• 2025/12/29 掲載

日本の電力需給は「常に綱渡り」…経済合理性で考える安定実現の「脱二元論」視点とは(3/3)

連載:小倉健一の最新ビジネストレンド

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経済合理性の視点で考える「脱二元論」

 現在日本には33基の原子炉が存在し、そのうちすでに再稼動しているのは14基だ。

 今後、そこに新たに2基が加わる見通しとなった。その2基とは、東京電力が新潟県に持つ柏崎刈羽原子力発電所である。

 同発電所の6号機と7号機は、2017年に新規制基準に基づく厳格な安全審査に合格。今月22日には新潟県議会で、再稼動を前提とした補正予算案の成立と再稼動容認の意向を示していた花角英世・新潟県知事を信任する付帯決議案が決議され、地元同意の手続きが事実上完了。来年2026年1月に再稼動すると見られている。

 この2基の合計出力は271.2万kW。これは、現在の東京エリアの電力予備率を瞬時に約5%押し上げる規模である。逼迫する需給バランスを一気に改善し、予備率を安全圏へと引き上げるだけの能力を有している。山手線内側の全需要をカバーして余りあるこの出力は、綱渡りの電力供給を安定させるのに大きな役割を果たすだろう。

 2基の再稼動についてはこのように現実的な見通しが立ったとはいえ、原子力発電所の再稼動は、依然として賛否が分かれる問題だ。

 日本における原発再稼働に反対する議論の中には、福島第一原発事故を根拠とするものが多い。だが、国際原子力機関(IAEA)の報告書が結論付けているように、あの事故の直接的な原因は、津波による全交流電源の喪失にある。原子炉そのものの構造的欠陥ではない。

 この科学的な事実に基づき、柏崎刈羽原発では防潮堤の建設や電源の高台移設など、多重の安全対策が施されている。

 リスク管理とは、ある事象が発生する確率と、それがもたらす影響の甚大さを比較することである。たしかに原発稼働に伴うリスクをゼロにすることはできず、万が一の事態を鑑みて再稼動反対の思いを抱くことはある意味で当然だ。ただその一方で、電力供給が途絶することによる社会的・経済的損失のリスクもまた、極めて甚大である。

 病院での医療機器停止、交通網の麻痺、生産活動の停止。これらがもたらす生命への危険や経済的打撃は、抽象的な不安ではなく、具体的な被害として現れる。

 欧州が直面している「脱工業化」と経済停滞は、エネルギーコストの上昇がいかに国家の体力を奪うかを如実に示している。日本が同じ轍を踏む必要はない。高騰する燃料代を海外に支払い続け、不安定な再エネに依存し、老朽火力で凌ぐという現状は、経済合理性の観点から今一度見直す必要があるのではないだろうか。

 現場でインフラを守る技術者たちの献身に依存する段階は終わった。求められているのは、感情やムードではなく、数字とファクトに基づいてエネルギー戦略を再構築すること。

 計画停電という「敗北」を回避し、産業競争力を維持するために、日本が採るべき選択肢は明らかである。「AまたはB」の罠を避け、「AもBも」の強靭さを手に入れること。今こそ合理的な判断が下されるべきである。

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