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  • 2012/04/25 掲載

「AIJ問題」防止のための年金運用態勢強化のイロハ(2) ~ これからどうなるの?(2/2)

金融がわかりたい人のための「腑に落ちる」シリーズ

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投資顧問会社にかかる議論

 金融庁では、投資一任業務を行う金融商品取引業者(投資一任業者)の全て(265社)に対する一斉調査を実施。その後一部の投資一任業者に対して更に深度ある第2次調査に着手しており、対象の業者に4月27日までに書面報告を要請。これら文書ベースによる実態把握を踏まえ、問題を起こすおそれのあると判断した業者へは金融庁傘下の証券取引等監視委員会による特別検査が実施される見込み。投資一任業者は「投資運用業」を行う旨金融庁に登録されているが、金融機関(銀行・証券会社・保険会社等)のように当局検査を頻繁に受けているわけではなく、また個別業者の業容を当局が把握する範囲も限定的である。現在のところでは、まずは現状把握といったスピード感と思われる。

 一方こうした動きとは別に政府・与党では投資顧問会社への規制強化を検討すべきとの声が出ている。外部監査を一律に義務づける、当局検査を金融機関並みの頻度と規模で実施する、といった意見も。「AIJ問題」をごく特殊なケースと見るのか、再発の可能性が投資顧問業界の根本に横たわると見るのか。現状把握・分析を経た今後の動向が注目される。

信託銀行における管理態勢強化の動き

 企業年金から年金資産の管理を受託する信託銀行は、企業年金に対し受託者責任が発生する。この立場から信託銀行が年金運用態勢をどう強化すべきなのか。各種報道によれば、金融庁と、信託銀行の業界団体である信託協会が、それぞれ以下の方向で検討を行っている。

 金融庁では、企業年金を運用する投資顧問会社が過度なリスクをとっている場合や不透明な運用をしている場合に信託銀行に警告させ、警告後も改善が見られないときは契約解除を検討するよう求めることを視野に入れている。信託銀行がこうした責任を果たさなかった場合は、業務改善命令など行政処分の対象とする方向。これらの趣旨で信託業法施行規則や監督指針(信託会社等に関する総合的な監督指針)を改正する見通し。

 一方、信託協会が「AIJ問題」再発防止策として検討中の内容は、厚生年金基金が投資顧問と投資一任契約を締結する際の監視の徹底。具体的には2点が含まれる。第1に、投資顧問会社およびその設定した投信の管理会社や名義人ら関係者の資本関係や価格情報の伝達経路を基金側が理解しているかを、信託銀行が契約時に確認する仕組みを新設。この際、場合により信託銀行は受託を拒否可能。第2には、運用情報が不透明な外国籍の私募投信で運用する場合には、信託銀行自らが投信の名義人になり価格情報を照会可能とする仕組みも視野に。これらの内容は信託銀行業界の意見として、今後金融庁の上記趣旨の中で規則や監督指針に反映される。

一連の議論で反映させるべき視点

 年金運用態勢強化についての論考は、政・官・業・学・メディアにおいて当面さまざまな立場からホットに展開されるだろう。その中で外してはならない視点について私見を述べる。

 「AIJ問題」では年金資産を「消失」させそれを隠匿していた投資顧問会社に大いに非がある。しかしながら、これを契機にそのありように再考を迫られるべきは、主に企業年金のスキームや体制の側にある。これを進めるにあたっては、金融当局との協働や金融業界のノウハウ・リソースを積極的に取り入れるのが有効。具体的には、農協への監督に見られるような規制当局間の連携(当局検査の実施を含む)、顧客資産運用業務に精通した者の意思決定ポストへの採用、それらポストを務める者の業務精通度を高めるためのフィールドワーク(セミナー開催、コンサルティング活用)等様々考えられる。

 運用の選択の自由度を狭め無用なコスト増加をもたらすような投資顧問会社への規制強化は慎むべきである。ただし、事件をきっかけとして投資家側の年金運用・管理態勢への関心が高まったことは疑いない。これに対しては投資顧問各社での適切な対処が望まれる。内部監査の増強・情報開示の充実・リスク管理の強化・コンプライアンスの徹底等投資顧問会社における内部管理態勢の重要性が、投資家側で一任契約締結のパートナーを選ぶ際にますます増大するためである。

 全ての企業年金・投資顧問会社・運用スキームに一律同様の規制を適用するのではなく、実態をきちんと把握した上でメリハリのついた制度設計を行うことが望ましい。たとえば、金商法上の特定投資家(いわゆる「プロ投資家」)と一般投資家は区別して企業年金規制を課す等が考えられる。

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