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  • 2025/05/14 掲載

美肌のイメージ?生物学者が「コラーゲン摂取するなら肉食べる」と断言のワケ

連載:基礎科学者に聞く、研究の本質とイノベーション

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肌のつやを保つなど老化防止でコラーゲンを摂取する人は多いだろう。だが意外とそのコラーゲンの役割については知られていない。コラーゲンは実は身体の全タンパク質の約1/3を占めており、皮膚や骨、軟骨、血管、腱などさまざまな組織・器官を作るのに不可欠なタンパク質だ。一方、肝硬変といった繊維化疾患を引き起こす原因となるのだが、繊維化疾患の根本的な治療薬はまだ見つかっていない。こうした中、コラーゲンの常識を覆す発見をし、治療の可能性を切りひらいた日本人がいる。それが細胞生物学者で京都大学 名誉教授の永田 和宏氏だ。その独創的なコラーゲンとその研究について、永田氏に話を聞いた。
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身体とタンパク質とコラーゲンの関係
(ドクターウェルネスHPより編集部作成)

そもそも「コラーゲン」とは何か?

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細胞生物学者、JT生命誌研究館館長 永田 和宏氏(京都大学 名誉教授、京都産業大学 名誉教授)
1947年、滋賀県生まれ。京都大学理学部物理学科卒業。米国国立癌研究所客員准教授や日本細胞生物学会会長、アジア太平洋細胞生物学会副会長なども歴任。2009年紫綬褒章、2019年瑞宝中綬章受章。歌人としても活躍しており、朝日歌壇選者、宮中歌会始詠進歌選者、宮内庁御用掛などを務める。
――(大隅基礎科学創成財団 理事 野間 彰氏)人間の身体には約37兆個の細胞があり、細胞内では1秒間に数万個のタンパク質が作られていると言います。永田さんは、そのタンパク質の1つであるコラーゲンに関する研究で、これまでの常識を覆す発見をされました。その詳細を伺う前に「コラーゲンとは何か」からお聞かせいただけますか。

永田 和宏氏(以下、永田氏):コラーゲンは、我々の身体にある最も多いタンパク質であり、すべてのタンパク質の約1/3を占めています(冒頭の図参照)。したがって、最も古くから研究されてきました。そして、最も大事なタンパク質の1つです。

 タンパク質は、アミノ酸がつながった紐状のもの(ポリペプチド)が、折りたたまれて複雑な構造を持ったものです。小胞体(細胞内で分泌タンパク質を生成する場)で作られたポリペプチドが細胞の外に運ばれて、それが集まって束になり、コラーゲン繊維を作って、それが皮膚、骨、腱、軟骨などを作ります。年齢を重ねるとコラーゲンが徐々に減っていくので、肌のハリがなくなったり、骨がもろくなったりするのです。

コラーゲンを摂取するなら「肉を食う」?

――歳とともにコラーゲンが減るのであれば、コラーゲンのサプリメントなどを摂取したら良さそうですが…。

永田氏:残念ながらコラーゲンを食べても、そのまま私たちの身体に生着することはありません。肉を食べてもコラーゲンを食べても、すべて腸で分解されてアミノ酸として吸収され、そのアミノ酸を使って新たなタンパク質が作られます。残念ながら、食べたコラーゲンがそのまま皮膚に届いて、肌のつやを保つことはないのです。おいしい肉でも食べたほうが有意義だと個人的には思います。

――一方で、コラーゲンは"悪さ"もするんですね。

永田氏:はい。コラーゲンは肝臓や肺などの臓器や組織が繊維化することで発生する繊維化疾患を引き起こします。たとえば、肝硬変もその1つです。

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肝硬変になるまでの流れ
(日本肝臓学会『肝臓病の理解のために』より編集部作成)


 アルコールなどで肝臓の細胞が傷害を受け、死滅して空洞ができると、そこを埋める応急措置として緊急でコラーゲンが作られ、構造を保とうとします。この作用が過剰に起きれば、コラーゲンの網目状の繊維でカチカチに堅くなった状態となり、それが肝硬変となります。

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肝硬変ラットの肝臓に蓄積されたコラーゲン(左図の青色箇所)、コラーゲンだけに特異的な機能を持つHsp47(右図、後ほど詳しく解説します)
(永田氏提供)


 肝臓だけでなく、肺、腎臓、皮膚などさまざまな臓器・組織でも同じことが起こります。ですが現時点で、繊維化疾患を治療する薬は開発されていません。

もう1つ重要なタンパク質「分子シャペロン」とは

――永田先生の研究が、その治療の可能性を切りひらいたという話は、もう少し後で伺いたいと思います。その前に、それを理解するために必要な「シャペロン」についてお聞かせください。

永田氏:アミノ酸が並んだ紐状のものがポリペプチドです。ただ、ポリペプチドはそれだけでは機能を持たず、折りたたまれて、ある構造を持って初めてタンパク質としての機能を持ちます。細胞の中には10万種類くらいのタンパク質があると言われていますが、すべて形が違っていて、その特異的な構造を持つことが、特定のタンパク質の機能発現に重要になっているのです。

 そして「シャペロン」とは、ポリペプチドが正しい構造に折りたたまれるのを助けるタンパク質のことです。もともとシャペロンは、ヨーロッパの貴族の娘が貴婦人になるために部屋で着付けをしたり、化粧をしたりする介添え役を言います。そこから、タンパク質が一人前になることを助けるタンパク質として、「分子シャペロン」と呼ぶようになりました。

――そして永田先生は、コラーゲンの生成だけに働くシャペロンを発見して、従来の常識を覆したわけですね。どのような発見なのか教えていただけますか。 【次ページ】「繊維化疾患の治療」につながる世紀の大発見
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