- 2026/07/14 掲載
決算書は「黒字」、実態はカラッポ…名門カネボウ「2,150億円事件」が今も怖い理由
連載:失敗企業から学ぶ財務諸表の基礎知識
2011年、公認会計士試験に合格後、清和監査法人、新日本有限責任監査法人、有限責任監査法人トーマツにて監査業務やIFRSアドバイザリー業務などに従事。その後、リクルートホールディングスにてIFRS連結決算、開示業務などを担当。2021年7月に独立開業。現在は、大手公認会計士試験予備校のCPA会計学院が運営するCPAラーニングの実務家講師を務める。著書に『経理になった君たちへ』『伝わる経理のコミュニケーション術』(税務研究会出版局)『会計が面白いほどわかるミステリ 決算書に隠された7つの罪』(KADOKAWA)など。また「公認会計士YouTuberくろいちゃんねる」を運営。
名門カネボウは、なぜ「わずか2カ月」で市場から消えたのか
カネボウという社名に、化粧品の印象をお持ちの方は多いでしょう。その始まりは1887年、明治にさかのぼります。もとは綿を扱う紡績会社として生まれ、繊維の名門として日本の近代化を支え、やがて化粧品・食品・薬品へと事業を広げました。東京証券取引所一部(現在のプライム市場)に名を連ねる、押しも押されもせぬ大企業でした。
その名門に激震が走ったのは、2004年のことです。経営が行き詰まり、産業再生機構に支援を求める過程で、社内に設けられた調査委員会が、長年にわたる決算の偽装を明らかにしていきます。
2005年4月、カネボウは過去5期分の決算を訂正しました。報道や研究資料によれば、その粉飾の総額は約2,150億円にのぼると公表したとされています。
事態は速く動きます。2005年6月に上場廃止。7月には、当時の社長と副社長らが、有価証券報告書に嘘の数字を載せた罪(証券取引法違反)で逮捕・起訴されました。
なぜ、これほどの名門が崩壊寸前まで追い込まれたのか。まずは、決算書の何が偽装されていたのかから見ていきましょう。
差額2,000億円…「からっぽ」の“黒字企業”隠していたウソ
カネボウが世の中に見せていた決算は、健全な優良企業のものでした。しかし実態は正反対でした。たとえば2002年3月期、公表していた「黒字」は約7,000万円でしたが、実際はおよそ260億円の赤字だったのです。
さらに深刻なのが純資産です。純資産とは、資産から負債を引いて残る、会社の正味の取り分のことで、これがマイナスになった状態を「債務超過」といいます。持っているものをすべて売り払っても借金が返しきれない、いわば会社の中身が“空っぽ”の状態です。
カネボウはこの期、決算書の上では約9億円の資産超過を装っていましたが、実態は約1,950億円もの債務超過。その差は、およそ2,000億円にのぼります。債務超過は即座に倒産を意味するわけではありませんが、銀行の融資姿勢や取引先の与信、上場廃止基準にまで関わる重大なシグナルです。
カネボウは実際には赤字なのに、粉飾を続けるため4年間で約436億円もの法人税を納めていたとされます。払わなくてよい税金まで払って、嘘を守り続けていたのです。 【次ページ】社内での通称は“宇宙遊泳”、粉飾を支えた3つの手口
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