- 2026/09/06 09:00 掲載
OpenAIが数万台のMacを調達、なぜ今AI企業にMacが人気なのか
AIエージェントによるPC操作の高まりと強化学習用途急増
OpenAIがMacを「数万台」買い占め、その目的とは
OpenAIがMac miniとMac Studioを数万台規模で購入し、強化学習やコンピュータ操作型AIエージェントの訓練に利用していると、米テックメディアが報じた。競合するAnthropicについても、Amazon Web Services(AWS)を通じてMac miniを借り、同種の用途に利用しているという。こうしたMacがNVIDIA製GPUの「代わり」として、大規模言語モデルをゼロから学習させるために導入されているわけではない。ChatGPTのような巨大な基盤モデルを事前学習する場合、数多くのGPUを高速ネットワークで接続し、一つの巨大な計算機のように動かす大規模クラスタが重要になる。この分野ではNVIDIAのGPUとCUDAを中心とするソフトウェア基盤が依然として大きな存在感を持つ。
一方、コンピュータ操作型AIエージェントでは事情が異なる。こうしたAIは、画面を見て「このボタンを押す」「ここに文字を入力する」「次に別のアプリを開く」と判断し、人間がパソコンを操作するのと似た手順で仕事を進める。学習では、タスクを実行し、失敗し、評価を受け、もう一度試すという大量の試行錯誤を繰り返す。そのため、一つの巨大な計算機を極限まで高速化するだけでなく、多数の独立したコンピュータ環境を同時に動かし、多くの試行を並列化することにも意味がある。Mac miniやMac Studioのような小型デスクトップは、こうした用途に適した選択肢の一つになり得る。
またMac miniやMac StudioがAI用途で注目されているもう一つの理由が、Apple Siliconの「ユニファイドメモリ」だ。一般的な高性能PCでは、CPUが使うシステムメモリと、GPUが使う専用メモリ(VRAM)が分かれている。これに対してApple SiliconではCPUとGPUなどが一つの大きなメモリ領域を共有する。
これによって常にAI処理が高速になるわけではないが、大容量メモリを搭載したMacでは、大きなAIモデルを一つのメモリ空間に収めてローカルで動かしやすいというメリットがある。Mac Studioは特に大容量メモリを搭載でき、長時間の高負荷処理に対応する冷却機構も備えている。米テックメディアも大容量メモリと冷却能力をAI開発者がMacを選ぶ理由として挙げている。
こうした動きは、AI開発企業側の報道だけにとどまらない。AppleのTim Cook氏は2026年4月の決算説明会で、Mac miniとMac Studioについて「AIやエージェント型ツールに適したプラットフォーム」であり、顧客の認識と需要の伸びがAppleの予測を上回ったと説明した。供給と需要が均衡するまで「数カ月かかる可能性がある」とも述べている。
またオープンソースのAIエージェント「OpenClaw」を常時稼働させる端末としてMac miniが一時人気となり、一時は品薄や価格上昇が起きたと報じられた。AIエージェントにファイル操作やアプリ操作など幅広い権限を与える場合、普段使っているPCとは別の専用マシンを用意したいというニーズもある。
この需要増はAppleの業績にも表れており2026年度第3四半期のMac売上高は約104億ドルとなり、前年同期比で約29%増加した。Apple自身もMac売上高が6月期として過去最高を記録したと発表している。もっとも、OpenAIなどAIラボによる大量購入が、この増収にどの程度寄与したのかは明らかにされていない。
AIエージェント向け需要がPC市場にも波及
デスクトップ型AIコンピュータに力を入れているのはAppleだけではない。NVIDIAは2025年10月、小型のAIコンピュータ「DGX Spark」の出荷を開始した。128GBのユニファイドメモリを備え、大規模AIモデルやAIエージェントをデスクトップ上で動かすことを想定した製品だ。さらにNVIDIAは2026年5月、Microsoftと共同で「RTX Spark」を発表した。最大128GBのユニファイドメモリとBlackwell世代のGPUを組み合わせ、Windows上でローカルAIやAIエージェントを動かす新しいPC市場を狙っている。ASUS、Dell、HP、Lenovo、MSIなどが対応製品を計画しているが、最初の搭載PCは10月以降に出荷される予定であり、その人気から初期ロットはすでに予約で完売のPCもで始めている。
NVIDIA自身もRTX Sparkで「ユニファイドメモリ」を採用していることだ。最大128GBのメモリをCPUとGPUで共有し、大きなAIモデルやエージェントをPC上で処理できるようにしている。これはApple Siliconが先行してきた「大容量の共有メモリを使ってAIをローカルで動かす」という考え方が、PC市場全体へ広がっていることを示している。
Appleもこの需要を意識した製品戦略を鮮明にしている。2026年8月25日には、M6またはM5 Proを搭載した新しいMac miniと、M5 MaxまたはM5 Ultraを搭載した新しいMac Studioを発表した。いずれも9月22日から販売される予定だ。特に象徴的なのが、新しいMac Studioだ。M5 Ultraモデルでは最大512GBのユニファイドメモリを搭載できるほか、Thunderbolt 5とRDMAを利用して複数のMac Studioをクラスタ化し、分散型AI推論を実行できる。
Appleによれば、4台のMac Studioによるクラスタでは、単体と比較して最大3倍のAI推論性能を実現できるという。つまりApple自身も、Macを単なるクリエイター向けPCではなく、大規模AIモデルやAIエージェントをローカルで動かす「AIコンピュータ」として明確に位置付け始めている。
こうした動きから見えてくるのは、AIインフラ市場の役割分担だ。巨大な基盤モデルを学習させるには大規模GPUクラスタが必要になる。一方、完成したモデルの推論、AIエージェントの実行、コンピュータ操作の学習、企業内でデータを外部に出さずAIを動かす用途では、MacやRTX Spark、DGX Sparkのようなデスクトップ型AIコンピュータにも活躍の余地が広がっている。
これまでAIインフラ投資といえば「何基のGPUを確保できるか」が最大の焦点だった。しかしAIエージェントが普及すれば、今後はGPUだけでなく、「どの処理をクラウドに置き、どの処理をデータセンターで行い、どの処理を手元のコンピュータで動かすか」というインフラ設計そのものが競争力を左右するようになる。
AIが「巨大モデルを作る技術」から「実際に仕事をする技術」へ進化するにつれ、それを支えるコンピュータもまた、多様化し始めていると言えるだろう。
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