• 2012/06/26 掲載

【李鳳宇氏インタビュー】『フラガール』などのヒット作を製作した、シネカノンの破綻と再生について元代表の李鳳宇氏に聞く(2/3)

『パッチギ!』『シュリ』『フラガール』プロデューサー 李鳳宇氏インタビュー

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さまざまな問題が押し寄せた

──もともと有限会社だった「シネカノン」を株式会社にされたのはいつですか?

 李氏■ファンドの際です。有限会社ではまずいということになって。それで、増資は2億円くらい。急場は凌げたんですが、さらに問題が出てきた。

 韓国に映画館をオープンさせたんです。これは、シネコンを買い取って、改装費を含めて4億5千万円。資金は、三井住友銀行の渋谷店から借り入れたんですが、半年後に、ビルを所有していた人物が、ビルを競売にかけたんです。

 それはないでしょうと訴えたら、社長が行方不明になり、電話もつながらない。当然、裁判を起こしました。どこの国でも、こういうケースは、時間がかかっても勝つと思っていましたから。

 それで勝ちはしたんだけど、代表者が破産しているのでお金は返ってこない。「特別経済詐欺事件」で、社長は起訴され、1年6か月の懲役刑を受けたものの、競売で新オーナーとなった相手に、こちらには占有権があると言っても、出ていってくれと言われ、強制執行されたんですよ。

 日本の弁護士はもちろん、あらゆる人に相談しましたが、もともとのビルの持ち主と話をつける問題で、競売は成立しているからと、どうにもならなかった。韓国の不動産バブルのころに、同様の被害者がたくさん出ていたのを知ったのは、後のことです。


――つまり、詐欺まがいの事件に巻き込まれたことになる。物件の仲介者は韓国の映画界の重鎮で、元オーナーとは同郷同村だった。韓流ブームを作りだした功績から、李さんは韓国から「特別功労賞」の栄誉を授かったりしていたが、どうにもならなかったという――


 李氏■それで三井住友銀行には、経緯を正直に言ったんですが、そんなことはあえない。審査部のほうでは、僕があやしいとなった。韓国籍の人が、日本で安い金利でお金を借りて、金利の高い韓国で運用するケースがあって、それを疑われたんですね。彼らの用語では、「金を沈めた」と。

 絶対にそれはない、と事情を説明しても、結果的に取引停止。お金をすぐに返してくれ、と言われた。そうなると連鎖して、三菱、みずほとも取引停止になる。同時期にまた、JDCの上場廃止が重なり、資金のやりくりがつかなくなってしまった。


――直営館のネーミング権の売却と整理など、リストラ策は焼け石に水。残された選択は2つだけになった。1つは、破産。もう1つは、民事再生だった。決断したのは、2010年年明け早々だった――


 李氏■破産したほうが簡単で、民事再生のほうがどちらかというと大変なんですよ。民事再生は、債務をカットして会社の再生のための道筋をつけ、再建するためのスポンサーを見つけないといけない。過去に、民事再生を果たした映画会社はないんですよ。初めてのことだけど、やってみようとも思ったんです。

──にっかつのケース(注1)は違いましたか?
※注1 : 1993年の株式会社にっかつ、および子会社6社の会社更生手続き開始の申し立てを行った


 李氏■あれは会社更生法ですね。簡単に言うと、上場会社は会社更生で、上場していないところは、民事再生を選ぶのが普通です。債権カットについては同じなんですが、更生法だと会社の役員を全部入れ替えないといけない。民事再生では、再建計画が通れば、経営者として残ることも可能なんです。

──ということは、再生した会社で、李さんは仕事をする意思をもっていたわけですね。

 李氏■そうです。それでスポンサーになってくれるところが何社かあったうちの、M&Aを何社かやっていたCさんが、「シネカノンの再生は、李さん、あなたが財産なんだから。経営者として残りなさい。10億円くらい、新たな製作資金も用意しましょう」と言ってくださった。しかし、民事再生が通ってみると、再生計画とはまったく違う展開になっていくんです。

──それはどうして?

 李氏■わからないんだけれども。Cさんの側からは、たくさんの人に迷惑をかけたんだから、あなたではダメだということなんですよね。時間が経って、冷静になってみると、彼らはシネカノンの再生に魅力を感じていたというよりも、著作権やハコに魅力を感じて、引き受けたんだろうなと。人を見間違った僕がバカだったということですよね。


――旧シネカノンは、2011年2月「ジェイ・シネカノン」として更生スタート。半年後に、李さんは、あらたに「SUMOMO」を立ち上げている――


──ジェイ・シネカノンに、李さんは、一度は在籍されたんですか。

 李氏■してないんです。債権者には、李がもう1回やるからと、説明はしたんですが。

──経営者としてはともかく、プロデューサーとして在籍されるというふうに、再生計画には書かれていたそうですが。

 李氏■そうなんですが、実際にはそうはならなかった。だから、債権者の中には、話が違うじゃないかという人は多いんだけど。一度通ったものは、裁判所では指導できない。勧告はできても。弁済率が決まっていて、それを何回か払えば、強制力はないんですよ。

 だから、ジェイ・シネカノンの現状は、映画に関わっている人間はいませんね。設立の際には、新たな映画を作るとか、配給すると言っていたんだけど。

──李さんは、どの時点で、これはおかいしいぞ、と気づくんですか?

 李氏■指示された通り人を集めて、映画を企画して、プランを説明すると「いいねぇ、やりましょう」と言われたんですが、1円も出資はされない。なんかおかしいとは思い始めていたんだけど、後の祭り。ハシゴを外されて、愕然とするわけです。

 会社更生を選んだのは、僕が作ってきた映画は、すべてオリジナルだからなんです。それらの著作権を守ろうと思った。監督とか俳優とか、協力してもらった人に対してね。過去に、映画会社が倒産したときの例を見ていますから。

権利が散逸してしまって、どこに話をしたらいいのかはっきりしないために、テレビの放映はできなくなるし、DVDにもできない。それは忍びないので、監督に印税が払われ、作品が観られる状態にしておきたいと考えての選択でもあったんです。まあ、著作権は残ったので、私も含めて著作者である監督たちへの印税は払われていくはずだと思うんだけど……。

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