• 2007/08/13 掲載

【連載】NGNとは何か(5):加速するコンバージェンス(2/2)

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IT用機器と通信用機器の融合

 通信機器の機能(システム)がIMSによって統合されることは前述した通りである。このIMS化と平行して進んでいる融合として、通信機器そのもののハードウェアの共通化が挙げられる。通信機器が世の中のサーバやパソコンと比べて非常に高価である理由は、その提供する機能の違いにもよるが、もう1つの大きな理由としてハードウェア自体が各ベンダーの独自で開発したハードウェアであることに起因している。

 通信機器は元々パソコンなどに比べて大量に市場に出回るものではないので、当然のごとくその提供価格に規模の論理は期待できない。そのため、各社が独自で設計したハードウェアには恐ろしく高価な開発費が盛り込まれ、機種によっては天文学的な価格となるルータやスイッチが存在している。確かに通信機器は、高信頼性や拡張性を必要とするため特殊な技術を用いたハードウェアを使わなければならないことは事実である。

 ただし、今後は通信速度の高速化への要求は徐々に頭打ちになっていくため、ハードウェアの機能差が通信サービス競争の勝敗を決定する絶対的な条件ではなくなることが予測される。

 今後は通信機器も共通化された、低コストのハードウェアで構成される時代がくる。その代表例として、業界団体のPICMG(PCI Industrial Computer Manufacturers Group)で推進しているATCA(*1)が挙げられる。ATCAは次世代通信向けのハードウェアの業界標準規格で、サーバやストレージを収容する筐体に、ルーターやスイッチのモジュールも収容することが可能となる。

 今までは、サーバとネットワーク機器は別々のスキームで保守運用されていたが、同一の汎用プラットフォーム上で運用が実現されれば、装置コストやランニングコストが大幅に削減されることが期待できる。従来ネットワーク機器はプロプライエタリな(企業独自の)技術を使った高価な設備として扱われていたが、今後はPC/AT互換機のパソコンやIAサーバのように、部品の共通化が進み、ユーティリティコンピューティングの一部として扱われる時代が到来する。

 そもそも、ルータや各種のアプライアンス装置はPCサーバをベースにしたアーキテクチャから派生しており、特殊な機能を提供する装置は別として、基本的にはITシステムとの親和性は高い。

 将来はATCAのようなユニバーサルシャーシが統合センター内に設置され、その中にサーバやルーターがブレードインタフェースとして混在する環境が実現すると考えられる。

保守運用システムの融合


※クリックで拡大
図3 監視制御システムの統合
 現在、通信機器が提供する機能がそれぞれ異なっているのと同様に、通信機器の監視方法や制御方法も通信機器ベンダーごとに異なっている。そもそも通信機器ベンダーが扱う通信機器用のオペレーションシステム(OS)からして違うため、通信機器への制御情報のコマンドの送り方や、監視情報の収集方法、OSにアクセスするためのインターフェイスなども異なっている。

 監視情報の扱いに関してはSNMP(Simple Network Management Protocol)に準拠した製品が多いため、互換性についてはあまり問題にならないケースも多いが、制御情報に関しては各機器の機能が異なることもあって、共通化された手順というものが存在しない。

 そのため、通信キャリアは機器ベンダーごとに対応した監視制御システムを構築するか、各ベンダーが機器と一緒に売り込んでくる独自の(あまり使い勝手の良くない)監視制御システムを、高価な定期保守費込みで購入しなければならない。通信サービスのコスト構造で大部分を占めるのはこの保守運用コストであり、このコストをいかに下げることができるかで通信サービスの提供価格が決まってくる。

 現在ではこの通信機器の設定方法の共通化を目指して、IETF(Internet Engineering Task Force)という標準化団体で「NETCONF」と呼ばれる標準化が進んでいる。これは通信機器の設定フォーマットにXMLを使うことによって、設定コマンドの共通化を図り、異なるベンダーの機器をXMLベースのコマンド投入によって統合的に扱うことを目指している。

 一部の通信機器ベンダーの製品では内部設定情報をXMLで扱えるものも出てきており、今後通信機器の監視制御システムのNETCONF対応が進めば、異なるベンダーの通信機器を統合的に扱える監視制御システムによって保守運用コストを低減することが可能になるだけでなく、XMLで構築されたアプリケーションサーバとの連携によって、より高度なサービス提供も可能になると考えられる(図3)。


 今回は次世代ネットワークの実現にむけたさまざまなコンバージェンスの動向について紹介した。次回は最終回として、この融合が加速し、ICT業界全体に広く浸透したオープンな世界について述べる。


(*1)ATCA
Advanced TCA(Telecom Computing Architecture)とも呼ばれる。通信事業者向けハードウェア規格のこと。PICMG3.Xとして標準化したもので、3.0にはフォームファクタ(筐体の位置や大きさ)や電力管理などの基本技術、3.1~にはファイバチャネルや InfiniBand、PCI Expressなどに対応したコネクタの仕様が策定されている。

片山 武彦

ソフトバンクテレコム
研究所 担当部長
電気通信大学電気通信学部卒業後、1991年日本テレコム入社。大容量光通信システム、広域イーサネットサービス、公衆無線LANサービスなど幅広い分野の通信サービス開発を担当。2005年より次世代ネットワーク構想「IRIS」のプロジェクトリーダーとして活躍中。


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