• 2013/07/04 掲載

【西田亮介氏インタビュー】ネット選挙解禁で注目すべきポイントはどこにあるのか?

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2013年4月19日、インターネットを使った選挙運動を解禁する改正公職選挙法が成立した。その2カ月後、『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)を上梓した立命館大学大学院特別招聘准教授の西田亮介氏に、ネット選挙解禁の持つ本質的な意味や政治家たちの思惑、さらには法改正後初めて実施される第23回参院選(7月4日公示、21日投開票)への影響などについて聞いた。

いびつな公職選挙法改正!?

──まずは『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』の執筆の動機についてうかがいます。情報社会論と公共政策学がご専門の西田さんが、どういう経緯でネット選挙を研究テーマに選び、本書の執筆に至ったのでしょうか?

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『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』

 西田亮介氏(以下、西田氏)■もともと私は、国会議員によるツイッターの利用実態の定量分析をしていました。その結果、分析した時点で、国会議員722名のうち、ツイッターのアカウントを取得している214名の大半が、双方向のコミュニケーションに消極的で、リツイートもされていないことがわかりました。言うなれば、政治家はツイッターで空気のような存在だったわけです。そのような、普通に考えて、いびつなコミュニケーションが生まれているのはなぜなのか、と考えていくうちに、制度設計の問題、すなわち公職選挙法の欠陥に突き当たりました。現在の公職選挙法は、選挙運動期間中、政治家が情報技術をうまく利用できないようなかたちになっていることに気付いたわけです。ネット選挙に関心を持つようになったのはそれからですね。

──では、そもそも「ネット選挙」とはなんなのか、どんな問題をはらんでいるのかについて解説してください。

 西田氏■語感からして、パソコンやケータイで投票する「電子投票」というイメージがありますが、実際はそうではなく、2013年4月の公職選挙法改正によって解禁された「ネット選挙」とは、「インターネットを使った選挙運動」を指します。選挙運動というのは、特定の選挙において特定の候補や政党への投票を呼びかけるような行動のことですが、それを行う際にインターネットを使えるようになったというのが、今回の改正の本旨です。

 なぜそうした改正が行われたのか。それを説明するには、公職選挙法の構造を理解してもらう必要があります。公職選挙法では、基本的に、選挙運動はしてはいけないことになっています。ただし、一部例外があって、ビラやポスター、パンフレット、選挙カーなどの使用は、制限付きながら認められている。いわゆる「制限列挙」という形式です。ところがインターネットは、比較的新しいメディアであるため、使用できるものの中に入っておらず、事実上、これまでは使えませんでした。ところが、インターネットはこれだけ普及していることだし、法改正して使えるようにしよう、ということになりました。

 しかしながら、この改正はどうにもいびつであると言わざるを得ません。というのも、新聞や雑誌、テレビ、ラジオといったマスメディアは、従来通り選挙運動に使ってはいけないことになっています。これだけ普及したはずの電話は法的な位置付けすら乏しいのが現状です。ビラの枚数やポスターの大きさも厳しく規定されていますし、アドバルーンやネオンサインで投票を呼びかけるのもダメ。それなのに、インターネットだけは、制限はあるとはいえ、ほぼ自由に使うことができる。たとえば放送法の規制も受けるテレビは、不偏不党が要請されるので、選挙期間中、すごく気を遣った放送しかできませんが、インターネットならば、候補者に24時間密着して動画を流すことができてしまう。整合性の観点では、ネット選挙だけが解禁されるのは明らかにおかしいわけですね。

──そういういびつさがあるにもかかわらず、なぜ今、ネット選挙が解禁されたのでしょうか?

 西田氏■ネット選挙の解禁は、1996年に新党さきがけが旧自治省(現総務省)に選挙運動へのインターネット利用の可否を問い合わせて以降、長らく野党の政策でした。ところが、2012年12月の衆院選以後、とくに自民党執行部がネット選挙の解禁を押し出すようになりました。与党に返り咲いてからは、一気に法改正へと突き進みました。現職の政治家は、現行の制度で勝った経験があるわけですから、本来は自分たちの知らないものが選挙に持ち込まれて不確定要素が増えることを基本的に嫌がるはずです。知らないルールの下では、勝算が未知数になるからです。そうであるにもかかわらず、与党である自民党が解禁を推し進めた。その理由は、2012年の衆院選において、ネット選挙を解禁すれば自分たちがさらに有利になる算段が付いたからだとしか考えられません。最近の報道では、政権交代後の2009年から、自民党はネット世論の分析に取り組んできたようですね。勝てる見込みがなければ、与党が積極的に取り組むはずはありませんから、「やはり」という気がします。野党時代の民主党はネット選挙をマニフェストに入れて推進していましたが、与党になってみると鳩山内閣以外は積極的に解禁を推進することはありませんでした。

──そうした政治的理由によってネット選挙が解禁された一方で、西田さんは本書の中で、「なぜ解禁する必要があるのか」「解禁によってどんなことが起こり得るのか」といった本質的な議論がほとんどなされていない、と指摘しています。それは政治家の側が、ある程度自覚的に議論の深まりを避けているのか、それとも単に気付いていないだけなのか、どちらなのでしょうか?

 西田氏■両方の側面があります。与党は、自分たちに有利にことを進めるために解禁を押し切ろうとしたように見えましたが、かたや多くの国会議員は、「なぜ解禁する必要があるのか」という議論が必要であることに気付いてすらいなかったように感じました。「インターネットの時代だから」「インターネットが民主主義を変えるから」といった雰囲気だけで進んでいった印象があります。

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