中国IT市場の3巨頭“BAT”、そしてモバイル&リアル市場でのバトル
ここ数年、中国のIT市場は“BAT”が非常に大きな影響力を持っています。BATとは、B(Baidu:百度)、A(Alibaba:阿里巴巴)、T(Tencent:騰訊)の3社です。この3社は、メインの事業領域がそれぞれ、検索(ポータル)、EC、SNS、と被ってはいませんでしたが、実は最近はそうとも言っていられない状況にあります。特に、AlibabaとTencentの互いを意識した競合施策は、ここ1年で非常に激しくなっています。
きっかけのひとつは、TencentがメッセンジャーアプリWeChatで急速にモバイル(スマートフォン)サービス分野での存在感を増したことです。もともと彼らはインスタントメッセンジャーQQで、社会インフラと言える規模のプラットフォームを構築していましたが、WeChatによってスマートフォンでも成功を収めつつあります。しかも、WeChatは単なるメッセンジャー機能だけではなく、コマース機能も有します。そして、WeChatをプラットフォームとして中国におけるインターネットサービス全般での消費者の取り込みにかかっています。
日本ではスマートフォンの普及とともにモバイル(スマートフォン)コマースが急成長していますが、中国もモバイルは成長分野です。AlibabaはPCを中心とするEC分野では、前述のとおり圧倒的シェアを持っていますが、モバイル分野ではそこまでのシェアを持っていません。そこで、Alibabaはここ最近モバイル戦略を急ピッチで強化し始めているわけです。
たとえば、Tencentがタクシー呼び出しアプリDidi(嘀嘀打車)をやっていれば、AlibabaもKuaidi Dache(快的打車)で対抗しています。Alibabaはアリペイ(AlIPAY)とモバイルとを活用したO2O戦略、OfflineからOnlineへの取り込みにも目を向けています。レストランやちょっとした買い物などリアル決済分野までアリペイを対応させるなど、いわば消費者の“消費”に関わる部分全てにチャネルを持とうとしています。
互いに得意領域の異なっていたAlibabaとTencentですが、それぞれの境界線はボーダレスになりつつあります。Alibabaは、ECからその先へ、TencentはSNSからその先へと目を向けています。もちろん、EC分野、特に成長分野のモバイルコマースの分野においては、彼らの競争による影響は大きく出てくるでしょう。
なかなか一筋縄では把握しにくい中国EC市場ではありますが、日本企業にとってもやはり重要な市場です。まずは表面的な数値や事象で納得するのではなく、それらが意味するもの、意味しないもの、どこに影響が出るのか精査し、なるべく実態に即した把握をすることが何より重要であり、スタートラインであるといえるでしょう。
中国EC市場のメインはCtoC
中国EC市場は、Alibaba(阿里巴巴)を抜きにして語れません。CtoCのタオバオ(淘宝)、BtoCのTmall(天猫)は、いずれの市場でトップシェアを維持し続けています。特に、タオバオはCtoC EC市場でのシェア90パーセントを超え、圧倒的強さを誇ります。
ところで、今更ですがCtoCとはなんでしょう? Consumer to Comsumer、つまり一般的には個人間取引を指しますね。たとえば、わかりやすい例で言えばネットオークションなどがそれにあたります。
中国のEC市場は、2013年でCtoCが64.9パーセント(iResearch調べ)を占めます。つまり「中国EC市場は、個人間取引がメインの市場である」と言えそうです。
ところが、結論から言えばこれは必ずしも正しい見方ではありません。タオバオはたしかにCtoCのプラットフォームですが、実際は個人商店から中小規模の企業まで、“個人”以外の売り手が多く参入しています。つまり、BtoC的な取引も非常に多く含まれるわけです。これは、実際タオバオに出店している企業などにとっては当たり前の事実ですが、私も「中国は個人間の取引がメインなんでしょう?」「中国はCtoC ECが活発だが日本市場の将来性は?」という質問をされることが時々あります。
日本でも、弊社などの民間リサーチ会社や経済産業省などが国内のEC(電子商取引)市場規模を推計・公表していたりします。しかし、単純に数値のみで中国市場を比較してしまうと、実態が正しく見えてきませんので注意が必要です。