- 2026/06/02 掲載
「書類だけ回して」消えた16億円…上場企業も見逃したKDDI傘下発の“架空循環取引”
新連載:失敗企業から学ぶ財務諸表の基礎知識
2011年、公認会計士試験に合格後、清和監査法人、新日本有限責任監査法人、有限責任監査法人トーマツにて監査業務やIFRSアドバイザリー業務などに従事。その後、リクルートホールディングスにてIFRS連結決算、開示業務などを担当。2021年7月に独立開業。現在は、大手公認会計士試験予備校のCPA会計学院が運営するCPAラーニングの実務家講師を務める。著書に『経理になった君たちへ』『伝わる経理のコミュニケーション術』(税務研究会出版局)『会計が面白いほどわかるミステリ 決算書に隠された7つの罪』(KADOKAWA)など。また「公認会計士YouTuberくろいちゃんねる」を運営。
「支払いだけ対応してほしい」──異例の取引はこう始まった
2026年5月、東証グロース上場のバリュークリエーション(VC社)の特別調査委員会調査報告書が公表されました。KDDI傘下のジー・プラン(GP社)のa氏が主導した架空循環取引の商流に組み込まれ、2018年8月から2025年11月まで、約7年4カ月にわたり売上総額約16億円が訂正対象となる事案です。報告書には、取引開始時にGP社のa氏がVC社の担当役員j氏へ依頼したという、こんな一文が残されています。
「発注書や請求書等の必要関係書類の授受、及び代金支払関係のみ対応してほしい」
上場わずか2年の広告仲介企業が、なぜこの架空循環取引に巻き込まれてしまったのでしょうか。
なぜ「実務なし」の取引が7年4カ月も続いたのか
報告書によれば、架空循環取引を主導したのはGP社の広告代理事業部に所属していたa氏です。VC社はその商流の中間に組み込まれました。VC社は、東京・恵比寿に本社を置く広告代理業の会社です。マーケティングDX事業(運用型広告を中心とするWebマーケティング支援)と、不動産DX事業(解体マッチング「解体の窓口」)を展開しており、従業員は58人、2023年11月22日に東京証券取引所グロース市場へ上場したばかりでした。
GP社のa氏がVC社のj氏に本件取引を持ちかけたのは、2018年8月頃のこと。両者は前職時代の先輩・後輩で、同年2月にビジネス交流会で再会していました。
a氏の依頼は明快なものでした。GP社と既存取引先の間にVC社が入る。VC社が広告運用の実務を担うことはなく、書類のやり取りと支払いだけを引き受けてほしい、というものです。
手数料は売上の1~5%程度。VC社の実作業は「GP社からの取引明細の確認・下流取引先との照合確認及び入出金管理」に限られていました。下流のA社、後に登場するC社、G社などへの発注金額・成果件数は、すべてa氏がExcelファイルでChatworkを用いて送付していました。
VC社の実務担当者であるce氏は、「取引明細の内容を確認するのみであり、取引数量や金額を自ら決定する立場にはなかった」のです。
取引は、2018年8月から2025年11月までの約7年4カ月にわたって続きました。2019年2月期から2026年2月期までの入金額合計は約999億2,800万円、支払額合計は約982億9,200万円。差額として手元に残った約16億3,700万円は、ほぼすべてが売上訂正の対象となります。
マーケティングDXを掲げる上場企業が、書類の授受だけで生まれた利益を主力ポートフォリオの一角に組み込んでいたのです。
【絶句】架空取引を見えなくした“業界慣行”
報告書を読むと、循環取引の構造が浮かび上がってきます。当委員会は、VC社が関わった4つの商流、すなわちA社・C社・G社が下流の起点に立つ系統を、架空循環取引と認定しました。VC社が認識していた商流は、広告主から発注を受けた上流代理店がGP社に広告運用を発注し、GP社がVC社に発注、VC社がa氏指定の下流代理店(A社、後にC社、G社など)に再発注し、その先のアフィリエイターらに広告掲載が委託される一方向の流れでした。
ところが実態は、広告主が存在せず、下流に見えた企業が別の商流ではGP社の上流側に回り、資金がぐるぐる回るだけの循環構造になっていたのです。
中でも筆者の背筋が寒くなったのは、a氏が監査法人の確認要請を阻止するために繰り返したという、ある一言です。VC社の監査法人が下流代理店(C社)に成果物の開示を求めた際、a氏はこう述べて確認を止めたとされています。
「各代理店の取引先はノウハウに属する部分であり、上流代理店より上、又は下流代理店より下は確認しないのが業界の慣行である」
報告書はこの一言について、「こうした説明が実際に社内外に受け入れられてしまう程度には、当該慣行が共有された認識として存在していたことが窺われる」と分析しています。どのメディア・どのクリエイティブで何件の成果を獲得しているかは下流代理店にとって最重要の競争優位の源泉とされ、上流取引先にも開示しないことが「実務上の慣行」だというのです。
仮に管理画面の開示を受けても、ダミーURLや事後作成のキャプチャによって、見破れなかった可能性があるとも報告書は述べています。「業界慣行」が下流の管理画面開示を阻む以上、本件では、独立検証の手段を実質的に持てていなかったのです。 【次ページ】担当者は面識なし…最大取引先との“薄すぎる関係”
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