• 2025/12/29 掲載

日本の電力需給は「常に綱渡り」…経済合理性で考える安定実現の「脱二元論」視点とは(2/3)

連載:小倉健一の最新ビジネストレンド

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電力不足が起きがちな「3つの要因」とは

 この背景には、明確な構造的要因が存在する。

 第一に、主力電源である火力発電所への過度な依存と、その老朽化だ。東京エリアの供給力を構成する火力発電設備の約2割が、運転開始から30年以上を経過している。機械設備である以上、経年劣化による故障リスクの上昇は避けられない。現場の技術者たちが、高度な運用技術と保守点検によってシステムを維持している点は評価されるべきだが、物理的な寿命を精神論でカバーすることには限界がある。

 第二に、燃料調達のリスクだ。火力発電の主燃料である液化天然ガス(LNG)の在庫は、2025年10月末時点で約197万トンと、過去5年間の平均値を下回っている。これは、国際情勢の変化やシーレーンの攪乱があれば、即座に燃料不足に直結する水準だ。

 そして第三に、再生可能エネルギーの出力特性である。太陽光発電は天候に左右され、電力需要がピークを迎える冬の夕方には発電量がゼロになる。ベースロード電源としての信頼性は著しく低い。

 この日本の状況を、より広い視座で捉え直すために、欧州で進行しているエネルギー政策の失敗を参照したい。そこでは、経済合理性を軽視し、脱炭素という理念を急進的に追求した結果、産業基盤が毀損されるという現象が起きている。

 そんな中、米国の経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、欧州の現状を分析する記事を配信した。その記事にはこんな指摘がある。

欧州は、グリーンへの移行において、他のどの地域とも異なる戦略を追求してきた。米国、中国、インド、ブラジルなどは、「AもBも」という「AND」の戦略をとった。つまり、再生可能エネルギーを積極的に展開すると同時に、化石燃料による発電所も大規模に建設しているのだ。対照的に、欧州は主に「AかBか」という「OR」の戦略をとった。炭素に重税を課し、再生可能エネルギーに補助金を出し、多数の化石燃料発電所を閉鎖することで、化石燃料を太陽光、風力、バイオマスに置き換えようと急いだのである
(「欧州のグリーンエネルギーへの殺到は、排出量を削減したが、経済を機能不全にした」ウォール・ストリート・ジャーナル紙、2025年12月1日配信、筆者訳)

欧州が陥った「あるジレンマ」

 この記事における「AND(AもBも)」と「OR(AまたはB)」の対比は、エネルギー政策の成否を分ける決定的な視点を提供している。米国や中国は、再生可能エネルギーへの投資を進めつつも、従来の化石燃料による発電能力も維持・拡大する「AもBも」の戦略を採用した。これは、エネルギー安全保障と経済成長を両立させるための、極めてプラグマティックな判断である。

 一方、欧州は「AまたはB」の戦略を取った。再生可能エネルギーへの移行を急ぐあまり、代替電源が十分に確保されないまま、既存の発電所を閉鎖に追い込んだ。その結果、何が起きたか。記事が指摘するように、ドイツや英国では電力価格が高騰し、エネルギー多消費型の産業が流出、あるいは操業停止に追い込まれている。

 AI産業やデータセンターといった次世代の成長産業も、電力不足とコスト高によって欧州を敬遠し始めている。理念がいかに高尚であっても、エネルギー価格の高騰は産業競争力を削ぐ。これは経済の冷厳な事実である。欧州の事例は、供給の安定性と経済性をないがしろにした政策が、結果として国民生活と国家の経済基盤を脅かすことを証明しているように思える。

 日本に目を転じれば、状況は欧州の失敗事例に酷似しつつある。老朽化した火力発電所の休廃止が進む一方で、それを補う安定電源の確保はスムーズに進んでいるとは言い難い。日本もまた、意図せざる「AまたはB」の戦略に陥っていると言えるだろう。

 しかし、日本には欧州と決定的に異なる点がある。それは、即座に投入可能な大規模な安定電源を、すでに保有していることだ。 【次ページ】「原子力」のリスク管理、正解は?
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