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- 2024/06/19 掲載
壊滅的な「日本企業の設備投資」の大問題、なぜこのままだと「賃金上昇も遠のく」のか
加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。
設備投資が増えないと何も始まらない
2024年1~3月期のGDP(国内総生産)成長率は、物価の影響を考慮した実質でマイナス0.5%という厳しい結果となった。とりわけ個人消費の低迷が著しく、これが景気の足を引っ張っている。だが、個人消費が増加しないのは、企業の賃上げが不十分であり、家計に余裕がないことが原因なので、家計としては消費したくてもできないというのが現実だろう。では企業が、やみくもに賃上げをすれば良いのかと言うとそうではなく、原資を確保できなければ、一時的に賃上げが実現しても決して長続きしない。持続的な賃上げを実現するには企業の生産性向上が不可欠であり、そのためには企業が積極的に先行投資を行う必要がある。
結局のところ、持続的な経済成長を実現する王道は、企業の設備投資拡大という理屈である。こうした観点で直近のGDPを眺めると、いかに状況が悪いのか手に取るように分かる。
企業の設備投資、どれだけ悪い状況か?
企業の設備投資は、2023年10~12月期だけは前期比プラスになったものの、それ以外は、2023年4月~6月期以降、すべてマイナスという状況が続く。企業が設備投資を行わなければ、イノベーションなど起こるはずもなく、賃金も上昇しない。イノベーションという言葉を使うと「日本において米グーグルや米アップルのような企業は簡単には生まれてこない」といった極端な反論が出てくるのだが、これは完全に認識が誤っている。
経済学で言うところのイノベーションというのは、世界中の人が驚愕するような画期的な技術のことだけを指しているのではない。既存業務をIT化してプロセスを改善することや、多重的な下請け構造の解消、閉鎖的で前時代的な流通慣行の見直しといった、現場での取り組みもすべてイノベーションに含まれる。
経済というのは、こうした改善や改革を地道に行い、それに対する相応の投資を継続することで成長するものだが、残念なことに日本はその基本的なことすらできていない。 【次ページ】普通にIT化を実施するだけも大きな成果が
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