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  • 2015/12/21 掲載

いまだに改善されない「薬漬け医療」問題にひそむビジネス的カラクリ

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医療界はつねづね、批判にさらされがちだ。人命に関わる重い責任を負うこともあり、マーケットとして巨大な産業であることもあり、何かと問題が尽きず、世間の厳しい目が注がれるのも当然だろう。だが、それにもかかわらず一向に、問題解決の兆しは見えないように思える。「患者の薬漬け」問題もその一つだろう。政府も、官公庁も、業界も、全く手をこまねいているわけではないはずだ。ではなぜ、解決できないのか? 実際の現場を知る医師がみずから、業界に根付くビジネス構造を説き明かしてみせる。

精神科医 和田秀樹

精神科医 和田秀樹

1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『比べてわかる! フロイトとアドラーの心理学』『自分が自分でいられるコフート心理学入門』(以上、青春出版社)、『自分は自分 人は人』『感情的にならない本』(以上、新講社)など多数。

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医薬分業でも薬が減らないカラクリ

「こんなにたくさんの薬を飲んで大丈夫だろうか?」

 調剤薬局で受け取った大量の薬を見たら、誰しもこんな疑問を抱くと思います。

 ところが、医者自身も「こんなにたくさんの薬を飲んで大丈夫かな?」と思いながら処方箋を書いていたとしたら、皆さんはどう思いますか。「ちょっと待ってくれよ!」と言いたくなるはずです。そんなことが現実に起こっているとしたら…。

 日本の医療は専門分化型になっています。大学病院に行くと、昔だったら内科は1つしかなかったのに、いまは「循環器内科」「消化器内科」「呼吸器内科」「腎臓内科」「糖尿病内科」「神経内科」…というふうに細かく分かれています。

 専門分化が進んだことによって、それぞれの分野で治療が進化した面ももちろんありますが、実は現在では専門分化型医療の弊害のほうが目立ってきているのです。それは医者自身が自分で開業してみて初めてわかる事実かもしれません。

 たとえば、外科を専門にやってきた医者が、開業の際に外科では患者さんがあまり来ないからという理由で、「内科、小児科、耳鼻科」などと掲げることもあります。「外科が専門なのに?」と疑問を持つかもしれませんが、医師免許さえ持っていれば、麻酔科を除いて、どの科を標榜しても構わないと国が認めているのです。

 大学の医学部では全科を履修しなければならず、1科目でも落とすと卒業することはできません。国家試験もいまは、すべての科目を取り混ぜた総合問題形式で出題されています。つまり、基本的に医者は医学全般の知識を持っているわけですから、開業の際に自分の専門以外の科を標榜することに何ら問題はないわけです。

 ただし、自分の専門以外の分野については十分なトレーニングを積んでいないので、自信を持って対応しているとは言い難い面があります。とは言っても、「実は胃腸のことはあまり詳しくなくて…」と、患者さんに不安を与えるようなことを言う医者はいません。

 では、どうしているのでしょうか。それは、自分の知識のなさを補うために、多くの薬を出しているのです。

専門以外の科を標榜する医者が薬を増やす

 自分の知識だけでは心配な医者は、『今日の治療指針』(医学書院)といった医学専門のハンドブックを開いて治療法を調べたり、処方すべき薬を決めたりしています。

 ハンドブックには標準的な治療法と薬の名前や用法・用量も出ているので、自分の専門外の知識を得るのに非常に心強いわけですが、標準治療として推奨されている薬は、たいがいどんな病気に対しても1種類ではなく2種類とか3種類ぐらいあるのです。

 そうすると、心臓病の患者さんを診ているときに、「実は骨粗しょう症もあるんです」「血糖値が高いと言われました」「喘息も持っているのです」「胃潰瘍もあります」と言われると、「そういうことなら…」ということで医者もそれらの薬を処方するわけですが、たとえば1つの病気や症状に対して3種類の薬を出さなければならないとしたら、全部でだいたい15種類の薬を出すことになるわけです。

「さすがにちょっと多いなあ」と医者自身も思っているはずですが、総合的な判断ができず、どうやって量を減らしたらいいのかわからないのです。特に自分の専門ではない病気については、どの薬を削ったらいいのか、ほとんど判断がつきません。

 このように人の健康状態を総合的に診るような医療システムがないまま、現在の臓器別診療、専門分化型診療がこのまま続くと、薬を大量に消費する状況は一向に改善されないことは目に見えているのです。

薬や検査が減ると高齢の患者さんは元気になる

 医療費が年々増えて国の負担が大きくなってきた1990年代に、このまま医療費を膨らませるわけにはいかないということで、慢性疾患を抱えて長期入院をしている患者さん(通常は高齢者)を対象にした病院(療養病床と言いますが、当時は老人病院と呼ばれていました)について定額制が導入されました。

 それまでは長期入院の患者さんに対して病院側は、いろんな検査をしたり、点滴漬けにしたり、薬漬けにしたりして儲けを出していたのです。検査をすればするほど、薬を出せば出すほど儲かるからです。

 ところが定額制の導入によって、どんなに検査をしても、どんなに薬を使っても、医療費が定額になったのです。ですから、病院が定額以上の治療や検査を行っても、医療保険から治療費は支払われないわけです。

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 一定額を超えて薬を出したり、検査をしたりすればするほど病院側の損になってしまうのであれば、病院もやっていけません。ですから、今度は治療と投薬を必要最小限に抑えるようになります。検査も薬もできるだけ減らせば、利益が増えるからです。

「そんな手抜きみたいな治療をしたら、患者さんの状態が悪くなるだろう」そう考える人もいると思います。特に高齢の患者さんの薬や検査を減らしたら危険ではないかと心配する人もいるでしょう。

 ところが皮肉なことに、検査も薬の投与も減ったことで、逆にお年寄りの患者さんが元気になってベッドから出て歩くようになったのです。

【次ページ】 「先生、銀座のクラブに行きましょう」

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