる)を着て、タオルマフラーで声援を送る。これ以外に、選手がチーム移動時に着る公式スーツ(一般販売もある)や本拠地スタジアムの飲食代売り上げの一部もここに含まれる。天皇杯を獲得したVF甲府は、公式オンラインショップで「天皇杯 優勝記念グッズ」の受注販売を始めた。

画像
天皇杯優勝 記念グッズ
(出典:ヴァンフォーレ甲府提供)

 (4)の配分金(リーグ配分金)は、動画を配信する権利販売(DAZNとの契約による公衆送信権料)、リーグのスポンサーからの協賛金、グッズ等の商品化権料などJリーグに入る収益を、決められた比率によってJ1からJ3の全56クラブに支払われる金額だ。

「Jリーグから各クラブに支給される配分金の見直しが検討されており、今後はJ1の上位クラブに手厚く支給される方向性だと理解しています」(佐久間氏)

 2022シーズンは均等配分で「J1が3億5,000万円、J2が1億5,000万円、J3が3,000万円」だった。J1はJ2の2倍強の金額だが、段階的にJ1はJ2の5~6倍に引き上げ、さらにJ1上位チームに手厚くする。1部と2部の配分格差が大きい欧州主要リーグに近づけることで、世界と戦える強豪クラブ育成もめざす──のがJリーグの今後の方針だ。

 (1)~(3)は自らで稼ぐ力、(4)は業界内の配分だが、ここもチーム成績に基づく成果配分方式に変わる。J1復帰を掲げながら昇格できないVF甲府だが、J2に甘んじていては収益拡大が見込めない。本拠地の山梨県は少子高齢化が進み、県民の可処分所得も決して高くない。

 配分金の流れで、天皇杯「優勝賞金1億5,000万円」の使い道も聞いてみた。

「賞金のほとんどはチームに分配しました。クラブには累積損失が約8,400万円ありますが、スタッフと選手の活躍で獲得したタイトルです。債務に充当するよりは、まずはチームに報いた後で、フロントスタッフやアカデミー等にも分配しました。さらに一部は、施設環境を充実させる物品投資にも充てました」(佐久間氏)

【次ページ】ACL出場でチーム運営はよりシビアに

関連タグ

関連コンテンツ

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます