• 2025/12/06 掲載

AWSがAIエージェントを全面強化、独自AI半導体「Trainium 3」による三層戦略の狙い

連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

会員(無料)になると、いいね!でマイページに保存できます。
AWSは年次イベント「re:Invent 2025」で、AIエージェントの本格展開と自社半導体の強化を柱とする新戦略を示した。生成AIの普及を踏まえ、企業システムを再構築する次の波が始まった格好だ。物流や製造など実世界で動く「フィジカルAI」への応用も加速し、クラウドとエッジを貫く計算基盤の覇権争いが本格化している。AWSが狙う2030年のインフラ像は、企業のIT投資の前提を大きく書き換えつつある。
photo
【画像付き記事全文はこちら】
生成AI分野で出遅れ感のあったAWSが急速に巻き返しを図ろうとしている
(出典:AWS)

AIエージェントでAWSが示した新アーキテクチャ

 AWSは今回のre:Inventで、AIエージェントを企業システムの中核に据える姿勢を一段と鮮明にした。生成AIの高度化により、単なる応答型ではなく、複数の業務手順を自律的に遂行し、外部システムとの連携まで担う「自律型AI」への移行が本格化している。AWSはこの変化を、アプリケーション基盤の再構築を促す転換点と位置付けており、ソフトウェア開発や運用を対象とした「Frontier Agents」 や Amazon Bedrock のエージェント機能 に加え、エージェント開発を支える中核コンポーネントとして Amazon Bedrock AgentCore を前面に打ち出し、「AI前提の業務アーキテクチャ」を明確に示した。

 背景には、企業が扱うデータ量の急増と業務プロセスの複雑化がある。従来のワークフローは、担当部署が複数のシステムを跨いで手動で処理するケースが多く、意思決定に至るまでの時間が長かった。データ統合の遅れや属人的な判断は、業務効率化の阻害要因となってきた。

 AIエージェントは、こうした工程をAPIベースで統合し、業務の自動遂行を可能にする。AWSは Amazon Bedrock に統合機能を追加し、データ管理基盤である Amazon DataZone や、業務フローを自動実行する AWS Step Functions と連携しやすい構成を整えた。特に Amazon Bedrock AgentCore は、エージェントが利用するツール群やアクション、システム連携を一元管理する基盤として位置付けられ、企業が自社業務に合わせてエージェントの役割や判断ロジックを設計しやすくする。さらに、より高性能な判断タスクを担う Frontier Agents は、ソフトウェア開発やセキュリティ、運用などの領域で複雑な処理を自動化し、エージェント活用の範囲を大きく広げる狙いがある。

 導入企業の活用領域も広がっている。問い合わせ対応では、クラウド型コンタクトセンターサービスの Amazon Connect と生成AIエージェントを組み合わせ、顧客情報の参照、回答生成、手続きの自動処理までを一貫して行う仕組みが普及しつつある。内部向けには、在庫の需給予測、売上分析、経理処理の前段階支援、システム運用の一次判断など、エージェントの利用が多方面に広がる。特に運用領域では、Amazon CloudWatch が検知した異常をエージェントが分析し、必要な対処を AWS Systems Manager 経由で自動実行するフローが確立しつつある。担当者は最終確認と例外処理に専念できるようになり、運用業務の負荷は大幅に軽減される。

 AIエージェントが複数業務を跨いで判断するためには、高品質のデータと安定した連携基盤が不可欠だ。AWSはクラウド側でその前提を整え、Bedrockを中心とした生成AIサービス群と、データ管理・ワークフロー基盤を統合することで、企業が大規模なエージェント運用を行うための環境を提供する。Frontier Agents は複雑なタスクを長時間自律的に処理する役割を担い、Bedrock AgentCore は企業独自のビジネスロジックや外部APIを組み込む「中核エンジン」として機能することで、企業は業務横断の自動化を一段と進められるようになった。AWSは、これらの技術群を通じて、企業がこれまで人手に依存していた判断の多くをAIへ委ねることを可能にし、業務効率化だけでなく、意思決定の一貫性と速度を高める方向性を打ち出している。

フィジカルAIが加速、AWSが狙う「現場インフラ」

 AIの適用範囲は、クラウド内のデータ処理から、工場や物流拠点などの実空間へと確実に広がりつつある。AWSが掲げるリアルワールドAI(フィジカルAI)は、カメラやセンサー、ロボットが生成する膨大な現場データをAIが解析し、作業や判断をリアルタイムで最適化する仕組みを指す。

 従来のIoT活用はデータ収集が中心だったが、エッジ側での推論実行や自律制御技術が進んだことで、“判断”と“実行”が現場で完結するケースが増えてきた。AWSは AWS IoT TwinMaker やIoTサービス群との連携を強め、現場の状態をデジタルツインとして統合し、AIによる制御と運用改善につなげるアーキテクチャを提示している。

 物流では搬送ロボットの経路最適化、製造では設備稼働率向上のためのAI推定、小売では在庫補充の自動化など、実空間とAIが結びついたユースケースが顕著に増えてきた。企業はエッジ側で処理を行いながら、クラウド側で学習や統合分析を行う“クラウド×エッジ”構成を取り入れ、運用効率と意思決定の迅速化を目指す動きを強めている。

 この分野での競争は、クラウド事業者が従来のIT領域を越えて産業インフラへ踏み込む展開を後押ししている。現場業務に密着したAIシステムは一度構築すると乗り換えが難しく、結果として長期利用につながりやすい。AWSが物流や小売との提携を拡大している背景には、こうした実空間データとAI活用が企業システムの中核となり、クラウド事業者の影響力が高まる可能性があるという構造がある。

画像
【画像付き記事全文はこちら】
後ほど詳しく解説します
【次ページ】AWS半導体「Graviton5」「Trainium3」による“三層戦略”が明らかに
関連タグ タグをフォローすると最新情報が表示されます
あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

基本情報公開時のサンプル画像
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます

基本情報公開時のサンプル画像