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- 2011/06/17 掲載
【特別レポート】震災で再認識されるITの重要性、復興投資はすぐに起きるのか?:篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(31)
IT関連の被害額は最大4.4兆円
IT関連資本ストックの被害額は2.5~4.4兆円
多くの死者・行方不明者を出した東日本大震災では、マグニチュード9.0という巨大な地震とその直後の津波によって、広い範囲で施設や家屋などの物的被害が起きた。内閣府(2011)の推計によれば、社会資本や住宅を含めた総資本ストックの毀損額は16~25兆円(民間ストックは9~16兆円)とされ、このうち14~23兆円は岩手、宮城、福島の3県に集中している。筆者も参加した情報通信総合研究所の検討会では、この被害額をもとに2つの側面からIT関連資本ストックの被害額を推計した 。ひとつは、通信、放送、情報サービスなどIT関連産業の被害額、もうひとつは、一般企業が保有するコンピュータなどIT関連資産の被害額だ。それによると、IT関連産業の被害額は1.6~2.8兆円、一般企業(除くIT関連産業)が保有するIT関連資産の被害額は0.9~1.6兆円と試算され、合計で2.5~4.4兆円の資本ストックが毀損したものとみられる(図表1)。
IT関連の復旧投資がもたらす経済波及効果
毀損された資本ストックは、今後の経済活動に必要なものであれば、速やかに復旧されるはずだ。ストックが過去の経済活動の累積だとすれば、設備投資として動き出すこれらの復旧工事は、現在から将来に向けたフローの経済活動といえる。フローの設備投資は、直接的な「需要」として現在の景気を力強く押し上げるとともに、さまざまな経路で間接的な波及効果を生み出す。たとえば、4.4兆円のIT関連投資はGDP(国内総生産:2010年度476兆円)の0.9%に相当する。このうち1兆円は、輸入に向かい、国内生産に回る分は3.4兆円とみられるが、この投資需要によって誘発される国内産業の生産額は最終的に7.0兆円に達し、雇用誘発効果は35.7万人と試算される(図表2)。毀損したIT関連資本ストックを復旧する投資の経済効果はかなり大きいといえるだろう。
震災で再認識されるITの重要性
しかも、今回の大震災では、多様な領域でIT導入の重要性が再認識された。大津波によって、市役所などの公的機関や病院などの医療機関が壊滅的な被害を受けた被災地では、救命と救援に必要な本人確認の情報や診療記録などの基礎情報喪失が問題となったが、宮城県石巻市の市立病院では、日本海側の山形市立病院との間で電子カルテ情報が共有されていたため、患者10万人以上の診療記録が難を逃れたという(注1)。個人や企業の情報管理面でも、これほどの大災害では、個々の端末の情報管理やバック・アップによる対応には限界があり、クラウド・コンピューティングの導入やその基盤となるデータ・センターの整備と分散化が有効であると実感できた。これは、緊急時や節電に対応した勤務体制の見直しで注目されるテレワーク(在宅勤務)についてもいえることだ。
また、電力制約が現実の問題となる中で、スマート・メーターを使ったエネルギー消費の「見える化」や、太陽光発電など多様な電源からの供給を需要動向にあわせて効率的に行うスマート・グリッドなど、ITを駆使した新しいシステムも各方面で関心を集めている。東京大学では、情報理工学系研究科の江崎浩教授が主導するグリーンICTプロジェクトで、電力使用状況の「見える化」とサーバーの集約化などで、今夏ピーク時の電力消費量を前年比で30%削減することが目指されている(注2)。
こうした取り組みは、民間企業でも以前から進められていたが(注3)、今回の震災を期に一段と加速する気配だ。日本経済研究センター(2010)の分析では、グリーンIT、テレワーク、医療などの領域でこれらのIT投資が促進されると、1%程度とされる日本の中期的な経済成長率は2%程度にまで加速すると試算されている。General Purpose Technology(GPT)としてのITは、まさに課題解決と成長戦略の「かなめ」なのだ。
【次ページ】復興投資はすぐに起きるか?
注1 詳しくは、情報通信総合研究所他(2011)参照。
注2 日本経済新聞(2011)参照。
注3 東京大学新聞(2011)参照。
注4 たとえば、山本・篠﨑(2010)では、ITを用いたエネルギー使用の可視化による工場現場の正確な実態把握が工程の見直しや思い切った設備の一新につながり、生産性を大幅に向上させた横河側電機の事例などが紹介されている。
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