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- 2023/04/06 掲載
コンピューテショナル・ストレージとは何かをやさしく解説、3タイプ別で異なる仕組み
連載:デジタル・マーケット・アイ
コンピューテショナル・ストレージ(CSx)とは何か
コンピューテショナル・ストレージ(CSx)とは、ストレージやコントローラ側に、CPUやGPU、特定用途向けASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラミングが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)などを採用することで、コンピューティング機能を持ったストレージのことです。通常のストレージとは異なり、データを処理できる演算能力をストレージに持たせている点が特徴で、エッジコンピューティング同様、データが存在する場所に計算能力を持たせている点が注目を集めている理由の1つです。
SAN/NAS関連で世界最大の団体であるSNIA(Storage Networking Industry Association)は、このCSxを構成上から「CSP」(Computational Storage Processor)、「CSD」(Computational Storage Drive)、「CSA」(Computational Storage Array)という3タイプに分類しています。
このうち、CSPはコンピューティングエンジンを有するがストレージはなし、CSDはコンピューティングエンジンとストレージの両方で構成されています。さらにCDAはコンピューティングエンジンと複数のストレージで構成されるものです。
その他の分類としては、圧縮や暗号処理機能などを固定化した「FCSS」(Fixed Computational Storage Services)と、ホストOSからプログラムでフレキシブルに機能を実行できる「PCSS」(Programmable Computational Storage Services)に大別することもあります。FCSSは、機能を特化することで最適化し、ハイパフォーマンスを発揮できる一方、PCSSは、目的に合わせた機能を柔軟に提供できることが特徴になります。
CSxが注目されている理由
それでは、なぜ最近になってCSxが注目を浴びるようになったのでしょうか。それには、ストレージ業界の事情が関係しています。これまでストレージの価格は、業界的に大きな変動がない時期が続いていたことから、製造メーカーにとっては比較的マージンが獲りにくい商材となっていました。そうした構造がある中で、これまで以上にストレージの付加価値を高め、新しい機能を盛り込もうとする流れが出てきたことがCSxが登場してきた背景にあります。
また、その中で、近年のIoTやAIブームによって、エッジコンピューティングの性能が求められるようになり、CSxに注目が集まるようになってきたのです。
CSxのメリット
CSxの最大のメリットは、パフォーマンスの大幅な向上でしょう。大量のデータを集中的に扱うアプリでは、データをホスト側に移動させず、エッジなどのデータ保存場所(ストレージ)に近づけることで効率化が期待できます。ストレージ側でデータを処理することで、ホスト側のメインプロセッサとメモリが解放され、ボトルネックが解消されるのです。データを転送しないため、I/Oトラフィックが減少し、ネットワーク負荷の軽減と、効率的な分散処理や低遅延が可能になり、全体のパフォーマンスが向上します。データ移動を抑えることで、セキュリティも向上します。
また、持続可能性という観点では、エネルギー当たりの計算効率が向上し、省電力化にも省スペース化にも寄与するでしょう。電源コストが下がり、結果的にデータセンターの二酸化炭素排出量が削減されるため、SDGs面で地球環境に優しくなるかもしれません。
CSxのデメリット
その一方で、ストレージ業界の事情も関係してくるのですが、CSDを普及させるための悩みもあります。現在、SNIAではCSDの標準化を推進しようとしているものの、ストレージに独自の付加価値を盛り込もうとしているメーカーにとっては、標準化により差別化のポイントが弱まってしまうという思いもあるからです。また、現状では記憶媒体としてはHDDよりもSDDのほうが高速であるため、そちらにシフトする可能性もあります。
技術的な側面では、ITアーキテクチャの複雑さや、コスト面での兼ね合いを考慮する必要がある点も念頭において採用すると良いでしょう。最高のパフォーマンスを発揮するには、単一のCSDだけでなく、複数にまたがるアプリを構築する必要があるからです。またIoTやエッジで導入する際は台数も多くなるため、エントリーレベルではコスト的に見合わないかもしれません。
CSxの活用イメージ
CSxのメリットは、あらかじめエッジ側でデータを処理し、メインプロセッサ側の負荷軽減(オフロード)することにあります。活用イメージとしては、たとえば、エッジ側に監視カメラなどを置いて、画像解析などのタスクをAIで実行する場合に、CSxで画像をあらかじめ処理し、不審者の可能性があれば、そのデータのみをメインのシステムやクラウドに送って精査するという使い方が可能になります。従来のようにデータをメインシステムに無闇に垂れ流すのではなく、エッジ側で事前に処理し、必要なデータのみをホストに送れば転送時間も短縮され、リアルタイム分析も可能になります。
たとえば、デバイス上でLinux OSを実行すれば、エッジコンピューティングはもちろんのこと、機械学習やリアルタイムデータ分析などもストレージ上で実行できるようになります。高度なアプリをドライブ自体で実行することも可能です。
製造業だけでなく、流通・小売業などで同じ処理を繰り返し大量データを捌いたり、高負荷の科学技術計算を行うようなHPC、またデータストリーミングの分野でも活用できるでしょう。
このほか、CSxのユースケースとしては、プロセッサの機能を生かしたデータ圧縮や暗号化、RAID管理などが挙げられます。これらは単一プロセッサでボトルネックを解消できる分野に入りますが、さらに幅広い分野での活用も期待できます。たとえば、多くのCSD側にワークロードを分散することで、パフォーマンスが大幅に向上するでしょう。
こうした「データが存在する場所にコンピューティング機能を移動させる」というCSxのコンセプトは業界内で古くからありましたが、CSxという括りでの展開は、まだ初期段階と言えます。
ただし、最近ではChatGPTのようなイノベーティブなAI技術が登場しており、chatbotの性能向上の競争になってきました。 そうした中で、CSxはデータ処理をストレージ側にオフロードすることで、I/Oを高速化せずともパフォーマンス向上に寄与できるため、さらなる需要が期待できそうです。そのため、CSxに準ずるシステム設計は、今後のストレージ業界のトレンドになっていくかもしれません。 【次ページ】CSx市場の主要プレイヤーとは?
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