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  • 2025/08/13 掲載

Lustre(ラスター)とは何かをやさしく解説、AIやスパコンの超巨大データ処理の仕組み

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ビッグデータやAI開発が当たり前となった今、データ処理速度がビジネスの成否を分ける時代に突入しています。その影の立役者として機能している1つが「Lustre(ラスター)」と呼ばれるオープンソース(OSS:オープンソースソフトウェア)の並列分散ファイルシステムです。通常のファイルシステムでは実現できない圧倒的な処理速度を誇り、TSUBAMEなどの先進的な研究機関でも導入が進んでいます。この記事はLustreの仕組みや他のファイルシステムとの違いについてわかりやすく解説します。
執筆:田中 仁

田中 仁

大手総合商社にて10年間勤務し、新規事業開発を中心に資金調達、財務・会計等を担当。東京のほか、アメリカのベンチャーキャピタルやイギリスでの勤務経験もある。IT業界やテクノロジーにも精通。

  監修:ビジネス+IT編集部
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AI時代に注目のファイルシステムが「Lustre(ラスター)」だ
(Photo/Shutterstock.com)

Lustreとは何か?

 Lustre(ラスター)とは、高性能コンピューティング(HPC)分野で多く活用されているオープンソース(GNU GPL v2)の並列分散ファイルシステムです。数十ペタバイト(PB)を超えるような大規模データの高速処理に対応しており、科学技術計算やAI開発の現場で欠かせない存在となっています。Lustreは複数のサーバーとストレージを組み合わせ、1つの大きなファイルシステムとして機能し、NASAや気象研究機関、AI研究、またこれらを支えるスーパーコンピューターなどでも使われるなど、高いスループットと拡張性、信頼性の高いシステムを構築できます。

並列ファイルシステムの概要
 並列ファイルシステムとは、複数のストレージデバイスとアクセス経路を用いて、同時にデータの読み書きを行う仕組みを指します。以下がその特徴です。

  • データの分割保存:
    大きなファイルを複数のブロックに分割し、複数のストレージに分散して格納します。
  • 並列アクセス:
    複数のクライアントが同時に異なるストレージノードへアクセスできるため、I/O性能が飛躍的に向上します。
  • 拡張性:
    ストレージやノードを追加することで、容易に容量と性能をスケールできます。

 Lustreはこれらの概念を実装し、大規模データ処理において高いパフォーマンスを発揮します。

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Lustreは大規模データ処理において高いパフォーマンスを発揮する
(Photo/Shutterstock.com)

HPC環境での利用事例
 Lustreは、多くのHPC環境で実績があります。

  • スーパーコンピュータ(例:TSUBAME4.0など)で、科学技術計算に必要な膨大なI/O処理に対応。
  • 地震解析、気象シミュレーション、粒子物理学など、大規模な並列処理が求められる分野で活用。
  • 機械学習やAIの学習データの保存と高速読み込みをサポート。

 こうした特徴により、研究開発のスピードと精度を大幅に向上させています。

従来のファイルシステムとの違い
 Lustreと従来のファイルシステム(NFS、EXT4など)には、以下のような明確な違いがあります。

項目 従来のファイルシステム(NFS, EXT4など) Lustre
I/O方式 単一サーバー経由のアクセスが基本 複数サーバーへの並列アクセス
スケーラビリティ 限界あり 高い拡張性
パフォーマンス 一般的な処理速度 高速処理に最適化
対象環境 単体サーバ向け 大規模HPC向け
冗長性・信頼性 基本的 高度な冗長構成が可能

 このように、Lustreは「大規模・高性能」が求められる環境で威力を発揮します。

Lustreの構造と仕組み

 Lustreは、主に以下の3つの主要コンポーネントから構成されています。

  • 管理サーバー(MGS - Management Server): ファイルシステム全体の構成情報を管理し、他のサーバーやクライアントに情報を提供します。いわば、Lustreファイルシステム全体の「司令塔」です。
  • メタデータサーバー(MDS - Metadata Server): ファイル名やディレクトリ構造、アクセス権限などの「メタデータ」を管理します。
  • オブジェクトストレージターゲット(OST - Object Storage Target): ファイルの実データを「オブジェクト」という単位で格納します。

 これらが連携することで、Lustreは高い性能と拡張性を実現しています。

 Lustreは、複数の専用サーバとクライアントから成る複雑なアーキテクチャを持ちます。以下では、主要構成要素とその役割を解説します。

オブジェクトストレージの役割
 Lustreでは、データ本体を「オブジェクトストレージターゲット(OST)」に保存します。OSTの役割は次の通りです。

  • 大量のデータを物理的に保持するストレージ。
  • 各ファイルは複数のOSTに分割・分散されて格納される。
  • クライアントからのI/O要求を受け、データの読み書きを高速に実行。

 OSTは通常、RAID構成されたストレージ装置で構築され、耐障害性とパフォーマンスが担保されています。

メタデータサーバーの重要性
 Lustreでは、ファイルの情報(名前、所有者、パーミッションなど)を「メタデータ」として管理します。

  • メタデータは「メタデータサーバー(MDS)」によって管理されます。
  • MDSは、ファイルのディレクトリ構造やアクセス制御、作成・削除などの処理を担当。
  • クライアントはまずMDSに問い合わせてから、対応するOSTへアクセスします。

 この分離により、ファイル情報の管理と実データの処理が並行して行われ、高速化と効率化が図られます。

Lustreクライアントの動作原理
 Lustreを利用する各ノードには「Lustreクライアント」がインストールされます。動作の流れは次のとおりです。

  1. ユーザーがファイルを開くと、クライアントはまずMDSへメタデータの問い合わせを行う。
  2. MDSから返されたOSTの情報を基に、クライアントは直接OSTへデータを読み書きする。
  3. 並列アクセスが可能なため、複数のクライアントから同時に高速なI/Oが実現される。

 このように、Lustreのクライアントは効率よくメタデータと実データを処理する仕組みを持っています。

Lustreを活用するメリット

 Lustreが広く採用されている理由は、以下に述べるような多くの利点があるためです。

高いパフォーマンスとスケーラビリティ
 Lustreの最大の強みの一つは、以下のような圧倒的なパフォーマンスです。

  • 高速I/O:
    複数のOSTによる同時アクセスにより、テラバイト単位のデータも短時間で処理可能。
  • 拡張容易性:
    サーバやストレージの追加によって、線形的に性能と容量を拡張可能。
  • IOPSの向上:
    細かいファイルアクセスでも、ノード分散によってスループットが向上。

 この性能は、ビッグデータ分析やAI訓練において大きなアドバンテージとなります。

大規模データ処理への適応性
 HPCや研究分野では、ペタバイト級のデータ処理が求められることも珍しくありません。Lustreは次のような適応性を持っています。

  • 数十万ファイルにまたがる分散処理が可能。
  • 並列ジョブによるI/O競合の最小化。
  • データの一貫性と整合性を保ちながらの高速処理。

 このような特徴により、Lustreは科学技術、宇宙開発、ゲノム解析など、極めて厳しい要件にも応えられます。

データアクセスの効率化
 Lustreの設計は、効率的なデータアクセスを可能にします。

  • MDSとOSTの分離により、メタデータ処理と実データ処理の負荷分散。
  • キャッシュ機構による再アクセスの高速化。
  • クライアントからOSTへの直接I/Oでボトルネックの回避。

 これらにより、スループットの向上とシステム全体の応答性が改善されます。

Lustreの具体的な活用事例

 ここでは、実際にLustreが活用されている代表的な事例を紹介します。

スーパーコンピュータTSUBAME4.0
 東京工業大学が運用するスーパーコンピュータ「TSUBAME4.0」でもLustreファイルシステムが活用されています。

 TSUBAME4.0では、Lustreファイルシステムによってハードディスクベースの共有ストレージ44.2PBとSSDベースの高速ストレージ327TBに接続されるとともに、各計算ノードにも容量1.92TBのNVMe対応高速SSDストレージを搭載。計算ノードおよびストレージシステムはInfiniBandによる高速ネットワークに接続され、またSINET6を経由し100Gbpsの速度で直接インターネットに接続されます。
  • ハードディスクベースの共有ストレージ44.2PBとSSDベースの高速ストレージ327TBに接続。
  • AIやディープラーニング用途でも、高速な学習データの供給源として機能。
  • ジョブ数が多い中でもI/O競合が少なく、安定した性能を実現。

ゲノム医療研究のデータバイオバンク
 国立研究開発法人などが主導するゲノム医療研究においても、Lustreは中核的な役割を果たしています。

  • 大規模なゲノム配列データ(数PB以上)を管理・高速処理。
  • セキュリティやアクセス制御を重視しつつ、並列解析に対応。
  • 継続的に増加するデータにも柔軟にスケーリング可能。

 このように、Lustreは医療・バイオインフォマティクス分野でも強力な基盤技術となっています。

Lustreを導入する上での考慮点と今後の展望

 Lustreは非常に強力なシステムですが、導入にあたってはいくつかの考慮点があります。

  • 設計・運用の複雑さ: 高い性能を発揮させるには、ネットワークやハードウェアを含めた専門的な設計・チューニングが不可欠です。運用にも専門知識が求められます。
  • メタデータ性能の課題: 大量の小さなファイル(数KB程度)を扱う場合、MDSへのアクセスが集中し、性能がボトルネックになることがあります。

 こうした課題を背景に、Lustreも進化を続けています。近年では、Amazon Web Servicesが提供する「Amazon FSx for Lustre」のように、クラウド上で手軽にLustre環境を利用できるサービスが登場しています。これにより、自前で複雑な環境を構築・運用する手間なく、Lustreの性能をオンデマンドで活用できるようになりました。

 今後も、NVMeなどの高速なストレージデバイスへの最適化や、クラウドとのさらなる連携が進むことで、Lustreの活用シーンはますます広がっていくでしょう。

まとめ

 Lustreは、HPCやビッグデータ処理に最適化された並列分散ファイルシステムです。パフォーマンス、スケーラビリティ、信頼性のすべてを高いレベルで実現しており、研究機関や産業界での活用が進んでいます。今後、AIやデータサイエンスがさらに高度化する中で、Lustreのような基盤技術の重要性はますます高まっていくでしょう。

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