- 2026/02/10 掲載
FigmaやHubspot大暴落…SaaSビジネス「オワコン化」のワケ、AI時代に残る条件3つ
「終焉論」再燃を招いたAIショックの連鎖
2026年2月の急落は、単なる地合いの悪化というより、AIによってSaaSの価値が目減りするのではないかという見立てが一気に広がった点に特徴がある。アンソロピックが営業、法務、データ分析などの実務を自動化すると掲げたことで、これまで専用ソフトが必要だった業務が置き換わるのではないかという不安が膨らんだ。売られたのは、AIに勝てないと見られた弱いSaaSだけではない。ロンドン証券取引所グループやトムソン・ロイター、オラクルなど、データや業務基盤に深く入り込む企業も急落した。市場関係者が一連の動きをアンソロピック・ショックやSaaSpocalypse(SaaSの黙示録)と呼んだのは、特定銘柄の不調ではなく、業務ソフト全体の前提が揺らいだと受け止められたからだ。
法務が引き金になった理由は想像しやすい。法務は文書量が多く、判断の根拠がテキストとして残る。大規模言語モデルの得意領域と重なり、成果も時間短縮やレビュー量といった形で示しやすい。AIが業務を完結できるというイメージが、最も伝わりやすい領域だった。
SaaS企業にとって厄介なのは、こうした象徴的なニュースが顧客の購買行動より先に、経営層の前提そのものを動かしてしまうことにある。
ブルームバーグによれば、ナスダック100指数の2日間の下げは昨年10月以降で最大となり、時価総額で5,500億ドル、約86兆3000億円超が消えた。ゴールドマン・サックスのソフトウエア銘柄バスケットも短期間で大幅に下落したとされる。
数字が示しているのは、個別プロダクトの優劣ではない。定額課金、いわゆるユーザー数による課金と継続課金を組み合わせたSaaSの型が、AIエージェント時代にも通用し続けるのかという疑念だ。
従来はユーザー数に比例してライセンスが積み上がり、売上の見通しが立ちやすかった。だがAIが人間の代わりにPCを操作し、タスクを自律実行できるなら、必要なログイン人数は減る。コスト削減局面で顧客が見直しやすいのは、追加ライセンスや周辺ツールだ。市場の急反応は、SaaSが削りやすいコストに分類されかねないという危機感を映している。
AIが置き換える領域と残る土台の見取り図
SaaS終焉論が当たっているのは、機能の一部が、UIを伴うアプリから自然言語で呼び出せる能力へ移る可能性が高い点だ。最大の脅威はSaaS企業の収益源であるユーザー1人当たりの定額課金モデルが崩れることにある。人間の介在を必要としない自律型AIエージェントが普及すれば、必要なライセンス数が減りうる。
データ分析や業務フロー管理、レポート作成といった、利用頻度は高いが差別化しにくい機能は、専用プラットフォームを介さずAIが処理する方向に進むかもしれない。
ただ、終末論だけでは説明しきれない面もある。第1に、AIは正しいデータと実行権限がなければ業務を完結できない。価値ある業務データやノウハウは依然として既存企業の手元にあり、顧客接点や膨大な業務データを持つソフト企業がAIを取り込めば強力なサービスへ進化し得るという共存論がありえる。
第2に、企業の業務は規程や監査、権限分掌、個人情報保護など、制約が多く、単発の自動化で終わらない。AIが生成した結果を誰が承認し、どこに記録し、責任をどう分担するかは、プロダクトというより運用設計の問題として立ち上がる。
AIが奪うのは作業であって、意思決定の枠組みではない。SaaSが入力フォームやダッシュボードではなく、業務のルール化、履歴の蓄積、例外処理、監査証跡に価値を置いてきたなら、AIはそれを置き換えるより、上に乗って加速させる道がある。
逆に価値が単機能の便利さに偏っている場合、AIは最短距離で代替しに来る。自社がどちら側に立っているのかを見誤ると、議論の前提がずれる。
悲観論に対する反論も実際に出ている。エヌビディアのジェンスン・フアンCEOはソフトウエア株の売りを世界で最も不合理な事象と述べ、AIは製品を代替するのではなく高度化させる不可欠な要素だと主張した。SAPのクリスチャン・クラインCEOも、AIの脅威は誇張だとして、AIのおかげで案件を獲得していると説明したという。
反論を楽観として切り捨てるのではなく、SaaSが価値を出しているレイヤーを分解し、AIが侵食する部分と強化する部分を見分ける必要がある。 【次ページ】これからSaaS企業がたどる3つの道
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