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- 2016/08/04 掲載
ソフトバンク孫社長はARM買収で「シンギュラリティ」を先取りしようとしている
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ARM買収のきっかけは40年前のソフトバンクの原点そのもの
さらに世間を驚愕させたのが、約3兆3000億円というあまりにも巨額な買収金額である。過去にソフトバンクが行ってきたボーダフォン日本法人買収の1兆7,820億円、米スプリント買収の約1兆8,000億円と比べても2倍に近い金額なのだから、にわかには理解できないのも無理はない。実際、翌7月19日の株式市場はソフトバンク株が急落した。
なぜ孫正義社長は、このような大胆な買収に踏み切ったのだろうか。もちろん単なる勢いでこんなことをやれるはずがない。すべての始まりは、いまから約40年前の孫社長がまだ19歳だったときのこと。カリフォルニア大学バークレー校の学生だった孫社長の目にとまったのは、読みかけのサイエンス雑誌に掲載されていた1枚の摩訶不思議な写真。それがマイクロプロセッサーの拡大写真であることを、そのとき初めて知ったのである。
「大きなコンピュータが指先に乗っかるサイズになった。ついに人類は、自らの知性を超えるものを自らの手で作り出してしまったという思いに手足がジーンとしびれ、涙が止まらなかった。そのときの感動と興奮を、これまでの40年間にわたって潜在意識に中にずっと封印していた」
まさにその封印を解いたのが、ARMとの出会いだったわけだ。
ARMはソフトバンクグループの中核の中の中核となる
ARMは半導体会社といっても実際にチップを作っているメーカーではなく、マイクロプロセッサーの設計に特化した企業である。では、どんなメーカーがARMからライセンスを購入しているのだろうか。たとえばアップルのA9プロセッサー、クアルコムのSnapdoragon 810、NVIDIAのTegra X1など、スマートフォンやタブレット、ウェアラブルデバイスに搭載されている主要なプロセッサーのほとんどにARMのアーキテクチャーがコアとして採用されている。それだけではなない。ありとあらゆる組み込み向けの電子機器がARMのライセンスを導入して製造されているのだ。
孫社長によると、これらARMのアーキテクチャをベースとするチップの出荷数は、2015年の1年間だけで世界の総人口の約2倍に相当する148億個に達しており、今この瞬間も爆発的な製造を継続している。
ただ、こうしたARMの市場性や収益力の高さが買収の直接的な引き金になったわけではない。仮にそうだとすれば、多くの投資家たちが判断したとおり、既存事業とのシナジーなどまったく期待できない単なる巨額の買い物になってしまう。
孫社長は、今回のARM買収を囲碁の「飛び石」に例える。「囲碁を知っている人ならわかると思うが、碁石のすぐ隣に打っても勝てない。10手先、20手先、50手先を見据えて、なぜその1点に打たねばならなかったのか、後々になってその石が生きてくる。今回の買収の意味も10年先、30年先にわかってもらえる。その頃にARMは、ソフトバンクグループの中核の中の中核となる」。
あらためて考えれば、ソフトバンクグループに事業の連続性を問うこと自体がナンセンスなのかもしれない。現在のソフトバンクに対する世間のイメージは、モバイルを中心とした通信キャリアといったところだ。
だが、そのイメージが定着したのは、わずか10年前のボーダフォン日本法人の買収からである。創業からしばらくのソフトバンクはソフトウェア流通や出版の会社であり、その後の米Yahoo!と共同で設立したYahoo! Japanを核にインターネット企業になるといった流れで、本業そのものを大きく変遷させてきた。
パラダイムシフトを繰り返しながら次のステージへと進化していくことがソフトバンクグループの本質であり、今回のARM買収はその布石なのである。
【次ページ】今から20年以内に世界中に1兆個のチップをバラまく
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