• 2025/07/05 掲載

メーカーの「盲点」を逆手にとり劇的進化、プライベートブランドに学ぶ重要ヒントとは

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「正直どれでもいいのに…」生活者が求めていない頻繁なリニューアルや新商品ラッシュ。原因はコンビニの普及によって一変した、メーカーと小売業の力関係にある。メーカー各社の熾烈な「棚争い」が、本来のユーザーニーズを見失わせているのだ。この罠から脱け出すにはどうすればいいのか?『「選べない」はなぜ起こる?』を上梓した、小島雄一郎氏は、コンビニのPB(プライベートブランド)商品が重要なヒントになるという。
執筆:小島 雄一郎

小島 雄一郎

2007年に電通へ入社。3年間の営業経験を経て、第1回販促会議賞(現:販促コンペ)の受賞をきっかけにプランナーに転向。その後、同賞で5大会連続入賞。電通では社内ベンチャーとして大学サークルアプリの新規事業を立ち上げ、2014年のグッドデザイン賞ビジネスモデル部門を受賞。その後は生活者研究を専門としながら、子ども向けゲーム開発などで、世界3大デザイン賞であるRed Dotデザイン賞(ドイツ)や、D&AD賞(イギリス)、キッズデザイン賞(日本)を受賞。2023年に立ち上げた事業を売却し、電通を退社し独立。2024年より、自ら企画書を送って自宅に誘致したお酒のセレクトショップ“IMADEYA”の社外取締役に就任。著書は『広告のやりかたで就活をやってみた。』(宣伝会議)。日本経済新聞社のnoteである「日経COMEMO」で新時代のキーオピニオンリーダーとしても連載中。

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頻繁なリニューアルや新商品ラッシュの裏には、メーカー各社の熾烈な争いがあった…
(Photo/Shutterstock.com)

メーカーが商品のリニューアルに追われてしまう理由

 コンビニで買い物をするとき、私たちには複数の選択肢がある。

 たとえ、それが差別性の低いお茶や水でも、最低でも3社以上の中から1社を選ばされる。正直どれでもいいのに、どれもおいしいのに、なぜそんなに私たちに選択を迫るのか。それは、コンビニの限られた棚を奪い合う企業同士の熾烈な競争が原因だ。


 メーカーにとってコンビニは命綱だ。国内トップのコンビニチェーンであれば全国に2万店舗以上ある。つまりコンビニのバイヤーに「選ばれた」商品は、全国2万店舗以上に並ぶことになる。コンビニの棚に置かれるか、置かれないかでメーカーの売上は激変する。大差ない(どれでもいい)カテゴリのアイテムであれば、一度棚に設置されれば、1/3の確率で選んでもらえるといっても過言ではない。

 コンビニの普及は、私たちの生活を変えただけでなく、メーカーと小売業の力関係すらも一変させた。

 今、メーカーの最優先事項は、売場の棚を獲得すること。

 逆に言えば、棚から外されること(これを棚落ちと言う)があってはならない。この熾烈な棚争いに必要なのが、頻繁な「新商品」や「リニューアル」なのだ。

 各企業は棚から他社の商品をどかすために新商品を出す。新たな生活者ニーズを捉えた画期的な商品として、コンビニのバイヤーにアピールする。

 コンビニの棚の入れ替わりは激しい。生活者がほぼ毎日訪れる存在になったコンビニは、小売りとしての競争力を維持するために「商品の鮮度」を求めている。そのため棚に置かれ続けるには、定期的に「変わった感(鮮度)」をアピールしないといけないのだ。

 こうして企業は商品のリニューアルに追われる。「ぶっちゃけ、前のお茶とあまり変わりません」なんて口が裂けても言えない。「正直、生活者は今のお茶で満足しています」なんてもっと言えない。しかし、生活者は今の商品で十分なのだ。

 この現象はコンビニだけに限らない。

 スーパーマーケット、百貨店、ドラッグストア、さらにはECサイトに至るまで、あらゆる小売りの場で同様の競争が繰り広げられている。限られた売場を獲得するために、あるいは一度獲得した売場を維持するために、企業は常に「新しさ」や「変わった感」をアピールし続けなければならない。

 メーカーは生活者が求めていないものを作りたいわけではない。生活者もムダな選択に時間を使いたいわけではない。小売業も混乱を招きたいわけではない。

 しかし、限られた売場をめぐる競争が、すべての関係者を「選択肢の増加」へと駆り立てているのだ。

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メーカー・生活者・小売…誰も望まない形になってしまっている
(Photo/Shutterstock.com)

「作り手・売り手」と「買い手」に生じる見えないズレ

 商品の作り手や売り手と、商品の買い手。両者のあいだに見えないズレが生まれている。私はコンビニを担当する広告会社のプランナーとして、最前線でこの現象に出くわしてきた。

 中でも印象的だった商品例として、ボックスティッシュがある。

なぜボックスティッシュのパッケージは派手なのか?

 あなたの家を想像してみてほしい。

 あなたの家では、ボックスティッシュを入れるティッシュケースを使っているだろうか?

 使っているなら、その理由は何だろう。

 おそらくティッシュケースを使う人の多くが「そのままのパッケージだと、部屋に馴染まない」と感じているのではないだろうか。

 ボックスティッシュのパッケージといえば、花柄で5色展開の派手なパッケージを思い浮かべる人が多い。お世辞にもスタイリッシュとはいえない、あのデザインだ。

 では「なぜボックスティッシュのパッケージは派手なのか?」と考えたことがあるだろうか。

 理由は単純だ。店頭で目立つようにデザインされているからだ。シンプルな白い箱だったら、店頭では目につかない。しかし「店頭で目立つデザイン」は、家の中では「浮いてしまうデザイン」になる。ここに大きな矛盾がある。

 店頭では派手に、家では控えめに。

 この相反する要求に、メーカーは実は応えていない。

 メーカーは「シンプルで目立たないボックスティッシュが欲しい」という生活者のニーズは見て見ぬフリをして、紙の質を変えてみたり、紙を少し厚くしてみたり、微差のリニューアルを繰り返す。生活者にとっては求めていない判断基準ばかりが増え、本当に求めている商品はいつまで経っても発売されない。

 その結果、何が起きるか? 【次ページ】プライベートブランドの成功から学べる重要なヒント2つ
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