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  • 2023/01/30 掲載

急速充電は必要ない?EV充電基盤の整備に必要な「意識改革」とは何か

連載:EV最前線~ビジネスと社会はどう変わるのか

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バッテリー容量が拡大の一途をたどっている欧州製EVに対抗すべく、現在は国産EVもバッテリーの大容量化を進めている。これに伴い、大容量バッテリーを素早く充電できる急速充電器の高出力化を求める声もあがっているが、実は急速充電器をいたずらに高出力化することは、ガソリン車にはない、EVの特性を生かせていないことをご存じだろうか。EVだからこそできる給電方法とはどのような形態なのか、そして日本における充電基盤整備の現状はどうなっているのかを解説する。

執筆:モータージャーナリスト 御堀 直嗣

執筆:モータージャーナリスト 御堀 直嗣

1955年(昭和30年)生まれ。玉川大学工学部機械工学科流体工学研究室卒業。1978~81年フォーミュラレースに参戦、81年にFJ1600で優勝。84年からフリーランスライター。著書29冊。一般社団法人日本EVクラブ理事。NPOトリウム熔融塩国際フォーラム会員。日本モータースポーツ記者会会員。公益社団法人自動車技術会会員。自動車を含め環境やエネルギー問題に取り組む。

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EVの充電基盤整備は喫緊の課題だ
(Photo/Getty Images)

EVと充電設備の歴史を振り返る

 EVの急所は充電にある。と語ったのは、東京電力ホールディングス(HD)フェローで、東京電力HDと中部電力の共同出資により2019年に設立され、EV充電設備の拡充などを手掛けるイー・モビリティ・パワー会長を務める姉川尚史である。姉川氏は後述するEV充電の規格整備などを手掛けるCHAdeMO協議会の現会長でもあり、充電に関して数十年の永い知見を持つ。

 EVが2009年に国内で発売されて以来、常に付きまとうのが充電の社会基盤整備だ。

 当時、世界初の量産型EVとして発売されたのは三菱自動車のi-MiEV(アイ・ミーブ)。当初は法人向けリース販売で、一般の消費者へ発売されはじめたのは翌2010年のことだった。

 さらにこの年には、日産自動車から登録車のリーフも発表された。リーフの発売に際して日産は、全国の販売店(約2000店舗)に急速充電器を設置し、40km圏内に充電できる場所を確保した。設置に際しては、既存の急速充電器が高価であったため、日産自ら自社開発し、半値といえる価格で急速充電器設置を促すことも行った。

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日産の初代リーフ
(写真:アフロ)

 米国のテスラなどに先駆け、EV製造者自ら充電の社会基盤整備を行ったこの出来事は注目を集めた。EV時代には、自動車メーカー自ら充電網に関りを持つ必要性が明らかになり、従来のように、自動車メーカーは新車を開発・製造、そして販売するだけで、燃料のガソリンや軽油の補給はエネルギー会社任せという事業形態が変化していくことが示唆されたのである。

 その後、日本国内では、経済産業省が2012年に1,005億円の予算を計上し、充電の社会基盤整備に乗り出した。急速充電器の機器費用に加え、設置工事の費用も補助する内容だ。ただし全額ではなく、自己負担分が生じるため、自動車メーカー4社(トヨタ自動車/日産/ホンダ/三菱自)が資金を出し合い、自己負担分を補填(ほてん)することによって無料で充電器を設置できる環境づくりが行われた。

 その後も充電設備への補助は継続されている。現在は全国に約8000基の急速充電器があり、普通充電と呼ばれる200Vによる充電を加えると約3万基の充電環境が国内で整っている。ちなみに、ガソリンスタンド軒数は3万軒を割っている。

 充電器の設置場所は、先の自動車販売店のほか、高速道路のサービスエリアやパーキングエリア、各地の道の駅や、ショッピングモールといった商業施設内にも設けられ、人々が車で立ち寄る先々に設置が広がった。

日本のCHAdeMO(チャデモ)が果たした役割とは

 そんな中、急速充電の標準規格のために2010年に設立されたのが、CHAdeMO(Charge de Move・チャデモ)協議会だ。

 同協議会は、電力会社や自動車メーカー、充電機器製造会社などで構成。急速充電規格「CHAdeMO」について、統一された基準に従った仕組みと運用基盤の構築を進めた。

 EVに搭載されるリチウムイオンバッテリーは、過充電されると熱を持ち、発火の恐れもある。それらを予防し、安全に充電してEVを利用できるよう、車両と充電器を通信で結び、車載バッテリーの充電残量などを確認しながら急速充電量を調節する仕組みが整えられたのである。

 CHAdeMOが敷いた充電の考え方や仕組みは、世界へ公開されており、CHAdeMO以外の充電方法においても、EV側が充電機へ充電の指令を通信で出し、それに応じた電力が急速充電器から車載バッテリーへ流されるという方式は共通して利用されている。

 ただし、EVと急速充電器との通信の仕方や、充電のためのコネクター形状の違いなどによって、CCSと呼ばれる欧米のコンバインド・チャージ・システム(ただし、欧米でコネクター形状は異なる)や、中国が進めるGB/Tと呼ばれる方式も混在している。

 このほか充電方式に関しては、米国のテスラは独自の充電方法を用いていることで知られる。これはテスラ車のみに適応した方式ではあるが、テスラはその特許を公開し、同じ充電の考え方を持つ企業があれば迎え入れるとしている。しかし現状は、テスラのみに留まっており、国内においては、テスラ以外はすべてCHAdeMOに統一されている。

 また、200Vの普通充電においては、日産が初代リーフで採用したコントロールボックスを充電ケーブルの途中に設ける方法が現在も採用されている。これもEVの充電状況に応じて万一不具合があった際に安全を保てるようにした措置だ。

 以上のように、充電に関しても世界に先んじてEVの本格導入を行った日本が、安全確保を含めた適切な方法の立案と、充電網の在り方を示してきた経緯がある。

【次ページ】バッテリー大容量化はなぜ起きた?

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